71話
その後俺たちサッカー部は再始動した。
約束通り本当にサッカー部に復帰するだろうか?と危惧された2年生の部員たちだが、彼らのモチベーションは一気に上がった。むしろ1年生の方がそれに付いていくのに戸惑うほどだった。俺たち1年生にやられたことがよほど悔しかったのだろうか。……いや、悔しいと思えるほどには彼らのサッカー愛は冷めていなかったということだろう。
……いや、そんな七面倒なごちゃごちゃしたことじゃない。シンプルにサッカーボールの魔法だ。サッカーには人をそれだけ夢中にさせてしまうだけの魔力があるということだ。
ボール1つと仲間さえいれば(まあ1人でもリフティングだとか壁当てだとか遊べるが……誰かと一緒の方が楽しいだろう?)、何処でも誰とでもプレーできる、最もシンプルなルールのスポーツ。そんなものが世界中で最も多くの人を未だに熱狂させているのだ。サッカーボールに強力な魔力が込められていなければ、そんなこと説明がつかないだろう?
太一は将棋の世界に戻っていった。
学校も授業が少なくて済む通信制の高校に転校してしまった。
「もう一度勝負の世界に戻ってみたくなってね。師匠に土下座したんだよ」とのことだ。
一度諦めた将棋の世界に戻るために、アイツには相当なハードルがあったはずだ。
親を説得して、師匠にもう一度頭を下げて……何よりブランクが生じてしまった自分自身の将棋の力を信じることは簡単ではなかったはずだ。
もちろん俺は引き留めた。『サッカーやろうぜ。お前ならきっとスゴイ選手になれるし、お前と一緒なら俺も見たことのない景色が見られると思うんだ!』
今思い返すとクサくて小っ恥ずかしいセリフそのもので身悶えしてしまうが、まあ本心ではあったと思う。それに対して太一が返した「サッカーなんて簡単過ぎてつまんないよ」という言葉は……アイツらしい強がりだったと思う。
でも……太一が自分の道を進むのなら、俺も出来る限り自分の選んだサッカーを楽しみたいと思う。太一とプレーした2週間は俺のサッカー観を間違いなく変えた。太一もあの試合をきかっけに何かが変わったはずだ。だから将棋の道に戻ることを選んだはずだ。
だけど……いつか太一とはまた一緒にボールを蹴るんじゃないかと思う。それが10年後でも20年後でも構わない。その時アイツに負けないために俺は精一杯のサッカーをしようと思う。
(おわり)
ふわふわまるまる飛車角 きんちゃん @kinchan84
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます