第47話 ここは柳城

「えっと……こっちか」



 俺はスマホの画面に表示された地図を見ながら歩く。片手にはエムドエヌドの袋をぶら下げながら。



「師匠。本当にありがとうございます。きっとあのままではキッズセットを食べながらオマケを眺める事しか出来なかったでしょう」


「それ、結構余裕あるよな?」



 結局、あのまま放置する事ができなかった俺は、スマホの地図アプリを使って時雨の家まで送っていくことにした。

 地図を見せて懇切丁寧に教えても無駄だったからだ。

 試しに道を教えた後、「わかりました」って言葉を信じてその姿を見送ったんだけど、二つ先の交差点を右って言ったのに、三つ先の交差点を左に行ったからだ。



「で、この教えて貰った住所は合ってるんだよな?」


「はい。私、記憶力には自信があるのです」


「道は覚えれないのに?」


「道は覚えれません」



 開き直っただとぅ!?



「まぁいいけどさ……。家まで送ったら俺はすぐに帰るからな?」


「キッズセットパーティはどうするのですか? オマケ開封イベもあるのですが?」


「誰も参加するなんて言ってないぞ!? オマケ開封イベってなんだ!? 動画でもサイトに上げるの!?」


「そんな事はいたしません。ただ開けて鑑賞するだけです」



 そんなの一人でやれよ……。つーか彼女いるのに他の女の子の家に上がる訳ないだろうが。

 なに? 師匠は男として見られてないの? 少しは危機感とか持てよ。自分の見た目のレベルの高さを分かってないのか?



「はぁ……。まぁいい。もう少しで着くぞ」


 確か武士と騎士の血を引いてるんだっけ? きっと豪邸なんだろうなぁ。もしくはその逆をついて貧乏とか? まぁ、そんなのはラブコメのヒロインくらいか。普通の一軒家とかだろうな。


 そう思ってた俺が間違いでした。想像の斜め下に行ってから一気に急上昇した感じ。



「……時雨。家、ここ?」


「はい。ここで間違いないです。ここが柳城です」


「いや、城といえば城だけども……」



 俺の目の前にそそり立つのはまさに城。城っていうかキャッスル。

 白亜の壁にピンク色のとんがり帽子。門横の壁にはかまぼこの板みたいなものに書かれた【柳】の文字。

 その下には【ラブラブキャッスル ご宿泊六千円 ご休憩三千円 フリータイム四千五百円】と書かれている。



「……ラブホテルじゃねぇか」


「はい。実はここ、経営不振でつい先々月に売りに出されていたようでして、ドイツ産まれのお父様が「ココこそが我が家に相応しい!」っと言って即購入したのです。部屋も多い上に広くて、武士の血を引くお母様は、ワンフロアを道場に改築いたしました。お兄様の部屋は全て鏡張り。ちなみに私の部屋のベットはクルクル回るのです」


「回るのかぁ……」


「はい。ただ、困った事がありまして……」


「困ったこと?」


「はい。時々ここがまだ営業していると思って利用しに来る人がいるのです。つい先週も体育教師の反町先生と、数学教師の伊木杉先生が来たんです。私は抜き打ち家庭訪問かと思って対応したのですが、どうやら違うみたいでした。絶対誰にも言わないように私に言ったあと、すぐにどこかに行ってしまいましたが……」


 そりゃ違う抜き打ちだな。てかあの二人がか……。独身貴族と御局様のまさかのカップルはキッツ……。よし、今度何か怒られたらそれをネタに許してもらおう。てか言わないように言われたのに言っちゃってるぞ。いいのか?

 ま、それはともかく俺は手に持っていたエムエヌの袋を時雨に渡す。



「じゃ、俺は帰るわ。ちゃんと家まで送り届けたからな。ミッションコンプリートだ」


「はい。師匠ありがとうございました。モモピュアの新しいフォームの衣装が完成したのでお見せしたかったのですが、残念です。これ宜しかったらご家族で食べてください」



 そう言って渡して来るのは俺が返したはずのエムエヌのバーガーの入った袋。

 てかモモピュアの新衣装だと!? くっ、見たいっ! けど、ここで見に行ったら浮気になる。ダメだ。俺は帰るんだ!



「じゃ、また学校で──」



 俺がそう言ってその場から立ち去ろうとした時だ。



「む、杏太郎か?」

「え? 日野くんですの?」



 俺に声をかけた人物。それは、腕を組んで歩いている遥と音原だった。



「チガイマス」





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【御子柴くんは今日も私に脅される】

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