第48話 ようこそみなさん、我が家へ

「チガイマス。チガイマスヨ」


「師匠、いきなりどうしたのですか?」



 時雨ぇぇぇ! この二人の前で師匠って呼ぶなぁ!



「杏太郎、お前師匠なんて呼ばれてるのか? しかもその人俺たちの高校の先輩だよな?」


「そうですわね。確か……柳先輩ですわ。以前、書道で表彰されていましたもの」


「それがなんで杏太郎を師匠なんて呼ぶんだ?」


「お二人は師匠のご友人ですか? 私、師匠の弟子の柳時雨と申します。歳は十七歳。乳歯がまだ三本残っています」



 乳歯!? 自己紹介にその情報いる!?



「だぁぁぁぁっ! もうっ! なんやかんや色々あってそう呼ばれるようになったんだよ! 遥も音原も詳しくは聞くなっ!」


「そうなのです。師匠の熱い剣が私の奥底を貫いたのです。こんなのは初めてでございました……」



 だから言い方ぁ! そして場所を考えろぉぉぉ!!



「杏太郎……お前とうとう。そういえばここは……」


「蓮川君、先を越されてしまいましたね……」



 ほらやっぱり誤解されたぁ! ですよね! ラブホテルの前ですもんねっ! でも違うんだよ! ここはラブホテルだけど時雨の家であって、ラブホテルじゃないんだよ!

 くっ……自分でも頭がこんがらがってきた!


 あれ? つーかお前らまだだったの? へー! ほー! ふーん……。


 ってそれどころじゃない。ここまで誤解されたとなると、きちんと解かないとなんか色々マズイ。

 俺にはちゃんと海琴さんという彼女がいるのだ!



「いや、俺と時雨はそういう関係じゃなくてだな?」


「杏太郎、ここから出て来ておいて何を言う。しかも名前呼びじゃないか」


「いや、それにも色々と訳があるんだけど……」



 こ、これなんて言えばいいんだ? 俺は師匠だから名前で呼んでる(名前で呼ぶことを強要されただけだけど)とか、ここが時雨の家だって事は言ってもいいのか? いや、さすがに女の子が自分の家がラブホだって言われるのは嫌だよな……。

 こ、これはいったいどうすれば……。



「師匠にみなさん、ここでお話するのもなんですから、私の家に入りませんか? お部屋はたくさんありますので。それにキッズセットもたくさんあります」


「んなっ!?」



 お前何言ってんの!? 俺の気遣いが吹っ飛んだわ! そしてどんだけキッズセットのバーガーを消費したいんだよ!



「蓮川君、どうします?」


「せっかくだからお邪魔しよう。杏太郎から話も聞きたいしな。柳先輩、案内よろしくお願いします」



 あーあ。言っちゃった。俺知らねーぞ。

 これは浮気じゃないからな。遥達もいるし、俺は行きたくないのにほぼ強制的に連れていかれるようなもんだからな。



「はい。ではこちらです」



 そう言って時雨は城門の先の自動ドアの前に立った。



「「…………え?」」


「どうかしましたか? あぁ、言ってませんでしたね。ここが私の家なのです。客室は一階のハニーシュガーシロップ木馬フロアにあります。案内致しますね」



 なんつー甘そうな名前だ。最後の木馬が気になるけど気にしない。しないったらしない。


 そして俺は前を歩く時雨のあとを嫌々ついていく。その途中で遥達がいない事に気付いて後ろを向くと、そこには目を開いたままで立ちすくみ、何回も自動ドアを作動させている遥達の姿があった。


 あ〜……まぁ、そうなるよなぁ。


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