第49話 モモピュア参上×2

 そして時雨に案内されて通された客間。

 ドアを開けると、天井にはシャンデリア。床は畳張り。壁は白で統一されている。多分十二畳くらいか?

 まるで一階が和室で二階が洋室の家の真ん中を、だるま落としでぶち抜いたみたいだ。



「今、お茶をお持ち致しますね」



 時雨はそう言うと部屋を出ていく。その姿を見届けてから俺は遥達二人に向き直った。

 今がチャンス。時雨が余計な事を言わない内に話を済まさないと。



「おい、今のうちに説明しておくぞ。俺と時雨はなんでもない。ホントに何でもないんだ。たまたまアイツが昔の俺みたいな事をやってて、それについつい口出ししたら師匠なんて呼ばれる羽目になったんだよ。遥ならわかるだろ? あの頃の俺が」


「あぁ、あの頃か。確か──」


「いい。言わなくていい。やめろ。俺を殺す気か。そして音原には悪いけど、こればっかりは言えないから遥には聞かないでくれ」


「わかりましたわ」


「そしてそれも一ヶ月だけだ。一ヶ月経って、俺が時雨を弟子と認めないって言えば終わるんだ」


「杏太郎。それはつまりお前はあの先輩に対して恋愛感情は持っていないってことか?」


「持ってない。これっぽっちも持っていない。確かに可愛くて綺麗でスタイルもいいけど、それは絶対に無い。なぜなら……あぁくそ、ホントならもっと大々的に自慢するつもりだったんだけどな……」


「ん? 何をだ」



 俺は、ホントなら海琴さんと一緒にデートしてる時に遥達に会って、「この人? あぁ、俺の彼女だけど?」見たいな感じでドヤる計画を捨てた。



「いいか? 今から言うのは夢でも妄想でも変な宗教に引っかかってる訳でもないからな?」


「なんですの?」


「俺には……彼女が出来た。しかも今日だ。前に話したよな? エムドエヌドのお姉さんだ。大学一年生のお姉様だ」


「そうか……熱が出たか……」


「だーかーらー! そういうのじゃないって言ってんだろうが! 実は前から連絡先は交換しててな? まぁ、それにも色々とあったんだけど、それは内緒だ。で、今日のデートで付き合う事になった」


「あら! おめでたいではないですか! 音原家のホテルでパーティーしましょう!」



 音原、お前は自分んちのホテルでパーティーしたがるな。そしてそのほとんどの理由が、俺を晒し上げる事になってるのに気付いてないのか? コノヤロウ。



「杏太郎、それは騙されてるとかでもなくか?」


「それは無いと思う。結構間が抜けてる人だから、騙すとかに向いてない人な気がする」



 あんなに感情表現が豊かな人だしな。あの嬉し涙は本物だと思う。 あれがもし嘘だったら、俺はこれから誰も信じれないぞ。



「そうか。まぁ、とりあえずおめでとうと言っておこう。良かったな、杏太郎」


「おうよ!」


「で、先輩がいないうちにその説明をしたのはなぜだ?」


「ん? そりゃあれだ。なんとなくだ」



 嘘だけどな。時雨のマイペースと、いきなり何を言ってくるかわからない恐怖。どんな身に覚えの無い爆弾を投げて来るかわからないからな。

 お茶を取りに行ったみたいだけど、戻ってきて一杯飲んだらすぐ帰らないと。

 海琴さんにメッセも送りたいし。


 ガチャ


 ちょうどその時入口のドアが開いた。


 よし、すぐに帰ること伝えておかないと……んぁ?



「お待たせいたしました。お茶がなかったので豆乳です。ポテトも冷めてしまったので、もう一度揚げ直して、バーガーもバンズの部分を少し焼いてきました」



 いたせりつくせりで帰りずらいんだが!?


 つーかそれよりもだ! なんだその格好はぁぁぁ!?



「そして師匠。師匠が見たがっていたモモピュア劇場版衣装を着てきました。いかがですか?」


「杏太郎、お前……」


「待て、誤解だ。誤解なんだ」


「音原、どう思う? 彼女が出来たのに弟子にコスプレさせる男を……って、音原?」



 愛しの遥が呼んでも返事をしない音原。おかしいと思って遥と同時に視線を向けると、音原はやけに目を輝かせながら時雨を見ていた。

 おい、まさか……。



「や、柳先輩っ! それはモモピュアですわね! しかも劇場版のラスト数分でしか映らない最後の必殺技を放つ時の! あ! 私、一年の音原と申します! もしかして手作りなのでございますか!?」


「お、音原? どうした?」



 お? 珍しく遥がキョドってる。



「音原さん、よろしくお願いします。それでさっきの質問ですが、もちろん手作りです。市販の物はサイズが合わないので……」


「わかります! わかりますわぁ〜! 特に胸囲が合わないですの!」


「そうなのです。見たところ音原さんも大きいですよね? 音原さんさえ良ければ、他にも自作の衣装があるので着てみませんか? 胸囲は私に合わせてあるので、音原さんでも入るとは思うのですが……」


「ぜひお願い致しますわっ!」


「ではこちらへ……」



 そして数分後。



「モモピュアファイナルフォーム! ですわっ!」


「モモピュア、唯我独尊フォームになります」



 俺と遥の目の前には、巨乳のモモピュアが二人、ポーズを決めて立っていた


 ちなみに遥は……



「お、おと……はら?」



 ちょっと白目を剥いていた。どんまい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る