第50話 尋問スタート

 現在、俺と遥はお互い無言で家までの帰り道を歩いている。

 日が長くなってきたせいか、まだ少し明るい。もう少し経てば街灯がつくのだろう。



 ちなみにあの後は大変だった。

 意気投合した時雨と音原が交互に色んな衣装に着替えてポーズをとる。

 そして俺は時雨に。遥は音原に頼まれてその写真を撮る。ポーズを変えてまた撮る。無心で。

 その途中で音原のスマホが鳴り、家族からの呼び出しが来た所で解散。俺もそれに乗っかってラブホ……じゃなくて時雨の家から抜け出したのだ。


 そして隣には魂の抜けたような遥。

 こんな姿を見るのはホントに珍しいから、さすがにちょっと可哀想になってくる。

 声でもかけてみるか……。



「あ〜……その、アレだ。音原もモモピュア好きだったんだな?」


「……あぁ。どうやらそのようだ。俺も今日初めて知った」


「ほら、人の趣味なんてそれぞれだからな。気にすんなよ?」


「気にする? いったい何をだ?」


「え、だってお前すごい顔して写真撮ってたじゃねーか」


「あぁ、あれは音原が可愛すぎてな。つい無心になっていただけだ。その証拠に俺のスマホの待受画面は、すぐにさっき撮った音原にした。それにそれを言ったら杏太郎、お前こそ酷い顔をして写真を撮っていたじゃないか。まぁ、その顔を見て初めて、お前があの先輩に恋愛感情を持ってないって分かったがな」


「設定はえぇよ。そしてそんなん待受恥ずいわ。つーかあれは俺のスマホじゃねぇよ。よく見たか? あの羽根の生えたスマホカバーを。あんなんつけねーわ。師匠師匠うるさいから撮っただけだっつーの」




 いや、まーじで持ちにくかった。ホントに羽根ジャマ。つーか写真だって、「師匠! 自分で撮るのに限界を感じていたのです! お願いします。撮って頂けませんか? どんなポーズでもしますから」って言われてしょうがなく撮っただけだ。下心は無い。ホントに。………多分。

 俺のスマホのアルバムは見せれないけども。



「そうか? 昔のお前なら嬉々として付けてそうだけどな」


「やかましい」


「まぁそれは別にいい。それでどうするつもりなんだ?」


「どうするって……なにを?」


「彼女が出来たことだ。華原には言ったのか?」


「なんでそこで乃々華? まだ言ってねーよ。だって今日出来たばかりだぞ? 遥達にだって、会わなきゃ言うつもりはなかったしな」


「そうか」



 おかげで俺の偶然会ってドヤァ〜計画が頓挫だよ。あ、乃々華にならまだ通用するか。いやでもな……昨日変な空気になったばかりだし、何となく少し距離を置いた方がいいような気がしないでもない……。

 なんでこんな事が頭に浮かぶのかはさっぱりわからんけど。



「あ、ちゃんと俺から言うから、遥達は言うなよ?」


「言わないさ。むしろちゃんとお前から言った方がいいだろうしな。っと、もうココか。杏太郎、じゃあな」



 いつの間にか俺の家と遥の家の分かれ道まで来ていたらしい。



「あぁ、明日な」



 お互いに軽く手を挙げて挨拶。そして背中を向けた。

 家に近づくと、母さんの車が停まっているのが見える。

 俺は一度深呼吸をして、今日の事を根掘り葉掘り聞かれる覚悟を決めるとドアを開けた。



「ただいゴフッ!」



 なんだ!? なんで背中から衝撃が!?



「杏太郎おかえりっ! 窓から杏太郎の歩いてる姿が見えたからママの車に隠れてたのだ! ドッキリだ〜いせ〜いこ〜う!」


「それドッキリじゃない……攻撃だ……」


「杏太郎杏太郎! それでデートはどうなったのだ!? 彼女!? 彼女になった!?」


「それ、母さんも気になる気になる〜!」



 体当たりされたせいで玄関にうつ伏せになった俺の上に姉さんが乗り、リビングからは母さんまでニヤニヤしながら出てくる。

 言うからせめて助けてくれ。後クネクネするな。母親のブリっ子はキツいぞ。



「母さん、歳を考えようよ」


「…………うふふ。杏太郎? ちょっと母さんとドライブ行こっか? 新しいブレーキパッド入れたから、その効きを確かめに」


「ごめんなさい。勘弁してください。お母様は若くて綺麗です」



 絶対いやだ。あのヨコGは吐く。どこぞの豆腐店じゃあるまいし。



「わかればよろしい。乃亜ちゃん? 杏太郎の上からどいてあげて。今日の事はご飯の時に聞こうね♪」


「うんっ!」



 ◇◇◇



 で、部屋着に着替えた俺はキッチンの椅子に座っている。目の前には母さんと姉さん。


 そしてテーブルには今日の夕飯が並んでいる。



「それで…………どうだったの? あの子とはどこで会ったの? あんな綺麗な子と仲良くなるなんてさすが母さんの子! で、あれからどこ行ったの? もしかしてもう彼女だったり?」


「だったり!?」



 怒涛の勢いで聞いてくる母さんと、それに便乗してくる姉さん。

 さて、どこからどこまで話せばいいんだ? 今日付き合ったばかりだし、そもそも付き合うまでが早かったからそこまで海琴さんの事を知ってるわけじゃないんだよな。

 これで嬉々として喋ってすぐにフラれたりしたら恥ずかしいしなぁ……。




 ──近況ノートに【柳 時雨】のイメージイラストを載せました。宜しければそちらもご覧下さい。


 …………すんごいですよ?

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