第51話 お姉ちゃんらしく

「と、いうわけで今日から付き合うことになった感じだな」



 結局話したのは部活帰りに知り合って、それから話すようになって付き合うことになったってことだけ。もちろん、「年上とどこで知り合ったの?」みたいな事聞かれたけど、その辺はなんとか誤魔化した。



「そっかそっかぁ〜! 杏太郎にもとうとう彼女が……。蓮川君達を見て血の涙を流す日々がやっと終わるのね……」



 おぉぉぉい! 言い方ぁ! それが親のセリフかよ!



「きょうちゃん……」


「ん? なに? 姉さん」


「んーん、なんでもない。乃亜はもうおなかいっぱい。部屋でゲームしてくる」


「え? 姉さん?」



 姉さんはほとんど食べずに箸を置くと立ち上がり、キッチンから出て階段を上がっていく。



「か、母さん。姉さんは……?」


「ん〜? 多分さみしくなっちゃったのかも?」


「さみしく?」



 いったいどういう事だ?



「ほら、乃亜は確かにお姉ちゃんだけど、やっぱりまだ精神的には幼いのよ。長い間寝ていたせいもあってね。だから、杏太郎をその彼女さんに取られたって感じてるんじゃない? 家にいる時って結構ベッタリだったでしょ? 母さんも夜勤とかあるし」


「あ、うん。まぁ……」


「だけど、いい機会かもしれないわね」


「いい機会って?」



 なんだ? 何かあるのか?



「弟離れよ。あと、復学に向けての準備ね」


「復学!? 今の通信を辞めるってことか!?」


「だんだんにね。ちゃんと決めるのは乃亜と話してからになるけど。今のままじゃダメなのはわかるでしょ? 母さんだってずっと見ていられるわけじゃないし、それは杏太郎も一緒」



 ま、まぁそうだけど……。



「元々頭のいい子だったから、今の時点でもう中学三年の授業内容に入ってるみたいなの。だから上手く行けば来年から高校に入れるかもしれないって先生は言ってたわ」


「そうか……姉さんが……」


「けどまぁ急にどうこうするってわけじゃないから、杏太郎は気にしなくてもいいわよ。普段通りにしてくれてていいから」


「わかった。俺が口出せる問題でもないしな」


「さっすが私の息子♪」


「やっかましい! ふぅ……まぁいいや。とりあえず食べたら姉さんのところ行ってくるよ」


「じゃあ少し待ってて。あの子全然食べてないから、残ってるおかずでサンドイッチ作るわね。それ持って行ってあげて」


「りょ〜うかい」



 ◇◇◇



 母さんからサンドイッチを受け取った俺は、姉さんの部屋をノックする。



「乃亜はいませ〜ん」


「いるじゃん。姉さん入るよ」


「あ、良いって言ってないのに入ったぁ〜! きょうちゃんエッチだ!」



 なんでだよ。



「これ、母さんが。姉さん全然食べてなかったからサンドイッチだってさ。腹減ってるだろ?」


「食べるっ!」


「どーぞ」



 どうやらゲームで少しは気がまぎれたのか?

 これならちゃんと聞けるか。


 そう思って俺は、両手にサンドイッチを持って夢中で食べてる姉さんに声をかけた。



「姉さん、俺に彼女出来たの嫌だったのか?」


「……嫌」


「なんで?」


「きょうちゃんと一緒にいる時間が減っちゃうのだ。乃亜はきょうちゃんが好きなのに、ほかにもきょうちゃんのことを好きな人が出来ちゃったのだ。だから嫌……



 母さんの言ってた通りか。

 ……ん?


 姉さんはあっという間に全てのサンドイッチを食べると、一緒に持ってきたお茶を飲んでコロンと転がる。俺の膝の上に。



「姉さん?」


「……乃亜はきょうちゃんの膝枕が好き。きょうちゃんのシチューが好き。きょうちゃんの怒る声が好き。でも、きょうちゃんが嬉しい顔してるのが一番好き」


「…………」


「だから……もっとお姉ちゃんらしくなるからね?」


「ねえさ──おわっ!」



 俺が声をかけようとすると、姉さんは突然起き上がり、ドアに手をかける。



「だがしかぁ〜し! それはまだ先の事なのだ! 今は無理なのだ! だから乃亜はお風呂に行くのだ!ではさらばっ! とうっ!」



 そしてそれだけ告げると部屋から飛び出して行ってしまった。

 俺の感動を返せっ! と、言いたいところだけど多分あれは照れ隠しだろうな。



「お姉ちゃんらしく……か。とりあえず食べたあとの食器はちゃんと片付けるように、後で言っておくとしますかね」



 俺はそう呟くと、サンドイッチの乗っていた皿を持って姉さんの部屋を出た。

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