final & prologue.

 踏切。

 川沿いの、通学路のところ。

 ここへ来ると、いつも思い出す。彼のことを。彼と過ごした日々を。

 思い出。綺麗で、こわれそうで、大切な記憶。

 彼はいない。

 ここには、わたししかいない。それを、いたいほど、感じる。それがいやで、あれからしばらくは、この踏切に来れなかった。


「もう行くね」


 声をかけて、歩き出す。

 彼に声をかけているのか、それとも踏切に語りかけているのか。わからなくて、ちょっとだけ、笑った。

 電車が来る。


『えっ待ってよ。もう少しだけ電話繋いでてよ』


「電車来るし。わたしもそろそろおなかすいてきたし。あなた帰ってこないし」


『ごめんって。戸籍作らないといけないんだってば』


「何回しぬのよ」


『無論、しぬまで』


「わけわかんないわよ」


『ね、もう少し。もう少しだけだから』


 ゆっくりと、電車が通る。控えめな音。いつもよりも、やたらと、なぜか、ゆっくりな電車。

 ゆっくりすぎて。

 踏切の真ん中で止まった。


「おはようございます」


 電車のドアを開けて彼が出てくる。えっなに。なにこれ。


「ほら乗って乗って」


 導かれるままに乗るけど。

 いみがわからない。なにこれ。


「正義の味方の特権ですね。電車貸し切り」


 正義の味方じゃないの。公共交通機関ジャックしていいの。


「正義の味方だから大丈夫大丈夫」


 で、どこ行くの。


「駅前のモール。指環買いに」


 誰の指環よ。


「あなたの」


 わたしの。

 指環。


「まあ座れよ。駅前までは電車でもそこそこかかるから」


 おなかすいたんだけど。


「あっごはんあるよ。貸し切りだから電話もできるしごはんもたべれます。正義の味方特権」



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川沿いの踏切 春嵐 @aiot3110

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