「いやいやいや」


 引っ張られた。後ろに。


「何やってんの?」


 彼がいた。

 よかった。わたし。

 ちゃんと、死ねた。

 彼のいるところに。

 わたしも。


「死ぬつもりだったの?」


 あれ。


「何かあったんだったら話聞くよ?」


 うそ。


「え、なになになに」


 彼のおなかを、蹴った。

 彼がかわす。


「うおっあぶねえっ」


 彼だった。


「え、いやなになになに」


 抱きつこうとしたら。すり抜け回避された。綺麗な前回り受け身。踏切からは離れている。


「どしたのまじで」


 死んだ彼が、なぜか生きていて。ここにいる。


「あ、俺?」


 うん。あなた。なんで生きてるの。


「そりゃ生きてるよ。正義の味方はときどき死なないといけないから。これも業務の一環ってやつだな」


 死ぬのが仕事って。


「まあ、正義の味方だからな。しかたないでしょ」


 そう言って、彼が笑った。

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