別バージョン
「ねぇ、桜って好き?」
唐突に響く鐘の音。リィンと心地よく聞こえる声の主はベランダに立ち外を見ている。外は夏を思わせる日差しと桜の花びらがひらひらと舞っていた。
幼い頃はよく彼女------優衣と桜の花見をしたもんだ。でも、今の優衣は桜が嫌いだ。嫌いになった。
「なんだ、花見でもしたいのか?」
「そんなわけないでしょ」
鋭く振り向きこちらを睨む。
そんなことする訳ないと彼女は言い放つ。
「おいおい、睨むなよ。冗談だ」
苦笑しつつ立ち上がり彼女に近づいた。
横に立ち一緒に外を見る。街道沿いに桜が咲き誇り見事な満開だ。
「きれいだな」
「そんなこと……」
彼女の父は事故で死んでしまった。
彼女が幼い頃僕と彼女の父親そしてペットのこうすけと一緒に桜の花見に出かけた。彼女は桜がとても好きで毎年こうして桜の花見をしている。小さい彼女は桜のキレイさにはしゃぎ回り父親を連れ回している。
僕はペットのこうすけの手網を握り、その後を追いかける。
今年の桜は過去一だなぁなんて呑気に考えてた最中、大声が聞こえた。不思議に思い、声が聞こえた方をむくと彼女が車道に飛び出していた。
……ぁ。
彼女ははしゃぎ過ぎると周りが見えなくなる、きっといつもよりキレイな桜に興奮が高まってしまったのだろう。
彼女の立っている車道には直進して来る車が、きっと運転手も咄嗟のことで戸惑ったのだろう。あまりスピードを落とさず彼女に向かってくる。
「あぶない!!」
咄嗟にあげた声ももう彼女には届かないだろう。だってもうあんなにも車が近づいてる。彼女が、優衣が死んでしまう!そう思った。
その時だった勇敢にも優衣を救い出すべく動いた人がいた。その男性は優衣を突き飛ばし、見事優衣を救った!まるでヒーローだ!あぁ良かったぁ。なんて安心も束の間
どんっ!!
鈍い音がなり今でも耳にこびりついている。
大きく打ち上げられ、骨が折れる音がする。人が死ぬ。親しい人が死ぬ。当時の僕にはあまりにも大きい衝撃だ。打ち上がったそれを見ることしか出来ない僕はあまりにも無力だった。あれを救ってくれる人は?ヒーローは?呆然とする他なかった。
それ以来桜がトラウマになり、毎年やっていた桜の花見はやらなくなった。父親の死は乗り越えられても、今もなおその姿を変えず人々に笑顔を届ける存在は彼女の中でどう言った存在なのか言わずとも分かるだろう。
コンビニにプリンを買いに外を出た。優衣の大好物だ。
「しっかし、見事だなぁ」
地にしっかりと足を張りその太さはとても頑丈だ、上を見上げれば淡いピンク。その中から小さい日差しがまばらに降ってくる。
ふと前を見ると小さな女の子が父親を引っ張り回してはしゃいでいる。その後ろには男の子が犬の手網を握り微笑んでる。
どきりとした、驚きのあまり足を止めてしまった。
目線だけが動き体が硬直する。
「おとうさん!今度はあっち!」
「おいおい、あまり引っ張らないでくれ〜すぐ行くから」
そんな声が横を通っていく。バッっと振り向きその後ろ姿をみる。視界の映る道に車の姿はない。
成人後も君と桜 @yuki789
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