成人後も君と桜
@yuki789
第1話
「ねぇ、桜って好き?」
ベランダに出て外を見ていていた彼女は俺に尋ねる。振り向くと彼女の後ろ姿と桜の花びらが少し見えた。
「まぁ、好きだよ」
読んでいた本をテーブルに置きどっこいしょと少しおじさんぽく立ち上がった。
「優衣は桜好き?」
同じベランダに立ち俺は柵に背を預けた。
「あんまり好きじゃない。」
「どうして?」
少しムスッとしたような顔を見て苦笑いを浮かべる。優衣は子供の頃から喜怒哀楽の表情がよく出る。
今日は久々の休日でこうして優衣とのんびりしていた。
「桜って少しの間しか綺麗じゃない?」
「なんだか自分がキレイでいられるのも少しの間だけなのかなぁって」
女性は美を求めてやまないとはよく言うがまだ20代、気にする必要は全然ないだろう……。
俺は毎日の仕事で心身疲労して自分の体のことなんて一切気にしてないというのに。
呆れたように彼女の横顔を見ていると、ふと視界の端に1組の親子が写った。
父親だろうかカメラを首に掛けている、傍には犬もいて、桜の花見に来たのだろう。ただ何よりも注目したのが娘であろう女の子だ。とても可憐な笑顔をみせている。
「……ぁ」
「どうしたの?」
しばらく固まっていたせいか彼女は不思議がっている様子だ。
ただそんなことを気にしてはいられなかった。
似てる。優衣の幼い頃にとてもよく似てる。そう思った時過去の映像がフラッシュバックした。
近くの公園でいつも1人で遊んでいた僕を桜の花見に連れていってくれた女の子。僕はその可憐な笑顔に心奪われた。ひとりぼっちの僕にこんな表情を向けてくれる相手なんて1人もいなかった。
それからよく僕は彼女に声をかけた、彼女は快く迎え入れてくれてその可憐な笑顔を僕に見せてくれた。
僕は子供の頃桜が嫌いだった。みんな笑顔でとても楽しそうだった、僕に向けてくれない笑顔を見るのがとても嫌いだった……。
でも、彼女と出会って世界が変わった。彼女の笑顔に救われた。嫌いな桜が、彼女のお陰で好きになった。
「おーい。聞いてる?」
「優衣、花見しよう」
優衣の手を引っ張り玄関へ向かう。
「え?……ちょっと!」
戸惑い、びっくりしてる優衣。
「桜。好きにさせてやる!」
この時の俺の笑顔はとても無邪気で子供の頃優衣に見せた最初の笑顔だ。
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