第64話 禁断の治療

 こんにちは。随分と時間が空いての更新ですみません!

 今回は私がJKだった頃の、禁断の恋の話でもしますか。笑



 その日は土曜日。顧問(『私をあだ名で呼ぶ先生達その2』参照)は会議か何かで、その場を外していました。

 部活(ダンス部)の先輩方の送別会が間近に迫っていて、当時部活内で最高学年だった私達は、後輩をまとめて送別会の演出案を練っていました。複数の学年で一緒に踊るものもあれば、学年別に考えていたものもあって、その時は学年別の演出の振り付けを確認していたのですが……。


 キュッ! ズドーン! バッターン!


 裸足の左足を高く上げた途端、体育館の床に滑り、全身のバランスを崩した私は右半身から床に打ち付けられたのです。


 キャーっ!! え、大丈夫?! 大丈夫?!


 後輩の悲鳴やら、同期の心配そうな声が響いたらしいのですが、私は打ち付けたショックからか一瞬記憶をなくしています。笑

 ふっと意識が戻って目を開けると、私は体育館の隅で仰向けに横たえられ、周囲には同期全員の顔がぐるりとありました。


(え)


 部長を務めていた同期が声をかけます。


「やぎ! 血出てるけど大丈夫?!」


(嘘っ、血?!)


 フラフラと体育館の鏡で自分の顔を見ると、右側の下顎から、血が滴り落ちてるではありませんか。部活用のTシャツも首元は赤く染まり、軽い殺人現場になっていたのです。笑


 すぐに保健室の先生が対応してくださり、患部を気にしながら制服に着替え、休日でも救急診療が可能な学校近くの病院を探してくれました。そして先生が手配してくれたタクシーに乗り込み、病院へ向かったわけですが……。



 そこの救急診療で担当してくださったのが、形成外科の先生でした。そしてこの先生……めっちゃ……私のタイプだったんです。もう連れてきてくれた保健室の先生への感謝とかそっちのけで(おい)、そのイケメンドクターに私はハートをズッキュンされていたわけです。


 180センチ近くの長身に、シワ一つないシャキッとした白衣。襟足が伸びかけた柔らかそうな黒髪にシャープな黒縁メガネ。メガネの奥の、色気を纏う奥二重。年齢は恐らく、30代前半から半ばでしょうか。

 もうね、女子校JKの私にとっては(はぁぁイケメン! 禁断の恋始まっちゃう? 始まっちゃう?! わっしょい!)な素敵男性だったのですよ。顎から血液滴らせながら、脳内は完全な乙女だったんです。笑


 保健室の先生は私の親に連絡を取るため、診察室を後にしました。つまりここからは、ドクターとJKの密室なのです(違う)。


「……えっと、水無月、さん。状況は分かりました。まず、この応急手当てのガーゼを外すね」


「はっ、はい」


 その大きな骨張った手で、下顎のガーゼを丁寧に外されると、彼は続けて言いました。あぁ……手も好きだ……。


「うーん、痛そうだ……もうちょっとよく見せてもらえるかな」


「はい……っ?!」


 なんと先生……私に顎クイを……! あっ、顎クイを……! してきたのです……! あのっ、先生の右手がっ、私の顎にっ! 顔近っ! え、顔近っ! 近くで見てもイケメン……!!!


 ※診察目的です


「なるほど……骨膜まで破れてるな……ちょっとだけ大掛かりになるけど、綺麗に縫っていくからね」


「……(うんうん、と目で合図)」


 その後、私は彼によってベッドに横たえられ(※治療用です)、局部麻酔(※医療用です)をかけてもらって数十分……。

 本来、骨膜破れてるって割とヤバいらしいし治療も痛くて長いらしいんですが、もうね、先生のことガン見してました。縫われる所とかグロくて普段は見れないのに、この時はガッツリ彼の手捌きに見惚れていました。

 結局20針くらい縫って、その日は終了。再びちょいと顎クイされて患部を確認してもらい(私は死にそう)、最後に先生の笑顔を賜りました。


「丁寧に縫っておいたから、安静にしてくれれば大丈夫だよ。◯日に抜糸するから、また来てくださいね」


「はっ……はい! ありがとうございます!」


 診療室を出て、驚く両親を見ても私は一人恍惚とするだけ。笑


 JK×医師の禁断のシチュエーションだったじゃん今……顎クイされて横たえられるとかもうさぁ……しかも私制服ですよ……セーラー服×白衣ですよ……顎治療されてるから顔が近距離ですよ……治療中の先生の顔ガン見ですよ……先生の手が幾度となく私の顔に触れるんですよ……R指定じゃん……。


 と、私はひどい妄想を繰り広げていたのでした。笑



 さて、後日。抜糸の日がやってきました。

 あの先生に再会できるんですから、朝から私はルンルンです。早起きが超苦手なのに、イケメンに会えると思えば目覚ましなくても起きるんですよね。本当不思議。

 怪我をした日、私の様子を訝しんだ母に全てを白状させられてたので笑、母もそのイケメンドクターに会うのを楽しみにしていました。


 病院につき、名前が呼ばれます。


「水無月さん、水無月やぎさん。1番診察室へお入りください」


「失礼しますっ……んっ?!」


 そこに座っていたのは、恰幅の良い女医さん。黒縁メガネは同じだったものの、もうそれはすんごい剣幕で私を見てきたわけです。


「はいはい、抜糸ね…………うん、綺麗についてるからいいんじゃないの」


 あのイケメンドクターの細やかな手技とは程遠い手捌きで抜糸され、乱雑な顎クイをされ、茫然自失状態の私。笑


「あ、あの……××先生は……?」


「あぁ、あの人? この前異動しましたけど」


「えぇ……」


「はい、終わりです。お疲れ様でした……次のカルテちょうだい」


 待合室に戻った瞬間、スマホで先生の名前を検索しました。

 あのイケメン……栃木に行っちゃったんですかぁぁぁぁぁ?!

 もうあの禁断の顎クイしてもらえないんですかぁぁぁぁぁ?!


 泣きました。心の中で大号泣です。勝手に恋して勝手に失恋です。母も会えなくて残念そうでした。笑



 あの顎の傷は、怪我したことすらも分からないくらいに、本当に綺麗に縫っていただきました。彼だったからこそ、あれだけ丁寧に縫っていただけたのかなと感じています。


 今でもたまに、頬杖とかつくとね、思い出すんですよ。傷口に触れることになるから。

 あの先生、今もお元気かしら……。


 女子校で、恋愛面での青春を全く謳歌してこなかった私にとって、もうそれはそれは素晴らしく切ない、美しい思い出になったのでした。


 またイケメンに顎クイされる世界線を拾いたい(血眼)。

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水無月シェフの気まぐれサラダ 水無月やぎ @june_meee

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