第一章 炎獅子の青年③
神殿内に
住民にとって身近な
無数の石柱が
「隊長、待った!」
蜥蜴の男性は全身が赤い
手入れを欠かさず行っているのか、彼の全身を覆う
「イナビ、何で止める?」
ホムラも足を止めて、イナビと呼んだ男性に問い返す。
「何でって……
「あー……なるほど」
ホムラが
そのせいで、アスカの
「あ、あの……火鼠って何ですか?」
「えっ? 火鼠っていうのは、俺たちフェルノ国の人間が着ている衣服を作るのに飼育している
「ぜひ、見せてください!」
可愛いと聞いて、アスカは食いついた。
アスカの座右の
「ちょっ、アスカやめとけ! 危ないから──って、おい!」
ホムラの
「おい、アスカ! 待てって!」
「え、ちょっと、隊長!? あのお
「あいつは──」
「はわぁわああぁああっ!」
アスカの悲鳴が
「っ……アスカ!」
ホムラとイナビが大慌てで湯殿へ駆け込んだ。
そこには目の前に広がる光景に、思わず両手を
彼女の視線の先には、
ちょうど手のひらに乗るほどの大きさで、アスカの生まれ育った世界の動物に
「ええっと……お嬢さん、火鼠の子を見るのは初めて? 火鼠たちは炎にも焼けない
火鼠たちを入浴させていた蜥蜴の女性が、少し
アスカは話しかけてくれた女性の容姿に
「は、はい……可愛いですね」
いけない、人を外見で判断するなっておじいちゃんにも言われたっけ。
アスカはすぐに蜥蜴の女性へ笑いかける。
女性はおそろしげな顔つきとは裏腹に、その腕に
「あ、あの……少しの間でいいので、見ていてもいいですか?」
女性と火鼠の子を
その仕草が
「うふふ、構いません。よければ、抱っこしてあげてください」
「えっ、いいんですか!?」
パッと表情を輝かせたアスカに、蜥蜴の女性は笑顔で
「きゅっ?」
丸くて大きな
火鼠の子はゆっくりと小首を
自分の中で
「きゅっ、きゅうきゅっ!」
火鼠はとても気持ちよさそうに声を上げると、アスカの両手の上でお
「かわいぃ~っ! 小さいぃ~っ! 神さま、ありがとうっ!」
なんて
アスカは自分の頬がだらしなく
「お、おい! アスカ! もうその辺でいいだろ!
後ろの方でホムラの声が聞こえた。
なぜか湯殿の柱の
「えっ、隊長さん?」
蜥蜴の女性が目を見開き、はしゃぐアスカとホムラを不思議そうに眺めている。
「ホムラもおいでよーっ! この子たち大人しくて可愛いよーっ!」
アスカは手に抱いた火鼠の子をホムラに見せながら
「
顔を真っ青にしたホムラが、身を乗り出して必死に何か言っている。しかし、アスカは聞く耳を持たなかった。
こんなに小さくて愛らしい動物を狂暴だなどと、ホムラの感覚は絶対におかしい。
「と、とにかく、
ホムラが意を決し、こちらへ歩み寄ろうとした。
その足元に、一匹の火鼠の子が通りかかった。
「げっ!」
「きゅっ!」
ホムラが
次の瞬間、火鼠の子が
熱風を受けてアスカは浅瀬の中に
「
うっすら目を開ければ、会話していた蜥蜴の女性がアスカを庇ってくれていた。
「だ、大丈夫です。ありがとうございました、えっと……」
「ヒノと申します。お
ヒノに手を借りて体を起こす。
ホムラがいた辺りの地面が大きくえぐれていた。
柱はなぎ倒され、
アスカの顔から一気に血の気が引いた。
「ホムラ!?」
「あー、大丈夫ですよー」
イナビが顔を真っ青にしたホムラを
何とも
「ったく、隊長。あんた人の仕事増やさないでくださいよー」
「
ホムラが顔を青ざめさせたまま主張する。
「一体何が……?」
「火鼠たちは大変
「じ、自爆っ!?」
先程の大爆発を引き起こした火鼠の子は、クレーターから
「火鼠たちの毛皮は再生が速いから、それを衣服に利用しているんだ。なめして使えば衣服のほかに、火薬を保管する
イナビも人差し指を立てて得意げに説明している。
「でも、危険ですよね!? いつ爆発するかわからないのに……」
「だから、一日に二度、こうしてお
ヒノが浅瀬で丸まっている大量の火鼠の子たちを
そういえば、先程の自爆を受けても、彼らは
「
「あぁ、なるほど!」
よく考えられているものだ。とはいえ、爆発されては
「さらに、一度爆発すると
イナビがアスカを安心させるように解説した後、座り込んでいるホムラを
「なのに、隊長ったらなんでいつも火鼠に
「ある意味、天才とも呼べる的中率ですよね」
イナビの
ここでは爆発が日常
「俺だって好きで爆発させてるわけじゃねぇよっ! 何が気にいらないのか、俺が聞きたいくらいだっ!」
「隊長さん、顔怖いし、言動も結構ガサツだから
ヒノが
「おい、ヒノ。どさくさに
「あら、心外です。あくまでも客観的な考察というやつですよ」
笑うヒノの横で、ホムラが不満げに口を
「それで、隊長たちはここへは何をしに?」
思い出したようにイナビがホムラとアスカを交互に見た。
「ああ、こいつはアスカ。
「雪狼に……
イナビの
「ま、こちらの
ホムラはそこまで言って、アスカを
「とりあえず……まぁ、そういうことだから色々と
「隊長がそうおっしゃるなら……お任せください」
ヒノが
「では、隊長さんは後片付けをお願いします」
「はぁっ!?」
「
「はいはーい。隊長、手伝う代わりに今日の夕飯の一
「わかった。なら翌日の訓練
「なっ、隊長そりゃないでしょう!」
ぱしんっとヒノの尻尾が床を叩き、
「さ、アスカさんはこちらへ。お風呂へ案内します。使い方も一応、説明しましょうかね」
「あ、ありがとうございます……」
アスカは
思った以上に水気を
困ったな、借り物なのに……。
瓦礫の
「大丈夫。撤去には夕飯までかかるでしょう。ゆっくり
「あ、いえ……そうではなく──」
「わぁっ!」
天井の高い石造りの空間に、いくつもの温泉が整備されていた。
はしゃぐ子どもたちを親たちが注意し、その様子を遠目に
皆、思い思いに湯に浸かってリラックスをしている。
まるで町中の銭湯のような
「さ、外套はそちらの
石で作られた棚の一つに、アスカは借りている外套を入れる。
先程ちゃんと絞ったつもりだったが、外套は相変わらず重い。冬物のようだし、
「……これ、どうやって洗おう」
クリーニングってこの世界にあるのだろうか。
アスカが
アスカが立ち去った後、もぞもぞと外套が動き、小さな鼻が布の
「さ、体を洗ってから湯船に入るのが
「お願いします」
アスカはヒノの指導の下、温泉に入る際の作法を
「フェルノ国はもともと火山地帯の国で、あちこちから温泉が
「きもちいい……」
ヒノとともに湯に浸かり、アスカはうとうとと
もしかしたら、夢を見ているのかもしれない。
そんな考えが不意に頭の中を
そうだ。そもそも人がいきなり
ちらりと横目でヒノを見ると、彼女もこちらを見ていた。
「
「あ、えっと……すみません。ジロジロと」
「構いません。どこからいらしたのか存じ上げませんが……すぐに慣れます」
ヒノは湯船につかったアスカの
「でもアスカさんを追って隊長さんがいらしたのには
「そうなんですね……」
まぁ、あの爆発を
自分が
火鼠の子は大変
まさに天敵ってやつかな。
アスカは自分でそう結論付け、
「ですから、どうしても気になってしまって……。アスカさん、あの隊長さんをどうしたら湯殿の中にまで
「はい?」
「一体、どんな
「えっ!? いや、その……特に何もしてない、はず……?」
ここに来るまでのやり取りを思い返しても、特別なことはなかったはずだ。身元の知れない人間を警戒している様子ではあったが、だからといってアスカに親身になる理由にはならない。
あとは──。
「光の……なんとかって
「ああ、『光の祝福』ですね。アスカさん、どこか
「……そんなところです」
さすがに「死んでいて肉体がなかったんです」なんて初対面の
余計なことは言うまい。
「うーん……さすがに『光の祝福』をしたからという理由だけで、闘騎隊の隊長が世話を焼くというのもおかしな話です。アスカさん、もしやあなたはルチアと関係があったりはしませんか? アスカさん? アスカさ──」
だんだんヒノの声が聞き取りづらくなる。目の前がチカチカした。思わず目元をこする。
温泉に浸かって気が
アスカはそのまま重い
遠くで自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。
ああ、目を覚まさないと……せっかく仕事を休んだのだ。無事に祖母の家に
アルファトリアの不死鳥 異世界の乙女は炎の獅子王を導く 紅咲いつか/角川ビーンズ文庫 @beans
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