第一章 炎獅子の青年②
「着いたぞ」
ホムラの声に、アスカはそっと目を開ける。
最初に目に飛び込んできたのは、
ホムラはアスカの入った球体を地面におろした。
アスカの全身を
これ幸いとアスカは石畳の上でぐったりと座り込んだ。
「おいおい……
「だいじょばないです……」
あんな速度で運ばれて正気を保っていられるほど、アスカは
真っ青になったアスカを、人型に戻ったホムラが怪訝そうに見下ろしている。
「ホムラ……これは、どういった
そこには美しい男性が立っていた。
「戻った、カヅチ」
「おかえりなさい、ホムラ」
ホムラとカヅチが親しげに
「アスカ、
「誤解を招く表現はやめてください。私はただ、先王の命に従って行動しているのみ……言わば代理です」
カヅチはジロッとホムラを横目で
「ええっと……は、初めまして……アスカです」
アスカは
とりあえず
「初めまして。火竜のカヅチです」
「ひりゅう……?」
首を傾げるアスカの様子に、カヅチが
「炎のドラゴンですよ。そんな
「ド、ドラゴンッ!?」
アスカはひゅっと息を吞み込み、絶句する。
「アスカ、お前さっきから
呆れるホムラの横で、カヅチは疑わしそうな目でアスカを見下ろしている。その視線に
「そんなことより、カヅチ……急いでこいつに『光の祝福』を施してやってくれ」
「この
「おう。少しばかり気がかりでな。事情が分かる前に、こいつが
ホムラが
「何かあれば俺が対処する。とりあえず、事情を聞く時間だけでもほしい」
ホムラの言葉に、カヅチは
「……わかりました。そこまでおっしゃるのでしたら、私も反対はいたしません。とりあえず、肉体の再構築を急いで行いましょう」
「
「さ、こちらです」
カヅチはアスカとホムラを
そこは、とにかく
柱から
おとぎ話に登場する小人にでもなった気分である。
「すごい……人が、空を飛んでる」
アスカは周囲へ視線を投げ、そっとこぼした。
ホムラが
行き
人間のような姿もあれば、獣耳、
それだけではない。
獣の姿のままの者。
炎がそのまま人の姿を
竜らしき体の一部が、向かいの通路側から
神殿の巨大さとその場を行き交う多種多様な人々の姿に、アスカの目は
驚きのあまり、目をそらすことができなかった。
そんなアスカの様子を、カヅチがどこか
「こちらです」
曲がり角に差し
そのまま神殿の廊下を進んでいくと、奥まった場所に巨大な
アスカが
ホムラがつかつかと鉄扉へ歩み寄った。
「よっ!」
掛け声とともに、ホムラが鉄扉を軽々と手で押し開ける。細かな
「すごいっ……力持ち!」
どう見ても人ひとりの
「そりゃ、毎日
ありがとな、とホムラがどこかはにかんだように笑う。
それまでの厳しい表情から一変、子どものように
ただ
「ここから先が聖堂になります。私からの許可なしで、みだりに周囲の物に
「は、はい……」
カヅチの忠告に、アスカは気を引き
アスカたちは扉をくぐる。その先は舗装されていない
人工的に平らにされたらしいそこには、地面に
よく映画などに出てくる
「魔法陣の中央へ行き、そこに座ってください」
「は、はい……」
カヅチの指示に従い、アスカは床に刻まれた魔法陣の中に座る。
「アスカ、そんなに
「ムリです」
呆れるホムラに、カチコチに固まったアスカは言い返した。思わずカヅチを
「
「べ、別に騒いだりは……」
「そうですか。ここに来るまで、大変落ち着かないご様子でしたので」
カヅチは表情を変えぬまま
「では、始めます」
目を閉じたカヅチが、胸の前で両手を組んだ。何やら小さく唱え始める。
アスカも慌てて目をつぶった。
大丈夫、痛くない痛くない。
子どもの
やがて、全身がぽかぽかと温かくなってきた。最初は指先に、そこから全身を
あたたかい……。
まるで温泉に
トクッと、自分の胸の辺りが
それまで脈打つことを忘れていた心臓が確かに動き出す。
そんな当たり前のことが、
閉じた
何だろう?
うっすらと目を開ける。カヅチが目を閉じて、何やら唱えている姿が見えた。足元の魔法陣が
魔法陣の光かな?
アスカは再び目を閉じた。しかし、
アスカは、顔を
炎の中から、真っ黒な
黒い人影はかすれた声を発した。
助けて──。
「いやぁあああぁあああっ!」
「アスカ!?」
ホムラが
「これはっ……!?」
立ち上った炎を見たカヅチが息を
「黄金の炎!?」
黄金の炎はアスカの全身を
炎の鳥は甲高い声を上げ、
「まさか……不死鳥……」
呆然と
「アスカ!」
ホムラがすぐさま魔法陣の中へ飛び込んだ。うつむくアスカの肩を
「黒い、人物が、来た。すぐ近く……また、私の方に……」
アスカはぽろぽろと涙をこぼし、悪夢にうなされた子どものように両腕を伸ばす。
ホムラは
「落ち着け、アスカ。まずはゆっくり深呼吸しろ」
「黒い人物……?」
カヅチが顔を
しばらくして、アスカはようやく落ち着きを取り
そこで、自分の腕に目がいった。細くて白い自分の腕を見て、その視線を下へ向ける。
「えっ、
再び
「カヅチ、アスカの服を──」
「
ホムラの視線を受けたカヅチが小さく
ひやりとする空気に
「さっむい!」
「どうやら、感覚は正常に戻ったようですね。肉体の再構築に成功したようです」
ホムラから借りた外套でひとまず体を包んだアスカに、カヅチは冷静に
「それでご自身としてはいかがですか? 身体や感覚に
カヅチの問いかけに、アスカは自分の両手へ視線を落とした。
手を
現状では身体に異常は感じられなかった。
「特に今のところは……」
アスカの回答に、カヅチはゆっくりと頷いた。
「いつまでもその状態ではいけません。
「えっ! 温泉!」
パッと表情を輝かせたアスカに、カヅチが笑いかける。
「フェルノは国土の半分が火山地帯の国です。温泉はこの国の名物、きっと気に入っていただけますよ。ホムラ、連れていって差し上げてください」
「別にそれは構わないが……」
ホムラが何か言いたげな様子だったが、カヅチは
「私は少し、調べることがあります」
「……わかった」
ホムラがため息交じりに応じる。ホムラは無造作にアスカを
「えっ!? いやいや、自分で歩けるので!」
「
赤面して暴れるアスカを軽く受け流し、ホムラは笑った。
「それに、ここへ来るまでの様子じゃ、ぜってぇ迷子になるしな」
「……よろしくお願いします」
ホムラの指摘に言い返せなかったアスカはただ身を縮ませた。
「おう、任せろ。カヅチ、後は
「ええ。
軽く言葉を
その動作は人ひとり
まさかこの年になって異性に横抱きされるとは思わなかった。
初めての体験にアスカはすっかり混乱していた。
「しっかし、
「えっ……炎?」
一体、何の話だ?
ホムラを見上げると、彼もこちらを見下ろしている。
「さっきの『光の祝福』で体を再構築した際、お前の身体が炎に包まれたんだよ。まぁ、そう
平然と言ってのけるホムラに、アスカはギョッとした。
思わず自分の両手を見下ろして不安になる。
「
そもそも、人間の身体が自然発火することが
「お前、自覚してなかったのかよ」
不安そうなアスカを見下ろし、ホムラは半ば
「炎の色はその人を表す。昔、
「いや、私は人間です」
「あー、はいはい。今はそういうことにしておく」
ホムラの言わんとしていることはわかる。
普通の人間が、死んでもこの世に
彼と出会ったときの様子から、それくらいのことはアスカでも察せられる。
アスカは自分の両手を見つめ、握ったり開いたりを繰り返した。
アスカの素足を
今はとにかく、助かったらしいってことを喜ばなきゃ。
アスカはそう自分に言い聞かせて、自分の中で
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