第2話

 2020年3月、大学の合格発表と同時に、SNSでいわゆる大学用アカウントを作成した。アカウント名は「さっちゃん」。「春からS大」のハッシュタグをつけて投稿すると、自発的なフォローをほとんどしなかったにも関わらず、3日で数百のフォロワーが付いた。まあ、その中にはサークルの新歓アカウントや大学周辺を拠点とする怪しい団体のアカウントもあるわけだが、同じ大学・学部の人たちと繋がることができた。爆発的に拡大した感染症のため、授業が始まるのかもわからない状況下で、SNSの存在は私たち新入生にとって重要だった。

 また、文学部ということも相まってか、学部フォロワーのほとんどがオタクだった。高校ではオタクであることを隠し、細々と生きていたので、思い切って全部公開していくことにした。女児向けコンテンツの曲についてツイートしたり、日曜朝に特撮の実況をしたり、ベッド下にあるBLコレクションの画像を載せてみたり……。最初は一般の人に不快感を与えてしまうことを心配していたが、すぐにかなりの数の同志がいることが発覚した。大学生の寛容さに驚くと同時に、自分の趣味に自信を持つことができて、オタクとして生きやすくなった。


 アカウントを作成してから二週間ほどたった時、あるアカウントからDMが届いていた。そのアカウントのプロフィールには、私の出身県にある高校名が書かれていた。


『はじめまして!もしかして、O高校の出身? 俺はK高校なんだ。よろしく!』


 K高校とO高校は同ランクで、地理的にも近いため交流があった。同郷出身者ということで、少しだけ興味が湧いた。


『O高出身ですよ。私は文学部なんだけど、学部はどこですか?』


 K高は男子校で、O高とは正反対で、自由で明るく、少しやんちゃなイメージがあった。普通の共学高校で、特に派手なイベントも特徴もないO高からしたら、K高生はちょっとしたブランドだ。すぐに返信があった。


『生物学部! O高かあ、共学いいな、女子おって(笑)』


 この人は一体、何の話をしたいのだろうか。SNS初心者か? アニメや漫画のような具体的で共通の話題があるわけではなさそうだから、特に用件なくDMしてきたのだろうか。


『そうでしょうか。私はK高の校風が好きですよ。O高の……ある意味、陰気な性質とは真逆で、ちょっとうらやましいです』


 とりあえず、当たり障りのない返事をした。O高では、K高と比較した自虐は鉄板

ネタだ。


『いやいや、そんなことないよ! うちは男子ばっかりでむさ苦しかったし。まあ、

学校は好きやったけど』


 だんだん返事が面倒になってきたので、このあたりで会話を切ることにした。


『まあ、同郷ってこともあるし、これからよろしくお願いします』


『せっかく同郷なんだから、もっと色々と知りたいなあ』


 まだ続けるのか。いや、私のことを知りたいならツイートを見てくれ。どこにでもいるコミュ障オタク(しかも腐女子)だぞ。


『そっか』 


 すごく、素っ気ない返事をしてしまった。というか、……私が深読みしすぎなのだろうか。いやしかし、これはどう見ても。


『あのさ!今度エンカしてみん?まだ実家おるんよね、K駅とかで会えないかな?』


 出会い厨ではないか。

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打算的ロマンチスト 夏河デルタ @summer_delta

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