第5話
地震による被害は死者こそ出さなかったものの多くの被災者を生み出した。
自分の家を失った者、大怪我を負った者、家族とバラバラにされてしまった者、被害を受けた誰しもが何かしらの苦難を味わった。
地震発生から約三ヶ月後、政府は被災者支援の政策を打ち出した。
この政策が被災者にとって本当に支援になっているのか、国内では議論すら巻き起こった。
過去の被災の経験が生かされていないのではないか、そんな声があちこちで聞かれた。
鳥越にとっての地震からのこの三ヶ月は自分を見つめる機会になった。
佐々木から反感を買うようなことをしてしまったことに大きな責任を感じていたのである。
親や友人に教えられたわけではないが、女の子を傷付けてはならないという精神が頭の片隅くらいにあって今回のことは女の子を傷付けているに該当してしまうのではないかと危惧しているのだ。
自分の行動を一つ一つ精査して本当はこうするべきだったのではないか、ああするべきだったのではないか、と思い巡らせていた。
一方佐々木は鳥越の知り得ぬところで結婚に向けての準備をしていた。
鳥越の思惑は佐々木には筒抜けになっていて自分がちゃんと稼げて養えるようになってから、と思っているのは知っていた。
佐々木は二人で共働きで生活を成り立たせられれば良いのではないかと思っていた。
それでも鳥越を立てるべきなのは分かっていたのでコツコツと自分の稼いだお金を貯金していた。
貯金したお金で頭金として何かができるように、だ。
既に同棲していて家具を買う必要はないし、今の生活で十分問題はない。
鳥越の研究は彼を研究の業界での地位向上に大変大きな寄与をした。
研究で多大な功績を修めるというのはすなわち昇進を意味するのだ。
昇進が合い重なって鳥越と佐々木の結婚の話は急速に進んだ。
プロポーズこそしていないが結婚への道を着実に歩んでいた。
高校生のときから交際しているため鳥越・佐々木両家は顔見知りで結婚でよくあるステップの一部が緩和されている。
それもあって道の傾斜が緩やかなのだ。
地震があってから一年も経たないうちに佐々木桃子は佐々木ではなくなっていた。
交際期間10年以上でようやくゴールインしたのだ。
ある意味では地震は二人を良い方向に導いてくれたのかもしれない。
結婚式での二人はまるで別人だった。
鳥越のタキシードといい、佐々木のウェディングドレスといい
鳥越は佐々木の美しさに見惚れているようにも見えたと出席者は口を揃えて言った。
佐々木のドレスは特注品であるかのように彼女を輝かし、彼女を彼女たらしめていた。
鳥越のタキシードは鳥越の男らしさをスパイスとするのに役立った。
一つの大きな関門を二人でちゃんと乗り越えたことが二人にとってどれだけの利益を生むのかは当事者間に委ねられるが、大きな関門をきっかけにして変わることこそ人生の分岐点なのかもしれない。
その分岐点で一度立ち止まり、熟考して妥当な選択をすることが大きな利益を生む根本になるのだろう。
理論上の空想 キザなRye @yosukew1616
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