第6話ぼくと飛田新地

高校生になるとどうしても避けれない事が有る。脱、童貞である。彼女が居るなら簡単だろう。しかしながら全ての男子が彼女が出来るわけではない。自然と高校でも話題になる。


「なぁ、詳しいんやろ、教えてくれや」


級友に聞かれる事が多くなった。僕自身、飛田新地は嫌いではない。夜に煌々とライトアップされる提灯と看板。清潔な道路。そこは西成でも小汚い労働者を寄せ付けない。入り口にはお勧めの女の人と客寄せのおばちゃんが居る。おばちゃんが客寄せだ。


「お兄さん、良い女の子居るよ」


そうして飛田に来る男達を誘う。当時は15分7000円位であったと思う。ちょっとしたお小遣いを貰う高校生なら1カ月2ヶ月辛抱すれば溜まる金額である。僕はとてもそんな気分にはなれないが、ガイドを強く希望されて、尚且つお礼が有るとならば引き受けない理由が無い。


「案内するけど後は知らんで」


そう前置きをしておいて夜の飛田新地へ向かった。僕は界隈を徘徊して時間を潰す。級友が行為をしている間、僕はその界隈を徘徊するのである。飛田新地にはアイドル通りと妖怪通りと言う通りがあった。字の通り、綺麗な可愛い女の子の居る置屋ととんでもない人が居る置屋をそう言った。アイドル通りは高価で、妖怪通りは若干料金は安かった。当時は僕も興味が無かったのでワザと店に入り、悩んでは店を出るというイタズラをした。何件かを悩みつつ行ったり来たりするをする。鋭い店のおばちゃんは見抜いて客寄せをしなくなる。その後に級友が来れば必死になるという戦略である。どうやら級友はお気に入りを見つけて部屋に上がったようである。置屋(行為をする場所)はそんな感じで営業している。法律で売春は禁止されているはずだが、飛田は法の効力が効かないようだ。堂々としている。警察が踏み込んでもキャバクラみたいに女の子とイチャイチャするだけと言いなおれば警察もそれ以上は追及できないのかもしれない。そうしてアイドル通りと妖怪通りを行ったり来たりすると時間も過ぎて、級友も道に出ていた。どうやら満足したらしい。


「ありがとう、ありがとう」


と感謝されつつ、それは相手をしてくれた女の子に伝えれば良いんじゃない?と聞くと本人も


「自分が初めてだととても嬉しい」


と言われたそうだ。それは嬉しい事じゃないか?初めてを捧げたのが飛田新地だと言うのも存外悪いものではないと思った。未だにそうした需要と供給が有るとするならば、それは悪とは言えないのではないだろうか?故池波正太郎氏はこう語っている。


「それは初めてだというので教えてくれるのですよ、酒の飲み方から何まで。そりゃもう喜んで教えてくれるわけです。お酒を飲むときはこう、肝臓を押すのが良いのですよ、と教えてくれる訳です」


その1文章と級友を見ると飛田新地も必要悪として存在するのかもしれない。

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