第2話ぼくとホルモン焼
学校が終わり、ランドセルを家に置いてお小遣いを貰い、街に出掛けるのとその日の労働を終えた人達が丁度西成へ向かう時間帯、午後4時。
「坊主、また来たんか」
ホルモン焼きを買い求める僕たちを酔いが回って既に出来上がっているおっちゃん達が声を掛けて来る。僕と悪友には決まりがあって、決して
「1人では行かん」
事であった。小学生など1人だったらどうにでも出来よう。4,5人で何時も行動していたと思う。小腹が空いている僕たちが向かうのはホルモン焼きだった。何故なら非常に安価で食べ応えがあり、なにかホルモンを食べる事で大人になったような気がしたものだ。
「生意気な子供やで」
悪態をつく店員のおばさんもそう言いつつ僕たちには優しかった。西成にはホルモン焼きの店がこれでもかと有り、労働者の胃袋を満たしていた。ホルモンとはもともと
「ほるもん」
放り捨てるものから来た言葉だ。当時はホルモンは一等下に見られたものだ。品の良い大人たちはホルモンなど見向きもしないで法外な値段の(子供心にそう見えた)焼肉に行くのだった。その時観察して思ったのはこうもホルモン焼き屋が乱立して、それなりにどこも繁盛しているのは飲食店として設備の用意が簡単だからではなかろうかと思っていた。なにせ大きめの鉄板が1枚とそれを支えるガスコンロが有ればできるのだった。後はコテとホルモンが有れば良い。店一つ一つが色々な味付けで差別化を図っていた。甘辛いタレ、辛いタレ、ソース、キムチの絞り汁。それらの味付けや塩コショウなどのシンプルな味付けが相まって混沌としていた。ホルモンをあらかじめ串に刺したのをちゃんと火が通っているのか怪しい速さで出してくる店や鉄板の上で作り置きして注文の都度提供するという形が殆どだった。経験則で言えば串に刺さったもののほうが美味しかった。鉄板で作り置きするのはどうもホルモンに匂いが付きやすく、タレや振りかけたネギでは抑えきれない匂いが口に放り込んだ瞬間、広がっていく。ここは不味いな、と悪友と言い合っていると何時の間にかその店は潰れて、何故かまた違う人がホルモン焼きを始めるのだった。僕にはそれが不思議でしかたなかったが、それが大人の世界であり、事情なのであったろう。
「ホルモン焼き、1串30円。ハツ50円」
だいたいこれくらいの価格帯であった。お酒の安さを知ったのはもっと後である。通い詰めると何処のホルモンが安くて美味いのを子供の嗅覚で嗅ぎ分けた。ホルモン焼きは極めて単純な料理で、最近見かけるもつ鍋などはどうしても高価に思えてならない。それほど僕にはホルモンの記憶が鉄板の焦げ目のようにこびりついているのだった。
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