疑似家族
夏伐
疑似家族
ある日、父に呼び出された。
「母さんに元通りになってほしいか?」
そう聞かれた。
俺は頷いた。
母さんはまだ見えない妹と話をしている。
妹が事故で死んでから、母はそれを認めずついに妹の幻覚を見るようになった。
俺は妹も好きだったが、母さんも好きなんだ。
元に戻れ、とまでは言わない。せめて、正気になってほしかった。
「父さんとお前だけの秘密だ」
父に手を引かれて行った所は薄暗い路地だった。
迷路のように入り組んだ路地の先に、一軒の店があった。
「驚いても声をあげるんじゃないぞ」
店の中に入ると、そこはペットショップのようなところだった。
ショーケースの中には珍しいサルや鳥なんかがいる。
そしてなぜか人間が入っていた。
父は店の人と話をする為に行ってしまった。
俺は店内をよく見渡すことにした。
基本的には普通のペットショップと変わりない。金魚や亀が泳いでいる所、ご飯が売っていて、おもちゃが売ってる。でも、ショーケースには人間がいる。
ケースの中にいるのは五、六歳くらいの小さい子たち。セール品になっているのは十歳くらいの子だ。誰も彼も可愛らしい顔をしていると思う。
「行くぞ」
「うん」
戻ってきた父に急かされて『関係者以外立ち入り禁止』の扉の奥へ行った。
そこは、なんていうか野菜や魚の競りをしているようなところだった。
そして皆が見つめる先にはベルトコンベヤーがあった。
「よく見て、妹に似た子がでたらすぐに言うんだぞ」
「う、うん」
「とりあえず10万って言っておけ」
何が、誰がとは聞かなかった。
見ているうちにベルトコンベヤーが流れて、その上に人が乗ってやってくる。みんな子供だ。
「明るい茶髪、目も茶色。女。五体満足」
誰かが『五万』と叫んだ。落札された。
「金髪、青目。男。喘息持ち」
何人かが叫んだが、一番高い金額を言った誰かが落札した。
何回かあった後、俺は叫んだ。
「じゅうまんえん!!」
誰とも競り合うことはなく、無事に落札できた。
父が「よくやった」と褒めてくれた。
落札した子を家に連れて帰る時、俺は不安になった。
「ねえ、この子どこの子なの?」
「どこの子もでもない。 戸籍は店で用意してくれたから、お前の二人目の妹だ。母さんには妹が帰ってきたって言うんだぞ」
「分かった」
その日から母さんは元気になった。
妹は時間が経つと少しずつ言葉をしゃべるようになった。
お金の概念が分かってくると「なんで十万円だったの?」と動かない足をさすりながら聞いてきた。
俺は妹に言った。
「安すぎたよね、ごめんね」
妹は照れてうつむいてしまった。あの時、健康でかわいいどんな子よりも妹の値段が高かったのを彼女は知っているから。
俺はそんな彼女が可哀想になった。
俺だって父さんに聞いた。
そしたら「あれに十万円も出す奴なんかいないよ」と笑った。「買えただろう?」
疑似家族 夏伐 @brs83875an
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