第3話 少し長めのエピローグ

 その頃になると島の王ポリュデクテースの乱暴狼藉がパワーアップし、ダナエーには耐え難いものになっていたのです。ペルセウスがさっさと帰れば良かったんでしょうけど、電話も無いこの時代では仕方ないんでしょうか。でも一年は長い気もしますね……。


 とにかくダナエーは庇護者であるディクティスと共にゼウスの祭壇に縋り付いて救いを求めました。これは神の救いを求めるだけではなく、ちゃんとした対策にもなっていたのです。と言うのも、古代ギリシャでは神々の祭壇に駆け込んだ者は神聖とされ、神に属するのもとして扱われました。なので仮に罪ある者でもみだりに手を出す事は許されなかったのです。「警察よりも神様」というわけですね。この時代に警察はありませんが。


 なのでポリュデクテース配下の一味も神殿を遠巻きにして兵糧攻めにし、ダナエー達がギブアップするか餓死するかを待っているところなのでした。そこにペルセウスが帰ってきたというワケです。強烈なタイミングですね。


 怒り爆発のペルセウスは王宮に殴り込みをかけます。無敵装備もバッチリですからひたすらに強気です。それを見たポリュデクテースはパニックの極み。配下の者を根こそぎかき集めて襲い掛かりますが、当然の如く「メドゥーサの首攻撃」で仲良く石化されてしまいます。予想通りですね、もはや予定調和です。


 暴君を退治したペルセウスは恩人ディクティスを島の王としました……が、こいつにそんな権限があるんでしょうか? あり得るパターンを考えるなら、ディクティスは王族ですしまともな人ですから人望もあったでしょうし……。



「もうこの人に王様してもろたらええやん! な、皆そうやろ! なぁ!」



 という感じで扇動して断れなくしたとかでしょうか。この辺りなら納得できそうな気がします。


 一件落着した後、ペルセウスは妻と母を伴ってアルゴスへと向かいました。また、「隠れ兜」と「空飛ぶ靴」とキビシスをお使い神・ヘルメスに返上し、メドゥーサの首は御礼としてアテナ様へと奉りました。アテナ様は喜び、自らの楯の真ん中に紋章の如く取り付けました。これでイージスの楯完成です。


 さて、アルゴスへとやって来た目的は祖父アクリシオス王に会う事です。元々好青年なペルセウスですから、妻を紹介したかった&一目祖父に会いたかったんでしょうね。


 しかし皆さん覚えておいででしょうか、あの不吉な予言を。そう、ダナエーが生んだ子に殺されるというあの予言です。この予言が実に回りくどい、もはや悪意としか解釈できないレベルで成就するのです。


 アクリシオス王はダナエーの息子が帰ってくる(ダナエーとアンドロメダは眼中に無い模様)と聞き、見苦しい程にパニくります。更にペルセウスの武勇を聞き、ついでに孫と敵対するのは世間体の面からもアレだという事でコッソリとアルゴスを脱出します。無様ですね……一国の王ともあろう者が。


 アクリシオス王は遠い北のテッサリアのラーリッサ市に逃げ込みました。この地方では一番殷賑を極めた町です。このラーリッサの領主テウタミダースは父王の葬儀に記念の運動競技会を催していました。


「葬儀に記念の運動会? なんじゃそりゃ?」と現代日本人は思ってしまいますが、これは古代ギリシャに於いてはホメロス以来の習慣だそうで、かのオリンピアの競技もこうした祭儀の慣例化だという事です。


 さてペルセウスは祖父の行方を捜してテッサリアに来ていました。いい勘してますね。或いは運命の導きでしょうか。当然この競技会の事を聞き、元気が余っているお年頃なので参加しました。嫌な予感がしますね……。


 五種競技にペルセウスが参加していた時の事です。まず五種競技とは走り幅跳び、円盤投げ、スタディオン走、槍投げ、レスリングの事です。


 事件は円盤投げの時に起こります。ペルセウスが投擲した際、手元が狂い円盤が見物人の中に突っ込んでしまったのです! この時代ですから安全対策も推して知るべしだったのでしょう。運悪く老人の頭部に直撃。重傷を負わせてしまうのでした。この老人は程なく息を引き取ってしまうのですが、この老人こそが逃亡したアクリシオス王なのです。


 こうして意地の悪い運命は悪意のない人々の間に血族SATSUGAI事件を引き起こしてしまったのです。


 ペルセウスは深い悲しみの中で祖父を葬りアルゴスに帰ります。が、早速問題になるのは王位継承問題です。順当に行けばペルセウスが継ぐ事になります。王女の息子で実績もケチのつけようがない程ですから。しかし彼は事故とはいえ自分が手にかけた祖父の所領を継ぐことを憚りました。当時のギリシャでは血族間の流血は最も重い罪として償いと追放を要求されていたからです。


 そこで従弟に当たるプロイトスの子メガペンテース王(大いなる嘆きの意。超絶に縁起が悪い名前)に領地の交換を申し入れ、その後はティーリュンスに腰を落ち着けることになります。


 アポロドーロスによればペルセウスはミデイアとミュケーナイに築城したとありますが、どちらも極めて古い時代からある城塞なので眉唾っぽいそうです。


 ペルセウスのその後は至って平穏に過ぎていき、アンドロメダとの間に数人の子女を儲け、安らかにこの世を去ったと伝えられています。


 ケフェウス王の許に残してきた長子ペルセース(紛らわしい名前ですが本当です)の他、数人の男女が世に名を成し、ペルセウス王朝を成すに至ります。そしてペルセウスの曾孫に当たるのがギリシャ神話随一の英雄ヘラクレス。


 ついでにペルセウス王朝最後の一人がこのヘラクレスに十二の難業を課したエウリュステウス王です。英雄から臆病者に至るまで様々な人材を残したペルセウス。まさに英雄時代の幕開けを飾るに相応しい人物と言えるでしょう。


                        ――完―― 

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本当は笑えるギリシャ神話~天翔ペルセウス編~ 秋月白兎 @sirius1

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