第2話 いざメドゥーサ退治&アンドロメダ姫救出!

その頃になるとまた違う問題が母子の上に降りかかります。島の王ポリュデクテースが、今なお容姿の衰えないダナエーに言い寄ってきたのです。次から次へと難儀な事ですね……。


 ダナエーは元々アルゴスの王女様。辺境の小島のむさくるしい王様如き歯牙にもかけません。当然ですね。けれども度重なれば迷惑極まりない事もまた事実。しかも王女とは言っても「元」がつく流浪の身。加えてこの時代にストーカー規制法はありません。あっても王様に都合のいい判決が出るであろう事は明白です。


 こうなれば逞しく成長した息子ペルセウスだけが頼りです。言い換えればポリュデクテースにとっては最大の邪魔者。ペルセウスは長身マッチョ、動作もキビキビとしていかにも精悍な若者に成長していたのです。ゼウスの血を濃く引いているんですから当然ですね。


 この若造をなんとかせねばと脳味噌をフル回転させたポリュデクテースは祝宴への進物を募ると言って(アポロドーロスではオイノマオスの娘ヒッポダメイアに求婚するのに贈物を集めると言って)島の主だった人々を招き、各自に馬を懇望しました。


 さぁ困ったのはその場にいたペルセウス。成人したとは言ってもまだ親がかり。更に他家の世話を受けている身です。馬を他人に贈るなど思いもよりません。


 そしてここで余計な事を言ってしまうのです。



「自分の腕で取れるモンならたとえゴルゴンの首でも持ってくるんやけど、馬だけは勘弁してもらんやろか」



 ああ、なんという事でしょう。腕に覚え有りといっても離れ小島の中しか知らない若造がいきなりゴルゴン退治など出来よう筈もありません。思い上がりもいいところです。そしてこのポリュデクテースは無理難題を吹っ掛ける事こそが目的なのです。



「さよか! ほな、ゴルゴンの首よろしゅう! もしも出来へんかったらその時は……分かっとるやろな?」



 もうポリュデクテースにとっては願ったり叶ったりの展開です。まったく余計な事を言ってしまったと思っても後の祭り。認めたくないものですね、若さゆえの過ちちというのは……。


 このゴルゴンは海の神ポントスと大地母神ガイアの子であるポルキュース(またはポルコス)とケートーが生んだ美貌の三姉妹でしたが、末の妹メデューサがアテナ様の神殿でポセイドンの求愛を受けたため(意味深)、アテナ様の怒りを買って醜い怪物に変えられてしまったのです。別の伝では自分の美しさを自慢したがためにアテナ様に……という展開ですが、要するにアテナ様の怒りに触れたワケですね。


 その姿はひたすらにグロく、頭髪は全て蛇、歯は猪の牙、手は青銅、更に黄金の翼で空を飛ぶのです。加えてお馴染みの貌を見た者は全て石になってしまうという厄介極まりない化け物。えらく変わってしまったものですね……。


 その上更に(まだある難題)その棲み処を知っているのは彼女達の従姉妹に当たるグライアイ(老婆の精)だけなのです。前途多難もいいところです。


 普通なら絶望するところですが、心強い味方が現れました。知恵と戦勝の女神アテナ様です。アテナ様が案内&指導役をしてくれるというのですから「新しい顔になったア○パ○マ○」状態。勇気&元気百倍ですね。


 更に毎度お馴染み、お使い神ヘルメスが自分の翼のついた「空飛ぶ靴」(サンダル)とハーデスのかぶった者の姿を見えなくする「隠れ兜」を持ってきてくれたのです。これで飛行能力とステルス能力もゲットです。


 更に更に、流れのニンフ・ナイアデスがキビシスという袋を「ゴルゴンの首を入れときなはれ」と貸してくれたのです。うっかり石になってはいけませんからね。ヘシオドスの伝ではこのキビシス、金銀で飾られている豪華な造りとの事です。


 これらの便利アイテムはグライアイが持っていたという伝もありますが、それは後代の異伝のようです。


 さて、アテナ様はまずペルセウスをグライアイの居場所に連れて行きました。彼女達はエニューオー、ペプレードー、ペルソー(またはデイノー)の三人(ヘシオドスによれば二人)の老婆の姿をした妖女で、太陽の光も月の影も届かない洞穴の奥深くに棲んでいました。


 そして全員で一つの眼と歯を共有していて、必要な場合にそれを手渡しして眼窩や口に入れて使うのでした。うん、キモイですね。まさに妖女です。


 さぁ攻略です。まともに話し合っても取り合ってくれそうもありません。化け物ですからね。ならば力尽くです。


 ペルセウスは例の隠れ兜をかぶって忍び込み、隙を見て一つしかない眼を奪い取りました。さっそく便利アイテムを活用してますね。目的の為なら手段を選ばないあたりもグッドです。



「へっへっへ。さぁ、これを返して欲しかったらゴルゴン達の居場所を言うんや!」


「おのれぇぇぇ! この卑怯者! 外道! 鬼! 悪魔! 鬼畜! 恥知らず!」



 等といったやり取りがあったことでしょう。胸が熱くなりますね。こうしてボスキャラの居所ゲットです。


 ここでアテナ様から重要情報です。ゴルゴン三姉妹は上から順にステノー(強い女の意)、エウリュアレー(広く彷徨う女、或いは遠くに飛ぶ女の意)、メデューサ(女王の意)の三人。そのうちステノーとエウリュアレーの二人は不死で、末のメデューサだけが可死なのだという事です。


 これでターゲットも確定です。識別はアテナ様がしてくれるので、初対面でも間違えません。


 でも問題はまだあります。迂闊に近付いて彼女達の顔を見たら即アウトです。それに一撃で仕留めないと厄介な事になります。そこでアテナ様は鏡の様に磨き上げた青銅の楯を与え、これで見ながら進めと教えてくれました。流石は頭脳派の女神様ですね。


 凸面鏡を使いこなすのは大変でしょうが、アテナ様の事ですからコツを教えた上で練習させたのではないでしょうか。


 更にお使い神・ヘルメスが鋼鉄製で鎌状の剣・ハルパーを授けてくれました(或いは発明神・ヘパイストスから借りたとも)。


 これで準備完了です。失敗する方が難しいかもしれません。アテナ様の導きで首尾よくゴルゴン達の棲み処に侵入。勿論の事ですがフル装備です。しばらく進むと前方に化け物達を発見。上手い事に昼寝の最中です。出来過ぎな気もしますが、きっとアテナ様の采配でしょう。ジャストのタイミングで到着するようにしていたに違いありません。


 アテナ様の教えに従い、青銅の楯で確認しながら接近し……ハルパーで一撃!


 見事に討ち取りました。アッサリ過ぎる気もしますが、闇討ちなんですからそうならないと困ります。転がった首を見ないように気を付けながらキビシスの中に収めました。が、ここでアクシデント発生。メデューサの首から流れる血の勢いが激しすぎて盛大な音がしてしまい、残り二人が目を覚ましてしまったのです。


 一転してピンチ到来! ゴルゴン達は黄金の翼で羽ばたき、妹をSATSUGAIした犯人を捜し始めました。絶体絶命のピンチ……にはなりませんでした。ハーデスの「隠れ兜」を装備しているので見つかりっこありません。更にヘルメスの「空飛ぶ靴」を履いているのです。安全・快適にスタコラ逃げ出すのでした。緊張感に欠けますが仕方ありません。神様がズラッとついているのですから。


 一説ではこの時、メドゥーサはポセイドンの胤を身籠っていて、首を切り落とされた傷口から天馬ペガサスとクリューサオル(怪人ゲリュオンの父)とが生まれたと言われています。ペガサスは後にアポロン神の所有となり、ペレーロポンテースを乗せて手柄を立てる事になります。



 ペルセウスは帰る途中でリビア上空を通りました。その時メドゥーサの首から血が地面に滴り落ちてしまいます。するとその血から様々な蛇が生まれるではありませんか。それ故にリビアは蛇が多い地になったと言われています。


 そのまま巨人アトラスが支配するヘスペリデスの園を訪れました。アトラスはここにある黄金の林檎を守っているのですが、ペルセウスは夜になってしまったので休ませて貰おうと思ったのです。が、アトラスは断ります。女神テミスから「アンタはゼウスの息子に黄金の林檎を奪われるで」と予言を受けていたからです。ペルセウスがそれではないかと疑っていたワケですね。実際はヘラクレスに奪われるんですが。


 幾ら頼んでもアトラスはOKしてくれません。そりゃそうですよね、黄金の林檎を奪われたら神々にどんな目に遭わされるか分かったものじゃありません。とは言えペルセウスにしてみれば知ったこっちゃありません。業を煮やした彼は、なんとアトラスに向けてメドゥーサの首を突き出したのです。


 ああ、なんという事でしょう。幾らアトラスと言えどもメドゥーサの顔を見てしまったら一たまりもありません。あっという間に石になって、果ては山と成り果ててしまいました。これがアトラス山脈だそうです。こうなると後のヘラクレス伝説と辻褄が合わなくなってきますが、そこはまぁ……神話ですから。


 それにしてもペルセウスももう少しやり様がなかったんでしょうかね。



 明けてセーリポスに帰る途中、エチオピア上空を通りかかった時です。波の打ち寄せる岩に人が縛り付けられているではありませんか。何事かと思い降りて近寄ると驚く程の美女でした。


 彼女の名はアンドロメダ。この地を治めるケフェウス王の娘という事でした。要するにここのお姫様です。


 話を聞くと、母親であるカシオペア王妃も美女なのですが、容姿自慢の際に迂闊にも神々を貶める発言をしてしまったのです。



「ああ、ウチの美しさには海に住むネーレイデス達も誰一人として歯が立たんやろなぁ。オーッホホホホ!」



 と言う神話にありがちな展開だったワケです。ネーレイデスは海の老神ネーレウスの娘達。要するに女神様(ニンフとの説もあり)です。神話世界で女神さまを貶めるとはいい度胸ですね。


 勿論ネーレイデス達は怒り心頭に発し、ポセイドンに訴え出ます。ポセイドンの妻がネーレイデスの一人、アンピトリテーだからです。ポセイドンにしてみれば妻を侮辱されたも同然ですから早速天罰を下しました。


 それは洪水&海の怪獣カイトスの襲撃です。いきなりダブルパンチとはキツイですね。しかし神様がする事ですのでそれは正しいのです。翻って国王の立場になればいくら神様のやる事とはいえ、国が荒らされれば困るもの。アンモーン神のご神託を伺うと、王女アンドロメダを人身御供に捧げるしかないというワケでこの仕儀となったというのです。


 怯えながらも自らの務めを果たそうとする姿に心を打たれたペルセウスは彼女を助ける事を決意しました。それでこそ英雄! ヒーローです!


 王宮を訪ねてケフェウス王に直談判して、王女の救出を約束し、その褒美として王女との婚約を求めました。お約束のパターンですね。まぁ助ける「だけ」が目的ではなかったと言う事になりますが、そこはそれ。命を懸けるんですから許されてもいいんじゃないでしょうか。


 ケフェウス王にしても娘を怪獣の生贄にするよりは、どんな奴でも人間なだけまだマシというもの。奇跡にすがる思いで了承します。


 ペルセウスは岩陰に潜んで怪獣カイトスを待ち伏せます。そして出現する怪獣カイトス! 大波と盛大な水飛沫をぶちかましながら襲い掛かってきます! さぁどうするペルセウス!


 対策は一つしかありません。万能&無限石化兵器「メドゥーサの首」です。目の前に突き付けられて哀れにも石化してしまうカイトス。ただ神様の命令に従っただけなのに……。


 このカイトス戦は正面から激闘を繰り広げたという説もありますが、ちょっと無理がありますね。幾らゼウスの血を引くとは言え、ここまで特に超人性を見せていませんので、ヘラクレスと違って「人間としては強い」くらいにしか見えません。やはりメドゥーサの首でサクッと倒したと見るべきでしょう。


 さて、石化した怪獣カイトスはそのままエチオピアの海岸に今でも残っていると伝えられていますが……地図を見るとエチオピアに海岸は無いんですよね……。きっと当時はあったんでしょう。そういう事にしておきます。


 というか「エチオピア」ですよね。当然アンドロメダ姫もエチオピア人ですよね。つまりよくあるイメージの金髪・碧眼・白皙の肌ではあり得ません。よく女子マラソンで見かけるエチオピア代表選手的な感じの筈です。が、そこはそれぞれのイメージで通しましょう。


 さて、こうして見事に怪獣カイトスを倒したペルセウスとアンドロメダ姫は手に手を取って王宮に戻って来ました。英雄と姫の凱旋です。拍手喝采と花吹雪の場面ですね。


 しかしこれを苦々しく見ている人物がいました。ケフェウス王の兄弟ピーネウスです。彼はアンドロメダ姫の「前婚約者」だったのですが、今回の騒動でご破算になっていたのです。ですが怪獣カイトスがいなくなれば話は別。未練の炎がメラメラと燃え盛るのがこういう男。


 彼は王女と王位への色と欲から陰謀を企て、一味を引き連れて襲い掛かって来るのです。


 ああ、なんという事でしょう。怪獣カイトスに手も足も出ないのに、そいつを葬った男に挑むとは。どう考えても勝ち目はありません。何を考えているのでしょう。何も考えてないだけかも知れませんね。


 案の定ペルセウスは姫達を下がらせ、賊共に向けて「メドゥーサの首」攻撃発動。惨めな男達は惨めな石像へと姿を変え、惨めな末路を晒し続ける事になるのでした。


 ペルセウスはこの地に一年ほど留まり、アンドロメダ姫との間に生まれた男児をケフェウス王の世継ぎとして残し、妻と共にセーリポス島に帰還しました。



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