最強のゲームキャラの能力を貰ったら仕様ごと引き継いだ件
浅月 大
最強はつらいよ
端的に言おう。俺は死んだらしい。
周囲全て暗闇の中、目の前の神と名乗る老人がそう言っている。
白髪だし端っこロールしてるし長い髭だしローブっぽいの着てるし杖持ってるし何か当人の周囲だけ光ってるから多分神様なんだろう。
「まったく、お主はバカか?」
おっと初手暴言いただきましたよ。
まぁバカはバカでも俺はゲームバカだろう。何せ寝食惜しんでゲームやるぐらいにはゲームバカと言う自負はある。
ゲームは良い、何にでもなれるしこんなクソくだらない現実世界を忘れられる。
むしろ何故あちらが現実ではないのか。向こうならいくらでも英雄になれるというのに。
「ともかくお主はゲームのしすぎで死んだ。そこまではよいか?」
「まぁよくは無いけど確かめれないのでよしとしますよ。それで神様が自分に何の用ですか? あ、転生ですか? でしたら是非とも中世ぐらいでかっこいい男の子で可愛い幼馴染や婚約者がいて、魔法の才もあるような――」
「待たんか! 誰がそんなことすると言ったか!」
なんだ、違うのか。
じゃぁ一体何の用だろう。死んで会話するぐらいだから何かしら言うことがあるのだろうが。
「そもそもわしは神は神でもゲームの神様じゃ」
「……それは凄腕プレイヤーらの通称では?」
「そういう意味合いもあるが、今回はそのままの意味じゃ。様々なゲームを取りまとめる神、それがわしじゃ。RPG、アクション、カードゲームに格闘、シューティングなんでもじゃぞ」
おぉ、マジでそんな神様がいたのか。
さすが日本、ビバ八百万の神々!
「それでゲームの神様がどんな用で? もしかしてゲーム好きな俺をゲームの世界にご招待とか!?」
「やってもいいが大体ゲームの世界なんて今は容量一杯一杯じゃぞ。トランプの絵柄に印刷するぐらいならまぁ……ぐらいじゃが」
「そんな生き恥晒すぐらいならこのまま成仏するわ! いや死んでるけど……」
疲れたのかどっこいせ、と腰を下ろす神様。なんか座ると神々しさが半減するのがなんとも面白い。
玉座でもあればまぁそれっぽく……?
「なんか失礼なこと考えておらんか?」
「いえ全然」
「……まぁよいわ。ともかく楽しんでもらうゲームで逆に死ぬなどあってはならんことじゃ」
「むしろ俺にとっては本望な死に方だけど」
「お主だけで済むならほっとくが、考えてもみぃ。ゲームで死んだ、なんて主の国で広がったらどうなるか分からんわけでもないじゃろ」
確かにここぞとばかりに口うるさい面々がこぞって騒ぎ立てるのは想像に難くないだろう。
愛したゲームがそんな奴らに蹂躙されるのはものすごく腹立たしくさえ思う。
「そこでじゃ。特例でお主を生き返らせようかと思う」
「お断りします」
だがそれももはや終わった話。
あんなゲーオタに無理ゲーな現実世界に何故復活しなきゃあかんのだ。
「何故じゃ?」
「あんな現実、面白くないじゃないですか。せめて生き返るならゲーム世界がいいですよ」
「お主……言いたいことは分かるがあっちはあっちで色々大変なんじゃぞ?」
「ハッ、少なくともゲームの主人公ってだけで他に比類ない能力あるじゃないですか。そんだけでこっちじゃ人生勝ち組ですよ。所詮村人Yぐらいのヒエラルキーの俺じゃ生きてもつまんないんですよ」
「お主も強情じゃのー。……ならなるか? お主が望むゲームの住人の力を得て」
「……え?」
今なんと? ゲームの住人の力を得て?
それはつまり魔法とかも使えちゃったりするアレですか?
「ゲームの世界で生き返らせるのは無理じゃが、ゲームのキャラの力を得て生き返らせるぐらいはまぁいいじゃろ。ただしお主があっちの苦労全然分かってないからおそらく後悔すると――」
「する! やって! 是非お願いします神様!!」
すでに終わっているが人生最速の土下座を見せる。
さすが神様! この人は俺のことを分かってくれている!
これで今後の人生は面白おかしく過ごせること間違いない!
「……ホント分かってないようじゃから言うが、その状態で生き返らせるってことは」
「あー! 大丈夫です! 後悔しません! だから! 是非! 今すぐ! お願いします!!」
頭上から深いため息が漏れたと思えば、不意に意識が遠くなる。
これでついに俺も……!
◇
目が覚めると自室の床だった。
時刻はすでに朝。固い床で寝ていたためか体の節々が痛む。
起き上がり目の前のディスプレイを見ると、昨日やっていたRPGの画面が戦闘コマンド入力待ちで止まっていた。
(……昨日のは夢だったんだろうか)
妙にはっきりとした夢だ。あの神様とのやり取りも事細かく覚えている。
あの夢が本当なら俺はゲームの力を手に入れたと言う事になるが……。
(お?)
不意に頭の片隅に見覚えのあるウィンドウが表示された。
自分の名前とHPとMPが描かれた簡易的なソレ。よくキャラを待機状態にさせると自動で出てくるやつだ。
(マジかマジかマジか!!)
平均的な人の数値が分からないが、HPもMPも数えるのがバカらしいぐらいの数値をたたき出している。
試しに頭の中で某有名RPG同様コマンドウィンドウを願うとそれが出てきた。
強さの項目から自分のステータスを確認。ありていに言えば全てが最強の数値だった。
スキルや魔法もほぼ全網羅。と言うより今までやったゲームの能力を全部引き継いでるのではなかろうか。
「うわー、どうしよ。やっばいよなぁこれ、俺最強じゃね?」
起き上がり体を見るが別段筋肉が増量された様子もない。
だがステータス上の力はカンストを通り越して訳が分からない数字になっている。
きっと神様が不思議パワーでなんかこう、色々やってくれたんだろう。
「っと、とりあえず学校か……」
色々試したいところだが時間はまだまだある。帰ってからゆっくりやればいい。
それに学業はしっかりやるべきだ。最強が隠れて色々やるというお約束はやはり踏襲するもんだろう。
「……あれ?」
クローゼットを開けようとして手が止まる。いや、動かない。
何か状態異常でもあるか、と思うもステータスは白の正常表示。何も起こっていない。
右手を普通に上げる。うん、上がる。
左手も普通に上げる。これも上がる。
そのままクローゼットに手を伸ばす。途中で止まる。
「………?」
訳が分からない。このクローゼットに実はゲーム的な鍵がかけられ、それを見つけないと開かない……いや。
「まさか……」
恐る恐るといった感じで頭の中で再びコマンドウィンドウを出す。
出てきた中の文字を一つ選択。【調べる】だ。
すると手が自動で動き中の制服を取り出した。
『制服を手に入れた』
「うぉ!?」
何処からとも無く無機質な声に驚く。
いやいや待て待て、確かに完全にゲームだとこんな感じだがもしかして今後ずっとこれか?
「はは、まさか……」
嫌な予感に冷や汗が流れる。確か神様はゲームの世界の苦労はあるとは言っていたが、まさか……ねぇ?
(いや、この手順だともしかして……)
制服を着ようとする。が、手が動かなくなる。
コマンドウィンドウから【装備】を選択。しっかりリストに制服があり、しかも装備後の防御値まで見えるおまけつきだ。
制服を装備することでようやく着替えが完了する。まさかこんな当たり前のことがここまでめんどくさくなるなんて……。
(こりゃ迂闊に浮かれれないな……)
ゲーマーにとってまず大事なのは仕様の把握だ。現状の立ち位置が分かれば自ずと攻略方法も見えてくる。
少なくとも今ので何かにつけてコマンドが必要なのがわかった。出来れば便利ボタン機能をつけて欲しいもんだが……。
そしてこの調子だとインターフェース周りはやはりあの国民的RPGだろう。システム周りもそちら基準と思った方がよさそうだ。
「まさかドアにも必要とか言わないよな……?」
下手したらカギが必要とか言い出されかねない。
恐る恐るドアの前で手を伸ばすが今度は大丈夫だった。【開ける】というコマンドが無かったせいかもしれない。
毎度ドアのたびにコマンド入力しなきゃいけないと言う心配から開放され、ほっと一息するも束の間。
――――メギョ!
ドアノブが潰れた。
捻ってねじ切ったのではない。掴んだら握りつぶしてしまった。
力の数値がご丁寧に仕様通り発揮されたらしい。右手の中でもはや鉄くずと化し元が何だったのか分からないほどドアノブは小さくなっていた。
「…………」
とても嫌な予感がする。このままドアを押せばどうなるか。
右手の中の物がドアの未来を物語っている。良くて押したところを手が貫通、下手すればドアが吹き飛び大惨事。
母親が来るのを待つか、とも思うがドアノブの件をどういえばいいのか分からない。
「あ、そうだ!」
確かスキルの中に数ターン巻き戻る魔法があったはず。
コマンドから手早く魔法を選択、リストから該当の魔法を探す。が、無い。
「え、何で?!」
今度はステータス画面で確認。その魔法は確かにある、覚えている。
しかし魔法コマンドのリストにはそれが無い。
(まさか……)
フィールドで使える魔法ではないからと言うことか?
万策尽きた。もはや残された道はドアを壊さずにどうにか開けるしかない。
普通の感覚でドアノブが潰れた。力を抜いてもおそらくダメだろう。
もういっそのこと逆にドアを潰すか? 上手くいけば消滅――
「いつまで寝てんの! 早く……って起きてるじゃない。とっとと朝ごはん食べちゃいなさいよ」
スパーンと盛大にドアが開かれ母親が姿を現した。痺れを切らして来てくれたのだろう。
普段ならうざく思うそれも今日ばかりは女神を見まがいそうなほど輝いて思える。
もちろんそんなことは口には出さず、母親と共にリビングへ向かう。
そしていつも通り自分の椅子に座り用意されていた朝ごはんを掴もうと……
(だ、大丈夫だよな……?)
パンがいきなり爆発したり、コップが粉々にとか十分にありあえそうだ。
戦々恐々としてると自然と体が動き朝食を問題なく摂る。いや、自然とではない。体が勝手に動いている。
もしかして毎朝のパターン化されたものはイベント扱いなのだろうか。
最後に牛乳を流し込みコップを置いたところでほっと一息……。
ピロリロリン♪
『スタミナが回復しました』
(ちょ!?)
聞き覚えのある効果音とシステムの声、更に体が黄色く光りだす。
良くある回復エフェクトの一種だが、まさか飯にまで反応するとは思ってなかった。
慌てて母親の方を見るがこちらを背に洗い物をしていた。水の音で効果音は聞こえてなかったらしく、特にこちらに気づく様子もない。
(あ、あっぶねぇ……)
体が光りだすなんて怪奇現象以外何者でもない。正直エフェクトと分かってる自分ですら不気味なことこの上ないとさえ思ってしまう。
これ以上ここにいては危険と見なす事にした。
本日は学校をサボりどこか山の中で自身のことを解析することが得策と判断を下す。
「いってきます!」
家具を壊さぬよう細心の注意で玄関に移動。ドアは握る力と同じぐらいの力を逆方向に込めることで何とか開けることに成功。
手をプルプルさせながらドアノブを握るその様はもはやアル中さながらだったものの、なんとか家を脱出することに成功した。
◇
「勘弁してくれ……」
外に出て早速問題に遭遇した。
おそらく東西南北の四方向にしか動けない仕様だ。
(最新作だとどの角度もいけるだろうがッ……!!)
インターフェースを某有名RPG(レトロゲー仕様)と情報を上書きする。
しかしマジでどうしたものか。斜め方向が学校の方だと直角移動を繰り返すように動くため不審者さながらの呈そうだ。
……ちなみに学校をサボる予定は無しになった。
ある程度反対方向に動いたところで『今は学校に向かわねば!』とシステムが警告し押し戻されたためだ。
(いっそ魔法で……)
フィールド魔法の中には知ってる場所に一瞬で飛べるやつがある。
それを使えば斜め移動など関係なく一瞬で目的地にたどり着けるだろう。使う瞬間もどこか物陰に隠れ頭上に障害物がないか確認すれば……。
(いや、そんなことしたら……)
頭の中でシミュレートする。
物陰から人がスポーンと高速で射出、そのまま学校に空から降りてくるなどどう考えてもマズい。
もっと早朝ならばありだったかもしれないが……いや、それを高速で飛行する人間なんて見られたらダメだろう。
結局奇異の視線に晒されながらも通学路を歩くことにした。
そして信号待ちをしていたところで本日何度目かの問題に遭遇する。
「なにあれ……?」
「ヤバいよな、お前マグロかよって……」
「ママー、あのおにいちゃんなにしてるのー?」
「しっ、見ちゃいけません!」
「…………」
信号待ちのため歩道で立ち止まったときのことだ。
いや、正確には立ち止まっていない。
その場で手を振り足を上げ足踏みするような状態で体は動き続けている。
(こんなとこまで再現せんでも……)
レトロゲー仕様。キャラクターは止まっててもその場で動くアレだ。
もし誰かがこの場の自分を撮影でもしたら驚くことになるだろう。何せ寸分違わず同じタイミングで動き、寸分違わず同じ位置で手足が動いているのだから。
結局周囲の人間には見なかったことにされた。
◇
そして学校にやっとの思いでたどり着くがやはり問題は発生する。
何せ自分は学生だ。そして学生とは学校にいるものだ。
そしてそんなゲームのキャラが学校にいる場合、イベントが目白押しなのはもはや恒例行事である。
「あぁん?! お前どこ見てんだぁ?」
不良に絡まれた。それもご丁寧に三人組。そしてシチュエーションはお決まりの校舎裏。
元々ゲーオタの自分にとって不良に絡まれる土壌はすでに整っていた。
「お前よくゲーム買ってるんだってな? なら金持ってるよなぁ?」
「俺らもよくゲームやるんだよ、ゲーセンだがな。ほらこれで俺らとお前はマブダチってわけだ」
「なら互いの趣味のために金出し合うのは当然だよなぁ」
もはやどこから突っ込んでよいのかと思うぐらいのテンプレだった。
昨日までの自分ならきっと大人しく金を出していただろう。だが今は違う。
こんな三人を瞬殺するぐらいきっと出来る。だがやったら社会的に自分が死ぬ。てか近づくな、触れただけで吹き飛ぶかもしれないんだぞ。
「まぁ今日のところはユキチセンセー二枚で許してやっからよ、な?」
お決まりのパターンから察するこの後の展開は多分殴られるんだろう。
そして騒ぎを聞きつけたNPCっぽい生徒が教師を呼んでうやむやとかが無難なところか。
(腕痛めるんじゃないぞ……)
ただ問題はこちらの防御力である。
攻撃力ですらアレだ。殴られてもこちらにダメージはないが、下手したら相手の手が砕けかねない。
いや、砕ける程度で済むと思うべきか。何せこちらが手を出したら文字通り血の雨が降る。
「なー、早く出せよ。俺らがいつまでも大人しく待ってると思うんじゃねーぞ?」
「てかめんどくせー。やっちまおうぜ」
「だな。まぁお前が遅いのが悪いってことで」
すばやさの数値見せてやろうか、と心の中で突っ込みを入れると同時、予想通りの展開になった。
『不良Aが現れた。不良Bが現れた。不良Cが現れた。』
脳内に響くシステムメッセージにご丁寧に戦闘BGMのおまけつき。
どこからどうみても見慣れたアレです。
(つってもなぁ……)
コマンドに『たたかう』とか『まほう』とかあるがもちろん論外だ。
たたかうを選んだ場合きっと体が自然に動き相手を消し飛ばしてしまう。
魔法もダメ。正直試してない以上最弱魔法でもミサイル並みの威力があってもなんら不思議ではない。
(つまりここでの正しい選択はこれだ!)
『ぼうぎょ』。自分で手を出さず相手にされるがまま。
つまりこれで誰か一人が手を傷めて三人まとめて退散する。これが一番平和な解決だ!
「亀のように丸まってんじゃねーぞ!!」
防御体勢は某ボクシング主人公のようなピーカブースタイルだった。
不良のパンチが向かってくるか正直ものすごく遅い。もしかしたら戦闘になったことで各種ステータス補正が発動しているのかもしれない。
『不良Aの攻撃』
パンチが着弾する直前にシステムの声が脳内に響く。
毎アクションの度にこれを聞かなきゃならないのかと思うと精神的にげんなりしてくるのだが――
『カウンター発動!』
(は?!)
システムの声が無慈悲にスキルが発動されたことを告げる。
待てとも止まれとも思う間もなく体が自然に動き、最短最速の軌道で最高のカウンターが炸裂した。
――パァン!!
どこか風船が割れたような破裂音。
目の前の不良の上半身が跡形も無く消し飛び下半身が大地に伏す。
「…………」
「…………」
「…………」
ドチャリ、と聞きなれない音と鼻を突く鉄の臭い。
倒れた下半身から血と臓腑がモザイク無しで飛び出している。
「ぎ、ぎゃああああああ!!??」
「ひ、う、あああああ?!」
半狂乱になり残りの二人がその場から逃げ出していった。
そして残されるのはもはや半分になった不良Aだったものと、その原因になった犯人のみ。
『不良Bは逃げ出した。不良Cは逃げ出した。経験値2を獲得。3451円を手に入れた』
「手に入れたじゃねえええええ!!!」
口ではツッコムがもはやこの体はシステムに逆らえないらしい。
倒れた下半身に手を伸ばし財布を抜くと、中の金を全て懐に納める。
「いやいやダメだろこんなん!!」
懐に納まった金を取り出そうとするが手が出せない。このインターフェースの都合上、お金を捨てることも分けることもできなかった。
手に入れるか使うかの二択である。
(どうすんだよマジでやっちまったぞあああ前科一犯とかシャレにならんて――)
『なんと不良Aが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?』
「は?」
頭を抱えていると再び聞こえるシステムの声。
ものすごい嫌な予感しかしかないが顔を上げてみてみると、不良Aの下半身が起き上がりこちらの反応を待っている。
こんな光景などもはやホラーでしかない。いや、ホラーすら生易しい不気味さだ。
(え、これ仲間にするの?)
仲間にした展開を想像する。学校内で自分の後ろをついて歩く下半身。
それだけで想像を中断するに十分な破壊力だった。大騒ぎどころではない、もはや猟奇殺人も裸足で逃げる世界である。
「いやいや無理無理!!」
脳内に浮かぶ『はい』『いいえ』の選択肢を迷うことなく『いいえ』を選ぶ。
『不良Aは寂しそうに去っていった』
「ちょっと待ってえええええええ!!!!」
勝手に校舎裏から去ろうとする不良A(下)を強引に引き止める。
結局強制的に戦闘態勢に持ち込み、倒し仲間にした上で蘇生魔法をかけて別れる。と言うアイデアを思いついたため、何とか事なきを得るにいたるのだった。
◇
「つ、つかれた……」
自宅に帰り自室に入るとそのままベッドに倒れこむ。
HPもMPも全然減ってないのになんだろうこの倦怠感は。それぐらい今日一日で精神をすり減らした。
流石に不良の一件ほどのことは起きなかったものの、イベント自体は豊富にあった。
授業を受ければ先生の質問が自分に飛び、更に四択から選ぶ羽目になったり。
そして正解したら妙なSE音と共に魅力が上がったと告げられたり。
昼休みなんて人生初の便所飯をする羽目になった。弁当を食べ終わった後予想通り体が光った。予測した自分はとても偉いと思う。
放課後に何故か憧れの先輩からの誘いがあったが断わった。
正直血涙出してもおかしくないぐらい惜しいことをしたと悔やんでいるが、きっと放課後デートから不良に絡まれ殴殺パターンだったろうから多分これで良かったのだろう。
そう、良かったんだ。そう思わなかったらやってられない。
『もう寝ますか?』
ベッドに寝そべったためシステムが起動したらしい。
もう何もする気が無かったので『はい』を選択すると、視界が暗くなり意識が遠のいていった。
◇
これは夢だ、と確信するのに時間はかからなかった。
何故なら目の前に例のゲームの神様が腕を組み立っている。
「どうじゃ?」
「生意気言ってほんとすいませんでしたもう勘弁してください」
「よかろう」
神様はそれ以上何も言わない。俺も何も言わない。
たったそれだけの会話で互いが全てを察していた。
「これに懲りたら真っ当に生きるんじゃぞ」
その言葉を最後に神様の姿が薄らいでいき、次第にこちらも再びまどろみに落ちていった。
◇
はっとして目を覚ます。窓から差す朝日の光が眩しい。
自分はどうなったのだろう。元に戻ったのだろうか……。
恐る恐るベッドから起き上がると、昨日同様システムウィンドウを念じる。が、何も出てこない。
そしてゆっくりと枕に手を伸ばしそれを掴む。枕はその弾力をしっかりと手に返してくれた。
「元に戻ったぁ……」
安心感で力が抜ける。
本当に昨日は辛かった。いくら最強の能力があってもあんなことはもう懲り懲りだ。
「ん?」
ふと、机の上のディスプレイが点いていることに気づく。
昨日何もせず寝たはずなので本来ならば真っ暗のはずだが、そこにはゲームの自キャラがこちらを覗くように向いていた。
まるで『俺達の苦労分かったか?』と言っているようで……。
「ほんとすいませんでしたっ!!」
画面に向かい頭を下げ謝罪をする。
彼らは彼らで確かに多大な苦労をしていたようだ。あんな仕様の中生きているなどもはや尊敬に値する。
あの苦労に比べたら自分の思っていたことなどなんと小さいことか。
「うん、ほんと頑張っていこう」
心を入れ替え気を取り直し学校に向かおう。
ゲームはもちろん好きだが現実も攻略せねばなるまい。
「あ……」
だがドアノブないドアを見て早速出足を挫かれる羽目になるのだった。
最強のゲームキャラの能力を貰ったら仕様ごと引き継いだ件 浅月 大 @Asatsuki
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