風邪

風邪

　俺は風邪を引いた。

　大人の風邪はなかなかにしんどいもので、細胞がウゲーもう無理だよー、とげとげー、セルが！細胞一つ一つのセルが！もうパンクしてます！一個一個がとげとげになっているので寄生者を攻撃します！ちくちくちくちくちく。

　筋繊維をぐちゃぐちゃにしてやる！筋繊維を痛めつけてやる！筋繊維細胞たち集まってー！はーい！さぁ、極力痛みを放出するんだよ！痛みを脳に届けるんだ！お、腕の細胞くんたち、君たちは素質があるね。とても良い。効率よく痛みを届けているね。

　太腿くんの細胞たちもセンスがいい。太腿は大きいから大変なのに、しっかり全体を怠くしているね。こう、力が入らないように、無理やり痛みを放出していて良いよ。とても良い。

　脳みそが！脳みそがパンクします！色んなところの痛みでパンクしてしまいます！ええい、知ったことか。それは風邪を引いたんだから当たり前のことなのです。これからもずっとやるんだから。最高得点狙うよみんな！いいね？はい！頑張ります！！

　ウゲウゲウゲ、俺は踊る。横にゆらゆら揺れながら、ひゃっはーっと声に出し、時には縦揺れもする。こんの細胞たち、役立たず。お前らは俺を苦しめるために生まれたのか？違うだろ？俺を構成するために生まれてきたんじゃないのか。

　こうなったら、こうなったら腕を落とすしかない。足も落とすしかない。人は脳みそさえあれば生きていける。俺は脳みそになり、脳に栄養を送ってもらうんだ。痛みを感じる身体などいらない。俺を裏切った細胞たちに制裁を。

　フーフーと荒い息をしながら包丁を取りに行く。腹も痛くなってきた。大丈夫。脳みそになれば、腹は無くなるから。

　包丁に辿り着く前に床にぶっ倒れた。床はひんやりとしていて熱った身体には少し気持ち良かった。

　もう何もかもどうでも良い。

　確かに疎かにしていたよ。睡眠を取らなかったり、栄養を摂らなかったり。でも、俺はいつもビタミン入りのゼリーを飲み、野菜ジュースも飲んで、時には乾燥したところにボディクリームなんかを塗ってお前らを労ってきたじゃないか！クソめんどくさいのに風呂も準備して、あったかい風呂に入れてやって、優しくしてきただろう？何がいけないんだ。俺は……俺は、何がいけなかったんだ……。教えてくれよ。

　睡眠不足だからです。あと風邪ってそんなものです。

　薬局が開くまであと3時間。俺は耐える。