第1話 深紅

ガタンゴトン。

なんて、音のしない電車の窓ガラス越しに映るビルを見て思った。

絵を描くのが好きで、「漫画家になりたい」と言っていたあの子は介護士になった。

高校時代、目一杯やんちゃしてたあいつは今や歌手デビュー。

「落ち着くんだよ」「付き合ったよ」って言ってた二人は何処にもいないし。

悩める心のやり場に困っている時、あなたは音信不通で。

一体どれだけの人が思い描いた理想を掴んで、どれだけの人がお互いを想い合える人に出逢えるのだろうか。

なんて、考えている間に着いたプラットホーム。

扉がくと、一体何処にこんなにも隠れていたのか?と思う程の人たちが、ぞろぞろと降りて行く。

私は、その大勢の人波に紛れてゆっくりとホームの階段を降りて行った。

予定のない休日。

自宅でゆっくりするのもいいけれど、そしたら時間を無駄にしてしまうようで、私はよくフラりと街を徘徊してみたりする。

今日だってそうやって過ごすのだと思っていた。

「あの…」って掠れた声に振り向くまでは_____________________


初めは道に迷った人なのかと思った。

黒髪の、少し猫背な男の人がそこに居た。

「どうしたんですか?」

私が聞くと、「葵衣あおいさんだよね。俺のこと覚えてる?」って。


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ゼラニウムの咲く頃に @huayu

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