第30話

お互いを恋敵としている麗奈とマキが共に異世界に行く事を零は嬉しくも不安に思う。異世界に転移が済むと麗奈が注意深く街を観察している。すると鼻をぴくぴくさせて顔を大きくしかめた。


「何よこの臭い。臭すぎるわ」


「そうかな? 異世界の匂いがして来たぞって気になっていいじゃない? いい匂い」


マキと麗奈の意見は対照的だった。零はマキの意見に近かった。浮浪者の臭いでも平気で、臭い中にも良い匂いを探したりするタイプ。ワキガの匂いも平気だ。体臭だもの。仕方ないよねと言う意見。

マキもそうで入院患者の臭いも気にしない。お風呂に毎日入れないのだから仕方ないよねタイプだ。だが、麗奈は違った。終始鼻を摘んで顔を歪めながら歩いている。


「お前ら毎日風呂入れ! あー! 浄化したい!」


麗奈が街の臭いに我慢出来ずにキレた。すると辺りは白い光に包まれた。

街の人々の体が綺麗になっていく。服のシミや汚れも綺麗になっていく。これは凄まじい。これ程強力で広範囲の浄化魔法は神である私も久々に見た。

仮にアンデッドの大軍がいたなら1000体は軽く跡形もなく消え去っているレベルの浄化魔法だ。麗奈の才能末恐ろしい。


「うん。臭いにおいが消えた。私のいい香りだけが残った」


麗奈は浄化が成功してご満悦だ。異世界は合わないが、自らの力で強引に変えてしまった感じだ。


「麗奈とやらその浄化の魔法で浄化屋をやってみてはどうかな?」


「何よあなた。偉そうに。それにしても随分と威厳があるわね」


「だってお前達を異世界に招待した神だからな」


「は? 神ですって!? なら今すぐレベルMAXにして神話級の伝説の装備頂戴! 世界を救ってあげる」


「いや、無理。ゲームじゃないんだし、レベルは経験を重ねないと強くなれないよ。筋トレもしないと力も上がらないし、瞑想しないと精神も上がらないし、勉強しないと知力も上がらない」


「はぁー!? 面倒ね。時間が無いから私は帰ろうかしら」


「そんな事は言わずに異世界語は全て脳に書き込んであるからそれで我慢してくれ。神からの頼みだ」


「仕方ない。1から言語を覚えなくていいのは時間短縮ね。3週間程の。仕方ないやってやるわ。勇者ってやつを」


「え、勇者は別の人で君は聖女だよ?」


「えー? 勇者がいいわ」


「でも、わしの鑑定でも聖女敵性SSSだし我慢して?」


「嫌よ。私は勇者」


麗奈と神との初対面はこんな感じで最後は平行線だった。聖女で満足してもらうのに説得に1時間も費やしてもダメで結局、聖女の杖とローブを渡して諦めてもらった。10億ゴールドを超える装備を初日からってどういう状況だろう。

ゲームに例えるならレベル1から最強装備をゲットだ。もっと苦労して装備を整えるべきで、有難みが全く持てないので嫌いだ。私の信念を曲げるとは麗奈恐るべし。先が思いやられる展開だ。

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