第29話
悪霊と怨霊をマキと協力してからの朝、零の家の台所からとてもいい匂いがしている。マキが早起きして朝食を作っているようだ。
冷蔵庫にあった食材が抜群の出来の料理へと次々に生まれ変わって行く。マイペースに作っているように見えて凄まじく手際がいい。
「零さんそろそろ起きたかな。まだ寝てるかな。昨日は凄かったな。首筋に滝のような汗かいちゃた。思い出してみてもまるで夢のよう。あんな体験ってあるんだ。失神寸前のあの快楽はやめられないぜ。この煩悩の塊の私を何度も満足させるなんて」
朝から凄い独り言を呟くマキ。だが、その手は止まっていない。むしろ加速すらしている。本当に料理が得意らしい。麗奈とは大きく異なる。
彼女の料理は食材を豚の餌へと変化させる。まるで真逆だ。魔女の大鍋で作る紫色の暗黒料理。例えるならそんな感じだ。光と闇。あの性格で聖女であるのが疑われるレベルだが、聖なるオーラを持っているのだから仕方ない。世の中は不思議な事で満ちている。
「おはよう。零くん居るかしら。愛に無理やり調べてもらって住所を聞いたのだけれど」
おっと、ヤバい人が来たようだ。これは修羅場の予感。
「零くん誰ですか。それはここには居ません別の家と勘違いなされているのでは?」
「嘘をつくな! 鈴原って表札に書いてあるじゃない! この嘘つき貧乳女」
「あ、鈴原さんの事でしたか。ついうっかり。これで嘘は言っていないよ。それに貧乳ではないFカップだぜ! 昨日も大満足させた自慢の美乳だぜ!」
「なによやっぱりそうじゃない。あなたは何者かしら? 貧乳女。Lカップの私から見ればそれ以下は全て貧乳よ」
「うわ。何その暴論。大きすぎると大変そうですね。肩も凝るし、そのストレスでハゲそう。可愛いブラも無さそうだし。オーダーメイドで高そうだし。胸の大きさも隠せないから変態に狙われそうだし、いい事なさそうですね」
「確かにそうなのよ。肩が凝るから2日に1度マッサージに通ってるし、ブラも特注で高い。私って潔癖症の処女だから痴漢されると全身に鳥肌が立って、更にアレルギーで赤いブツブツが出るのよ。でもね、零くんは特別だから予想通り何も出なかったわ」
「ほう、色々と大変ですね。ご苦労お察しします。ですが、零さんは諦めて下さい。私の中には零さんの赤ちゃんが宿っています」
昨日の事だけど数ヵ月後にはたぶんお腹が大きくなってるから問題ないよね。また休職か。頑張ってお腹の子を大切に育てなきゃ。母乳もいいな。離乳食も手作りしようかな。
新しいミキサーも買わなきゃ。
そんな事をマキが考えていると、麗奈がぶるぶると怒りで震えている。柔らかい髪の毛も逆立っているようだ。
「だからあんたは零くんの何なのよ! 運命の相手の私を差し置いて! 子供!? 何それ意味わからない! 潔癖症の私の唯一の恋人候補を奪い取るつもりなの!?」
「でも、出来るのが早い方が勝ちじゃないですか。潔癖症は大変ですね。催眠術でもして治してみてはどうですか? あなたの素晴らしい容姿が泣いてますよ。あなたなら地球上の零さん以外の男性全員その魅力で夢中にさせられる筈です。意識改革して出直して下さい。これは妻としてのお願いです。今は諦めてお帰りを。将来お友達になりましょう。お互いの子供を遊ばせて。潔癖症、治るといいですね」
マキの言葉にクラクラしている麗奈。かなり衝撃的だったようだ。妻って言うのも嘘じゃないよね。子供出来たら将来そうなるんだし。
「私は零くんを逃すと一生独身よ? それでもいいの? ここは離婚してくれないかしら。3000万までなら出すわ」
「それは思い込みですよ。潔癖症でも、いずれ男性を愛せます。あなたのような素晴らしい美人には、絶対素晴らしい男性が現れます。白馬の王子様もあなたにとっては夢じゃない。それどころがユニコーンに乗って現れるかも知れませんよ。それくらいあなたは素晴らしい女性です」
「そうかしら……何だか戦う気が失せたわ。今日は失礼するわね。連絡無視してきた男達にでも連絡してみようかしら」
麗奈は零の家を出て行った。こうして、玄関前の死闘は終わった。
「なんてこったい。ありゃとんでもない強敵だぜ。ハッタリで誤魔化せたが次はどうなる事やら。まあ、嘘も本当にしてしまえば問題ないぜ! それに、まんざら嘘でもないし。赤ちゃん出来てるといいな。うふふ。零さんと私の赤ちゃん」
零が起きてきたようだ。相当疲れているのか、少し目にクマが出来ている。夜の運動がそれだけ凄かったという事だろう。無意識プレイだったので疲れてきても手加減は一切無かった。
「零さん朝食出来てるよ。賞味期限切れそうな物から使ったけど、作り過ぎちゃった。沢山食べてね」
「うわ、凄い綺麗な料理。テレビみたいだ。ありがとう。沢山作ってくれて。凄くお腹が空いてるんだ」
「うふふ。沢山めしあがれ」
2人で仲良く朝食を食べてると、庭の方から凄まじく殺気を感じた。麗奈が物凄い形相で窓に吸い付くように2人を凝視していた。まるで鬼だ。鬼女だ。
「よくも騙したなー! あんたはマキ。最近付き合ったばかりじゃないの! 子供がいないならこっちの物よ!」
「いや、昨日出来たね! 間違いないね! 危険日だったし!」
「くう!」
「まあまあ、喧嘩は後にして皆でご飯を食べましょう」
「うん!」
零が窓の鍵を開けると麗奈は靴を脱いで入ってきて料理を食べた。
「あら、美味しい。マキちゃんと言ったかしら。今度料理を教えて」
「あ、はい。いいですよ」
「本当に美味しい。あなたいいお嫁さんになるわよ。料理が苦手な私と違って」
「そうですか。ありがとうございます」
麗奈はマキの料理に完全に胃袋を掴まれたらしい。夢中で食べている。
「よかった。2人が仲良しになってくれて。これで3人で異世界に行けますね。食事を終えたら早速行きませんか?」
「はあ!? 異世界ですって? 一体何を言ってるの?」
「私は既に1回行きましたよ」
「それは負けてられないわ! 私も行く!」
「決まりですね」
「3人で異世界を救いましょう」
こうして、3人は仲間となった。ある意味姉妹だ。同じ男と関係を持ったのだから。ライバルでもあるが、ある意味深い仲でもある。果たしてこの3人にどんな冒険が待っているのか。それは未知数である。
マキの光魔法以外の能力も謎だし、麗奈にも聖魔法以外に能力がある可能性が高い。2人もまた零と同じ特質系の能力者なのだから。
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