第28話

麗奈と大人の関係になってしまった鈴原零。彼女の香りとその激しい攻めで頭がクラクラしている。

朝になり、シャワーを浴びてホテルを出る準備をしている。麗奈もシャワーを浴び終えて、大きな胸をブラジャーしまっている。


「昨日の夜は結局、悪霊も怨霊も来ませんでしたね」


「あんな奴らに怯えて震えてる零くん可愛かったわ。今晩はひとりで眠れるかしら? 一緒に住む?」


「そ、それは考えておきます」


麗奈さんと一緒に住んで毎日こんなにめちゃくちゃにされては体が持たない。電車で痴漢された女の人の方がまだ優しく攻めてくれた。麗奈さんは激しすぎる。

それに、悪霊や怨霊が襲って来たら今度は自分で撃退してやる。俺なら出来るさ。自信を持つんだ。零は自己暗示を掛けたが、足が震えている。これはまだ時間が掛かりそうだ。


「まあ、いいわ。いよいよ無理になったら私に泣きつきなさい。あなたが今愛してる女よりは頼りになるわよ」


「彼女にも光魔法がある。彼女が助けてくれますよ」


「聖なる魔法とどちらが役に立つか明白なのだけれど。私と一緒にいるべきよ」


「そうかも知れません。ですが、麗奈さんの光は俺には強すぎる。眩しくて目が眩んでしまう。俺達は釣り合わないんですよ。人間的レベルが麗奈さんは高すぎるので」


「まだそんな事を気にしているの? いざとなったら主婦をしなさい。私が働いて稼ぐから」


「そうじゃなくて、対等な関係でいたいのです」


「何を言っているの。人間の個性はそれぞれ違う。本当の意味での対等な人間なんて1人もいないわよ。それぞれ別の良さがある。そのままでいいのよ」


「そうですね。確かにその通りだ」


零は麗奈の言葉にねじ伏せられた。マキとの甘い恋も、麗奈のほろ苦くてほのかに甘い恋に飲み込まれてしまいそうだ。


「なら、一緒に住むわよ。今から私の部屋に案内するわね」


「ちょっと待って下さい。今日は帰ります」


「今夜、悪霊や怨霊に勝てるのかしら?」


零は全身をぶるぶると震わせている。相当怖いのだろう。


「神様は乗り越えられない試練を与えないと言います。俺はひとりで怨霊と悪霊に勝って自分を取り戻す」


そう言うと麗奈は残念そうな顔をした。そして微笑んだ。


「仕方ないわね。弱点を元に一気に私の物にしたかったのだけれど。それじゃ、仕事に行くわね」


麗奈が部屋を出て行き、零は辞めていたタバコを取り出した。何もかも虚しかった。麗奈に会わなければよかった。そうすれば、怨霊と悪霊の世界も知らずに、マキと幸せで明るい世界に生きて行けたのに。今の世界は灰色に見える。その夜、案の定決戦となった。


「空気が淀んだ。ぬるくて無風だ」


悪霊と怨霊が零の部屋にやってきた。平和だった時は崩れ去ったのだ。来ないかも知れないそんな希望は砕け散った。

不気味な足音が部屋に迫る。全身に鳥肌が立ち、恐怖で全身が震える。


「今日は貴様ひとりか。あのクソ聖女がいないならこちらの物だ。手を組まれると手を出せない。弱い方から殺すぞ」


怨霊が念力で心臓を潰そうとしてくる。零は霊力を心臓に集中して何とかその攻撃を防いだ。


「俺の攻撃を防いだか。だが、震えているぞ。悪霊達よ。その男に取り付いて体の自由を奪い取れ!」


零は体に入ってくる悪霊を霊力を爆発させて追い出した。悪霊の思念が入ってくる。死ぬ時の姿が映像として浮かんできた。


「辛かったね。悲しかったね」


零が同情した時、その瞬間隙が生まれて体を乗っ取られた。


「この体は素晴らしいぞ。凄まじい霊力だ。このまま、光の霊力を持った女もやってしまおうぜ」


怨霊はそのまま、零のスマホを使い、マキに電話を掛ける。


「もしもし? 零さんどうかしました? え、今から家に? はい。その住所に伺います」


こうして、マキは悪霊と怨霊が待ち構えている零の家にやって来た。


「何ここ。凄まじく悪い気で満ちている。声が変だった。やっぱり零さんに何かあったのかも!」


マキが家に入ると、じめじめしていて生ぬるい空気で一瞬で事態を把握した。


「これは友達の家と同じね」


マキは過去に友人の家を悪霊から救った事があった。その時の感覚を思い出す。


「マキちゃん会いたかったよ。さあ、俺の胸の中においで。抱きしめてあげる」


「零さん。今行きます」


マキが零に抱きつくと、物凄い力でマキの背中を締め潰そうとしてきた。


「零さん今助けるから! 悪霊退散!」


マキの体が輝きだす。まるで昼間の光のように夜の暗闇を照らしだす。まるで小さな太陽のようだ。範囲内にいた悪霊は消滅した。


「く、悪霊に体を乗っ取られてしまっていた。マキちゃん来てくれたのか。ありがとうございます」


「いえいえ。残りは怨霊だね。私の光で弱らせるからトドメを!」


「わかった!」


零はマキが来たことで足の震えが止まった。そして、高密度の霊力を圧縮して作った霊力の刀を作った。

マキの光で怨霊の動きを鈍らせる。零は悪霊の攻撃を華麗に回避しながら間合いを詰めていく。そして回避しながら霊の剣を振り下ろした。


「ぐああ! 傷口から光が入り込む。消滅してしまう! 俺達の手柄にしようと他の悪霊と怨霊にこの男の情報を伝えていないのに!」


「なら、ここにはもう悪霊も怨霊も来ないな」


「やって来ても返り討ちにしてやるぜ!」


「マキちゃんカッコイイ」


「お前は我々怨霊の盲点。理由がわかったぞ。お前の祖父と祖母がその存在を隠していたな!」


「そうなんだ。零さんのお爺様、お祖母様、今までありがとうございました。これからは私が零さんを守ります」


「クソ、体が消滅してきた。光の女。お前の力が覚醒する前に殺す!」


怨霊の腕がマキの首に向かって伸びる。その時、青い刀が怨霊の腕を切り落とした。


「俺の腕が切り落とされるとは! 怯えてばかりの霊力だけ高いだけの雑魚だと思ったが、お前も危険だ! 両方死ね!」


怨霊の体が黒く光る。これは自爆するつもりだ。


「させるか!」


零は悪霊の首をはねた。宙を舞って床にゴトンと落ちた。それでも怨霊の体から黒い光は止まらない。


「私が光のオーラで包み込むよ。零さん力を貸して!」


零がマキの両手を握って霊力を注ぎ込む。マキの体が青く光っていく。


「まだ力が足りない。もっと早く凄まじく。これは恋人のキスじゃないんだからね。友情としてだから」


マキは零に唇を重ねた。零の霊力をマキの口が激しく吸い取る。


「これなら! 光の防御壁!」


怨霊の体を光の壁が取り囲んだ。四角形が出来た。そして、怨霊が爆発を起こした。物凄い轟音と共に地震が起きたが、部屋は光の壁によって守られた。

こうして、長い夜は終わった。だが、マキのキスは止まらない。


「これは友情のキスだからキスだから」


泣きながらキスが続いた。朝になると、何故かお互いに裸だった。記憶が飛ぶほど熱烈だった。2人は我を忘れてお互いを求め合っていた。

友人になると心に決めていても、我慢すればする程、バネのように力が溜まって一気に跳ね上がったのだ。


「零さん明日からは友達に戻るからね」


「うん。明日こそ友達に戻ろう。でも、今はもう少し」


2人の愛は止められるのだろうか。麗奈というダムは溢れずに止められるのだろうか。決壊するのは見に見えていた。

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