第24話

 鈴原零は麗奈に会う気でいた。自分の想いを確かめる為に。もう、こんな中途半端なままは嫌だ。

 マキと出会う前は確かに好きだった。だが、その気持ちはマキの電光石火の勢いで仲良くなって塗り潰された気がした。

 意を決して麗奈に電話を掛けた。指先が緊張で震える。


「はい。聖ですが」


「麗奈さん零です。今日は東京に行く用事があるんですが、夕方から会えませんか?」


「え、もちろんいいわよ! ずっとその事を話そうと思ってたのよ」


「そうだったんですね。丁度良かった。では18時にハチ公の前で会いましょう。目印はアルメリアの花を胸ポケットに刺しておきますね」


「わかったわ。18時に。今日は仕事を大急ぎで片付けるから。それじゃ、後でね。楽しみにしてるわ。とってもね。うふふふ」


「それでは失礼します」


「うん。また後で」


 こうして、鈴原零は聖麗奈と会う約束をした。ヒジリレイナとホンノウジマキ果たしてどちらが勝つのだろう。

 身支度を終えて鈴原零は出掛けた。ビシッとスーツに着替えている。ネクタイもいい柄でよく似合っている。デートにも使えるように高級ブランドの物を着てきた。

 電車に乗ると、座席に座る事が出来た。これは幸運だとゲームをする時間が出来て嬉しかった。ゲームをしているとあっという間に東京に到着した。

 そこからマックロソフトを目指す。電車を乗り換え、今回も座席に座れた。この時間は空いているようだ。在宅ワークの効果も出ているのだろうか。

 電車を降りて大きなビルが立ち並ぶ所を目指して歩く。通い馴れた飲食店を久々に見て懐かしさを感じる。帰りに久々に寄ってみよう。

 マックロソフトに到着し、受付に名前を告げる。


「鈴原零様ですね。お待ちしていました。堂本健太課長は3階の企画開発部におります」


「ありがとうございます」


 鈴原零は深々と頭を下げて企画部に向かった。その途中でよく見知った顔とすれ違う。


「お、零じゃないか。企画盗用部長の次の人は凄い人だから安心していいぞ。おかえり」


「鈴原さん大変でしたね。変な噂を流されて。覚醒剤をやっているなんて。検査したら陰性だとわかると覚醒剤の売人だと言われて鞄から覚醒剤が出たのも、今思えば部長が零さんのカバンに入れていたんですね」


「そうなんだ。俺は薬物とは一切関わりない。疑いが晴れてよかったよ」


「それじゃまたな。今度飲みに行こう。この3人で。俺達付き合ってるんだ。会社には内緒にしてくれよ。会社では友人。家では恋人なんだ」


「そうなのか。それは幸せだな。もちろん黙っておくよ。バレるなよ」


「なにバレたらバレたで結婚するさ」


「ははは。それはいい」


 田中と山田のふたりと別れて、エレベーターに乗ると凄そうな人が隣に乗っていた。明らかに他の人とはオーラが違う。


「おはようございます」


「ああ、おはよう」


「君も3階かね」


「はい。そうです」


 3階に到着するとその人は企画部に入って行った。鈴原零もその後をついていく。


「君も目的地は企画部か。なるほどこの時期の新人。君は鈴原零君だね?」


「はい。そうです」


「前の部長には大変な目にあわされて大変だったね。だが、私は大丈夫。人のアイディアを盗むほど貧困な想像力はしていない」


「零来てくれたのか! さあ、早速契約に取りかかろう」


 健太に連れられて契約の書類に記入が終わった。それを部長の元へ持っていく。


「これで決まりだ。鈴原零くん。君はこれで社に復帰だ。君はいい匂いがするね。懐かしい異世界の匂いが」


「え、部長それってどういう事ですか」


「それは時期が来たら話をしよう。急な用事が入ったらいつでも電話してくれ。即座に休暇を取らせよう。名刺をやっておこう」


「これは私の名刺です。宜しくお願い致します」


 本能寺マサト。まさかなそんな偶然ないよなと思っていたら、部長が鈴原零を呼び止めた。


「娘を宜しく頼む。あれが人を気に入るのは相当珍しい。人間の好みにうるさい奴でな、付き合った人間がほとんどいないんだ。恋人候補のまま、友達で終了してばかり。マキの審査によく合格したな。しかもマキの方から好きになったそうじゃないか。これは初めての快挙だぞ」


「え、はい。娘さんにはこちらも良くして貰っています。こちらからも宜しくお願い致します」


 嘘のような偶然だ。もう何だろう。部長と会う前は麗奈さんにも可能性が残されている気がしていたが、もう全く無い気がしてきた。マキの運命力は凄まじい。まるで吸い寄せられるようだ。

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