第23話
異世界から帰ってきたふたり。恋人から友達に戻ったふたり。
お互いに手を繋ぎたいが、繋げないふたり。何もかもがもどかしい。
「ねえ、今度出る新キャラどう思う?」
公園のベンチに座り気まずい沈黙を打ち破る為にマキが口を開いた。
「うーん。敵全体の攻撃力を減少させて味方には防御力を上昇。全体回復に、敵の足止め。オーラのスタックを貯めると味方全体に攻撃力上昇と速度上昇。敵にはクリティカル低下と防御力減少。専用武器で数秒毎にスタックを付与」
「強いでしょ。しかも可愛いし」
「皆を強くして敵を弱くするのはいいね」
「でも、敵を自分で倒せないのよね」
「サポートキャラだからね」
「欲しい?」
「暗黒の魔神を倒すのに必要だけど、それには雪子、フィガロ、この新キャラの3人いるな」
「暗黒の魔神ってそんなに強いの?」
「ああ、強いよ。通常ガチャの倍の値段のガチャで天井は100通称セレブガチャのキャラだからねセレブガチャでは好きな英雄を選択出来るから確率の低い暗黒の魔神が選ばれる事が多いんだ」
「零さんはそのガチャ引かないの?」
「俺もたまには引くけど、特別なチケットを手に入れた時だけかな。そのチケットはゲームの進行によって買えるんだ。セレブガチャが4分の1の価格で買えるんだ。ルビーもおまけに付いてくる。他には専用武器や防具も選べる」
「それ私も買おうかな」
「やめておいた方がいいよ。頻繁に課金する事になるから100万を超えるし、しかもひとりの英雄しか強くならない。お金持ちの人達は割高のセレブチケットを直接買って課金してるしね。俺には値段ぶんしか価値のないパックは嫌だ。2万出して40回と1万円で40回どちらがいい?」
「もちろん1万円の方だよね。そっか特別な機会以外は損なのか」
「そうなんだ。だから、俺は密かにセレブチケットを貯めてるんだ。暗黒の魔神を倒せるキャラが現れるその時まで。それはおそらくセレブチケットから出てくる」
「そっか。それじゃあね、私はセレブチケットを零さんにプレゼントするよ。まだ序盤だから沢山買う機会があるでしょ?」
「だからそれはダメだよ。100万円は掛かる」
「それくらい、いいって事よ。気にすんな。私に任せておいて。伊達に毎日質素な生活送ってないわ。あー良かった! 零さんの役に立てる事が見つかった。イザミリア18枚も貰ったし、これくらいの恩返しはさせてよね」
「そんな。悪いよ」
「悪くないよ。恩返しさせないつもり? このままでは、私の気持ちが晴れないの」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん。貯金は200万円あるから大丈夫」
「え、じゃやっぱりやめて! お金が勿体ないよ! 100万も使ったら半分になるし、自分の欲しいものが出てきたら貯金が無くなっちゃうよ?」
「いいの。私がしたいの」
「いいよ。無理しないで」
ふたりの言い争いは30分も続いた。最終的に零が折れた。
「じゃあ、食材は俺が費用を出すから度々ふたりで料理して食べよう。これなら食費が浮くだろ?」
「うん。とっても素敵な提案ね。零さん天才。お酒もお願いね」
「わかった。任せて」
「うふふ。楽しみ。これもある意味協力プレイだね」
「ああ、そうだね。楽しみだ」
「何か話すこと無くなったね」
「そうだね。今日はもう帰ろう。家まで送るよ」
「あ、今日からふたりでご飯作って食べる?」
「今日は異世界で沢山食べてきたから必要ないでしょ。もう食べられないよ」
「そうね。沢山色々な美味しい物食べたもんね」
話す事が無くなったと言いながらも、マキの家に到着するまでふたりは話続けた。あの町のあの料理が絶品だった。異世界も凄い料理人がいる。また行こうね。話が次から次に広がって行った。
そしてマキの家に到着した。ふたりは無言で見つめ合った。それが5分間続いた。
「それじゃ、またね」
「うん。また。送ってくれてありがとう。仕事が終わる直前に連絡するね。夜遅くなったゃうけど大丈夫?」
「うん。大丈夫。ブラック企業にいたから空腹のままでいるのは慣れてる」
「それっていいこと?」
「どうだろう?」
「じゃ、今日は楽しかったよ」
「私は楽しかったけど、辛かったよ。たぶんこの後、泣く。せっかく恋が実ったと思ったら地獄に突き落とされた気分」
「ごめん。今は時間がほしい」
「いいよ。待ってる。ずっと待ってる」
ふたりはまた5分間見つめ合った。マキの瞳はうるうるしていて光輝いている。零はそれを愛しそうに見ていた。抱きしめてキスをする場面でも出来ないこの状況。
ふたりは相当ストレスが溜まった事だろう。恋人から友達はここが辛い。
それから零はマキに背中を向けて手を上げて別れた。零の家に到着したが、何故かいつものようにゲームをする気になれない。マキともっと一緒に居たかった。虚無感に襲われていた。
そんな時、電話が掛かってきた。相手は怜奈だった。
「もしもし鈴原です」
「零くん一体今まで何をやってたの? あなたがいなかったからギルド戦負けちゃう所だったのよ」
「勝てたなら良かったじゃないですか。それなら安心しました。それではまた」
「ちょっと、零くん? 大切な話があるの。あ、また切れてやがる。あり得ねえ!」
鈴原零は地元ギルドにログインした。勝てているだろうか。心臓がドキドキしている。
「お! マスターだ! マスターに貰ったキャラで勝てましたよ!」
「俺も!」
「私も!」
「マスター世界一!」
「良かった。勝てたんだ。安心した」
「51対49でしたよ。マスターに見せたかったなー」
「所でマスターって?」
「もちろん零さんの事ですよ」
「そうだったんですか。え? 俺いつの間にマスターに?」
「多数決で決めたんですよ。マスターがいない時に」
「なんで!? 普通いる時じゃない?」
「いたら絶対断るじゃないですか。俺はマスターの器じゃないって」
「大正解」
「でしょ。だから、これから宜しくです。私達のマスター」
「あ、はい。至らない点が多々あると思いますが宜しくお願い致します」
「あ、マスターさっきマキサブマスターから連絡があってセレブガチャチケットを集めておきました。ギルメン全員からだからかなりの量ですよ」
「うわ、皆ありがとう!」
「いいですよ。ただの恩返しです」
こうして、1000枚を超えるセレブガチャチケットが集まった。ありがたくて零は涙した。
「マスター泣いてる?」
「いや、泣いてない」
「声が震えてるよ」
「じゃ、用事あるから落ちるね」
「ちょっと待ちなさい」
零が落ちると同時に誰かが呼び止めた。
「また逃げられたか。何なのこのギルドは凄く楽しそう」
「新入りの方ですね? 凄く楽しいですよ。このギルド。ゲームよりチャットや通話にハマってます。ゲームも劇的に強くなってるんですよ。マスターが500万円ぶんくらい価値があるキャラを皆に配ったので。マスターは強運なのです。課金額の数倍の結果を出すのです」
「そうなんですね。これから宜しくお願い致します」
「反応が薄いですね」
「既に知っている事が含まれていましたので」
「ずいぶん低い声ですね。風邪を引きましたか」
「大丈夫。これが地声です。ゴホゴホ」
「やはり風邪ですか。お大事に。あ、私は愛と言います」
「私は美玲です。それではまた」
よし。元ギルメンの愛にもバレていない。私の裏声も大した物ね。これでスパイ活動は問題ない。絶対に浮気の形跡を見つけて問い詰めてやるんだから。
罰として何をさせようかしら。足を舐めさせて、それから大切な所も。うふふ。絶対に証拠を見つけてあげる。
スパイに来ていた麗奈であったが、しっぽを掴むのは難しいだろう。ふたりは今日、恋人から友達に戻ったのだから。
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