第17話
次の日もギルドバトルだ。鈴原零は今日は異世界に行かないので朝からゲームをしている。画面を見て固まった。一体何があったのだろうか。
「嘘だろ。海外のトップギルドと当たった。こんな序盤でなんという不運。世界ランキングトップこそいないが、13位がいる。他のメンバーも俺と同じ戦力が10人。これは上から順に倒さないと全滅させられるぞ。宝くじはまだ結果が出ない。預金は1000万。お爺ちゃんとお婆ちゃんの遺産には手をつけられない。く、雪子さえいれば!」
零は迷っていた。どうするべきか。フィガロを強化して雪子レベルまで高めるか。だが、雪子ほどの働きをするとは思えない。200万課金してしまおうか。でも、さすがに一気にそこまで課金をするのは怖い。
仕方ない。100万課金するか。本当は500万課金してしまえば安心だが、預金を半分に減らすのは嫌だ。
「私課金するわ。全預金の半分500万。大丈夫。赤い高い馬のエンブレムの高級車を売って資金運用にした株はまだあるもの。遅かれ早かれどうせ、課金する事になるもの。やるなら今よ。戦闘スキップチケットで一気にレベルを上げるわ」
「麗奈さんさすがです!」
「くくく、零には真似できまい。所詮奴は1回に100万の課金が限界の男。預金もせいぜい300万だろう。破産も目に見えてる」
零は麗奈が500万も課金する事に驚いた。確かに俺には真似できない。が、麗奈さんだけに頑張らせる訳には行かない!
「俺も自分の預金の半分500万課金します」
「ちょ、零くんお金持ち!」
「麗ちゃん程ではないですよ。コンビニに行ってきます」
「ブラックカード無いの?」
「それは話が来たけど断りました。カードだと使った気がしないので。コンビニをハシゴしてきます!」
「零くん帰り道気をつけて!」
「はい!」
「嘘だろ無理して課金してやっとかと思ってたのに金持ちだったのかよ。エリートの俺様でもこの若さで500万の貯金しかないのに」
「慎太。エリートだったら500万課金してしまいなさいよ。また貯めればいいじゃない」
「嫌だ! 預金のない奴らをバカにして余裕があるのがいいんだ! 預金のない生活なんて恥ずかしくて出来ない!」
「慎太、自分が性格悪い発言してるの気がついてる?」
「は? 俺はいい奴だ。仕事が出来ないバカにおごってるし」
「あ、はい。そうですね。なら50万くらいは課金してくれるわね?」
「仕方ない。それくらいなら。友達の結婚式の2次回で目立つ為に全員におごった時がそんなもんだったので」
「慎太ありがとう」
鈴原零はいつも行くコンビニに向かって走った。到着すると慌ただしく入店した。自動ドアが開くのを待ちきれないように。
「いらっしゃいませ。私に会いたくて急いで来たのかな? 零さん汗凄いよ。タオルでふきふきするね」
「マキさんこんにちは。今日はいつもの5万円のカード20枚じゃ足りないんだ。100枚ないかな?」
「え、零さんの為に仕入れて昨日100枚届いたんだけど、たった1日で使うの? 1年ぶんのつもりだったんだけどな」
「マジか! マキさん最高! 愛してる!」
零は嬉しくて勢い余ってマキを強く抱きしめた。マキの顔は真っ赤だ。耳まで赤い。そして鼻血が出た。
「私も愛してるー」
と言いながら後ろを向いて鼻血をどうにかしに行った。戻ってきた時には輪ゴムでとめた大量のカードの束を持っていた。
「でも、預金はどうやって引き出すの?」
「それがあったか。銀行行ってくる!」
「うん。待ってるねー! 気をつけるんだよー!」
マキはこの隙に手当たり次第に連絡していた。ありとあらゆる知り合い友達の全てに。私の働くコンビニで今から面白い事があるから来てねと。
「はぁ、はぁ、ただいま」
「おかえり。また凄い汗。新しいタオル準備して待ってたよ。ふきふきするね」
「ところでこの大量のお客さん達は?」
「なんだろうね。近くでイベントでもあるんじゃない? 誰かのライブとか?」
マキは平気な顔でしらばっくれた。全ては彼女の手配によるもの。零はレジに行くのを嫌がったが、1分迷った挙げ句、仕方ないと意を決してレジに向かった。
「500万円になりまーす! お買い上げありがとうございます!」
「ちょ、500万!? コンビニで!?」
「ヤバい。顔覚えておこう」
「マキの言ってた面白い事ってこれか。仕事抜けて来て良かったぜ。よう、兄ちゃん。俺はマキの兄で牧人だ。マキトでいいぜ。今日から俺とお前は友達な」
「あ、はい。零です。宜しく」
「マキトさんとマキちゃんの友達なら私も友達です!」
「俺も!」
「私も!」
「僕もいいですか」
友達の友達は友達だ。という謎の理論で、レジではなく、鈴原零の前に長い行列ができた。全員と連絡先を交換する事になってしまったのだ。
連絡先のアプリにはギルドのグループチャットも載っていて、課金をするのを見るためにその大半がギルドにも入った。マキがいるのも大きいのだろう。
「マキちゃん凄いね。友達が沢山お店に来てくれるんだね」
「え、違いますよ。わざわざ呼んだんです。零さんの晴れ舞台だし。誰かに見せないのは損ですよ。友達が沢山出来てよかったね」
「マキちゃん計ったなー! すっごく恥かしかったんだからな!」
「恥ずかしい事ないですよ。500万課金の零さん」
「そうだ。そうだ。凄いぞ!」
「うんうん。なかなか出来る事じゃない」
「皆さんやめて下さい。照れます」
「零さん顔が真っ赤」
「とりあえず、これからの活躍を期待してるよ」
「じゃ、俺はもう行きますね」
「ちょっと待てよ。これは俺達からだ。皆で金を出し合って買った。沢山飲んで食ってくれ」
マキトが大量のレジ袋を零に手渡した。4つもあり、全てパンパンに品物が入っている。
「こんなに沢山頂けませんよ」
「貰っておけよ。面白いもの見させてもらった礼だ。零よ。じゃあな、俺は仕事に戻る。これでも一応管理する立場なもんでな。妹を頼むぜ。料理は手際いいし、味も絶品。いい嫁になるぜマキは」
「あ、はい。お任せ下さい」
ゲームの事だと思って返事した鈴原零はマキトの後を追うようにして店を出ようとして振り向いた。
「皆さん色々貰ってありがとうございました。これから宜しくお願いします。それでは!」
「課金がんば!」
「配信するの忘れるな!」
「録画もね!」
「それ絶対!」
「皆でゲームって楽しそう」
「だな、久々にワクワクしてきた」
「いいなーお金持ち」
「凄いよなー」
「零さん世界一!」
「そうだな世界一!」
こうして、コンビニの外まで集まった総勢50人近くの人に見送られ、零は家に向かって走った。そして、到着するとカードを次々とスキャンしていく。残高が一気に増えていく。
「戻りました。課金します」
「零君おかえり。私はもう、かなり強くなったよ。1番強い世界13位は任せたよ。どうやら500万課金でも届きそうもないのよ」
「了解です! 任せて下さい」
零は幸運のオーラを全開にした。黄色いオーラなので、まるでスーパーなになに人のようだ。部屋が揺れている。そしてガチャを引くと大当たりSSSレアのフィガロが10枚の中で4枚も出た。次のガチャでは6枚。次のガチャでは7枚。もうめちゃくちゃだ。さすがに次のガチャでは外れて、闇の魔神が3枚のフィガロが1枚。光の女神が1枚。
「く、疲れてきたか」
「課金で疲れた? 体力ねえなー」
「零くんの場合祈りが半端ないのよ。そりゃ疲れるよね。頑張れ零くん! 今日も神引きよ!」
「ありがとう麗ちゃん! 頑張るよ! フィガロ来い!!」
鈴原零は全力を超えた全力で黄色いオーラを出した。もう、部屋どころか家全体まで震えた。
「フィガロ10枚抜き来た! しかも3回連続でだ!」
「嘘だろ。ルビーの減りと画像が合っている?」
「零くんここまで来るともう超能力ね。これは金額だけ課金しても零くんには勝てない訳ね」
「でも、フィガロだけ強くなっても仕方ないですよ。所詮単発攻撃だし。範囲攻撃最強の闇の魔神ならいいけど、そんな雑魚ならゴミですよ。ゴミだ。ゴミ!」
「同じキャラを集めるのがこのゲームの醍醐味。零くんの凄さはわかってるよ。慎太も零くんを見習いなさいよ。そんなんだから運が無いのよ」
「俺には運など不要。金ならある! 使わないだけだけどな」
「運もお金も零くんに負けてるけどね」
「く、俺には地位がある」
「フリーターだけどね。あなたのリア友が教えてくれたよ」
「ぐ、こんなギルドこっちから辞めてやるよ!」
「バイバイー」
「香里奈ちゃんそれは言っちゃダメじゃない」
「いいのよ。いい加減見苦しかったでしょ? 裏で私を口説いてウザかったし、他の女子メンバーも口説かれてたってさ」
「ああ、貴重な仲間がまた減ってしまった」
「零さんはあんな奴の事で心を痛めないの。素敵な男性を連れてきてあげるから。私の色気で」
「香里奈さん宜しくお願いします。これ以上男性メンバーが減ると痛いです」
「痛くない。私達女子がボイスチャットに参加しなかったのも慎太がいたせいなんだから。これからは沢山参加するから安心して下さい」
「慎太と難波ってこのギルドのガンだったのかも知れないわね」
「零さんその通り!」
「は! 零くんガチャは?」
「あ、はい。230万でフィガロのレベル上限が10200になりました」
「は? 1000万掛かる所がたったの230万!?」
「はい。マジです。しかも生放送してたので証拠も残ってしまってます。あ、ヤバ! 慎太さんが可哀想だからアップロードできない! お蔵入りですね」
「あいつは気にしなくていいですよ。他のギルドでも同じ事をするに違いないし、名前を変えれば済むことだし。あ、あいつ顔出ししてたな。まあ、何とかなるでしょ」
「って私達も生放送に出れちゃってますね。皆宜しくねー! 女子が90%のハーレムギルドよー! 超強運の零さんと、超金持ちでエリートの県庁職員。しかも若くして役職が約束された麗奈さんがいるギルドを宜しくね」
「ちょっと香里奈ちゃん仕事の事は秘密って言ったじゃない」
「まあ、いいじゃないですか。麗奈さんは顔出ししてないし」
「そういう問題じゃなくて」
「やっぱり生放送消しますね」
「零くん消さなくていいよ。これが今の状態だし」
「そうですよ。これはフェイク画像と疑われた時の切り札になる放送になりますよ」
「零くんの伝説の始まりはここからね」
「そうですね。麗奈さん」
「うん。そうね。香里奈ちゃん」
こうして、零の奇跡の活躍はインターネットに深く残った。残りの250万は雪子に使える。
これで異世界で召喚してもスキルの一部が使えないという状況にはならなくなっただろう。
もちろん、20万で時間短縮チケットを買って、レベル10000に上げて完全体となったフィガロを止められる者はいなく、ギルドバトルは圧勝した。
零は地元ギルドのほうに早く行きたかった。コンビニで出会った皆が課金をするのを待っているのだから。半分に減ってしまったけれど、満足してくれるだろうか。
「無事に勝てたし、俺は地元ギルドに行きますね」
「あら、もう行くの? もっと話ましょうよ。ひとりで60勝もしたんだし。私は40勝。私達ふたりだけでも行けたくらいだったね」
「でも、課金しなかったら全く逆の結果になってましたね」
「そうね。私達に勝てる可能性は無かった」
「めでたく勝てたので俺は落ちますね。またです!」
「ちょっと待って! デートの約束を! あ、切れてら。マジなんなの。あり得ない。浮気したら本当に殺すから」
「麗奈さんが言うと本気に聞こえるから怖いわ」
「ええ、だって本気だもの。彼は私の運命の相手よ。だから魂の半身。ソウルメイト。無しではいられない。だから手に入らないならこの手で殺すの」
「え、ええ!? そこは手に入るまで絶対に諦めないで地の果てまでも落ちかけるでしょ。自分で手に入る可能性を消すのは違いませんか?」
「確かにそうね。殺すのはやめた。半殺しにしておくわね。もう私から逃げようとしないように」
「麗奈さん。だから、怖いですって。まあ、零さんを殺すのやめてくれたから今日はそこで満足しておきます」
「愛って殺す事だと見つけたのだけれど違った?」
「全然違いますよー! むしろ逆に行ってますー!」
「あらそう?」
「そうです!」
麗奈と香里奈はそのまま数時間話続けた。麗奈の恋愛観を正すのに香里奈は物凄く苦労して、その日はキャバクラを休んだ。疲れ果てたのだ。話のプロを倒すとは麗奈恐るべし。一方、零はその頃マキと楽しくお話ししていた。
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