第15話

  ミレイヌと対峙するミガルギア。ミレイヌは空中に舞い上がり、透明な何かでミガルギアを叩き落とした。凄まじい速度の攻撃だった。ゴブリンキングの攻撃よりも速い。ほぼ見えない。その上、透明な何かで殴っているので回避は厳しいだろう。


「あの攻撃で切れないなんて、あなた前より硬くなりました?」


「ああ、お前にあの時、体中を切り刻まれた時に物理耐性を上げておいた。言っただろう。昔の俺ではないと」


「これならどうです?」


 ミレイヌの魔法がミガルギアを包み込んだ。無詠唱で繰り出された、その魔法は霧のようで体の中に浸透して行った。


「く、何をした。相変わらず、無詠唱だと回避もくそもないな」


「ふふふ。あなたの体を柔らかくしました。これで刃も通る事でしょう」


 ミレイヌの見えない攻撃がミガルギアを襲った。無数の傷がその体に再び刻みこまれた。


「相変わらず接近戦ではこちらが不利か。これならどうだ!」


 ミガルギアは距離を取って魔力の弾を回避不可能なくらい大量に撃った。その数20発。


「やったか!? 俺の魔力は上がっている。ミレイヌの強力なシールドも破壊できる筈だ。な、無傷だと!?」


「シールドは破壊されてしまいましたがね。やりますね。私と互角になるとは」


 それからふたりは、魔弾撃って、それをシールドで防いでを繰り返した。見ていると守る側が不利に見える。ミガルギアの魔力は尽きるどころか上がっているように見えた。


「どうしたミレイヌ。俺の速度が上がった魔弾からは逃れられんだろう」


「なんのこれしき!」


 ミレイヌは自由自在に動くシールドを100個を作り、ミガルギアに突撃した。動くシールドが無数の魔弾を防ぐと同時に跳ね返した。自分の強烈な魔力を返されて怯んだ隙に、ミレイヌの攻撃がミガルギアに久々に命中し、形勢は逆転した。


「ぐはぁ! 致命傷だな。こりゃ。まあ、人間だったらの話だ。俺達魔族を倒したけりゃ、コアを砕くんだな」


「まだまだ! この勝機を逃しますか!」


 ミレイヌの凄まじい速さの回避しながらの連続攻撃。残像すら見える。これが彼女の本気か。


「くそがぁー! 魔力全開! ヘルフレア!」


「勝機!! 魔力反射シールド全開!」


「何だと、新技ばかり出しやがって! ぐあぁー!」


「また私の勝ちですわね」


 ミガルギアの凄まじい威力の必殺技を至近距離で跳ね返して直撃させたのだ。これで終わりだ。ミレイヌのシールドを極めた攻防は驚異的という事だろう。シールドの硬度で切れ味が上がる剣も目に見えない上に軽い。そして何よりも硬い。完璧に見えた。


「言ったろ。前の俺ではないと。魔力の攻撃では俺を倒すのは不可能なんだよ。俺は黙っていても、寝ていても魔力が増幅する。この意味がわかるか? お前は一生俺を倒せない。そして、お前の魔力はいずれ尽きる。シールドも使えずに、その美しい肉体は木っ端微塵に弾け飛ぶんだよ」


「く、技ではなく肉体と魔力そのものを強化していたのね。私の完敗よ。好きにしなさい」


「随分と物わかりがいいな。殺す前にその素晴らしい体を味わうとするか」


「それは嫌。ひとおもいに殺して」


「好きにしていいんだろう?」


「嫌、やめて」


 ミレイヌの危機に零が動いた。ミガルギアの背後から奇襲を仕掛けた。全力で剣を振り下ろす。見事に命中したが、剣が折れてしまった。

 そして、ゆっくりと振り向くミガルギア。零と目が合った。


「邪魔するなよ。これから楽しい所だったのに。さっきの話を聞いてなかったのか? 俺には物理も魔法も効かない。完璧なんだよ。しかもお前はゴブリンキングを倒して魔力切れと来たもんだ。お前に何が残ってる? 黙ってそのまま見てるんだな。ミレイヌが俺に凌辱される所を」


「俺に何が残っているだと? それならあるぞ! 運気を見るしか能がないと思っていた力がな!」


 零は霊力で折れた剣に力を与えた、青く輝く霊力の刃を作り出した。そして完璧に油断しているミガルギアの胸を斬った。とっさに少し後ろに下がられて浅くなったが、十分なダメージだ。豆腐のように切れる。


「く、何だその力は! 魔力の防壁が全く効かずに素通りだと!?」


「霊力だよ。全くの無駄かと思った力がお前には効果抜群のようだな」


「霊力か。認めよう。お前は俺の天敵だ。圧倒的な魔力の差があっても何の意味もない」


「待て、逃げるのか!?」


「逃げる? この俺がか。遠距離からならその剣は届かない。俺の魔法の速度は光速の手前まで速くした。この意味がわかるよな。お前は魔力シールドがない。つまり遠距離からだと確実に殺せる」


「く! 卑怯だぞ!」


「戦いに卑怯もクソもあるか!」


「零さん逃げて下さい!」


 ミガルギアの速度に能力を振り切った高速の魔弾が零を襲う。速すぎてミレイヌのシールドも間に合わない。


「見えるぞ!」


 零はそこに高速の魔法の弾丸が来るのがわかっていたかのように、すっと道を歩いてすれ違う人を避けるように回避した。


「何故当たらない! 次だ! 次はかわせまい!」


「見える。見えるぞ!」


「く、何故回避できる。必中の速度の筈だぞ。あのミレイヌでも回避出来ずにシールドで防いだと言うのに。お前は一体何なんだ!」


「俺はオーラの流れが見えるんだよ。お前が魔法を撃ち出す前からその軌道が見える!」


「何だと!? やはりお前は俺の天敵だ。だが、避けるだけでは何も出来まい。俺は空中。お前は地上。飛べない事を呪うのだな。当てるまで撃ちまくるまでよ!」


「当たらぬと言っている!」


 上空から100発を超える魔力の弾丸を避け続ける零は回避しながら、霊力を練っていた。何か考えがあるようだ。


「霊力の弾丸だと色々ヤバいので、レーザーだ! 出ろ! 霊レーザー!」


 青いレーザーがミガルギアの肩を貫いた。そして、ミガルギアの反撃を回避して、そのまま即座に霊力レーザーを撃ち返す。カウンターで命中し、今度は左胸を撃ち抜いた。


「く、何て速度だ。俺の魔弾と同じ速度だと。だが、体を貫かれても俺は死なん。こうなれば1000発を一斉に落としてくれよう」


「そんな隙は与えない。俺は霊力レーザーを剣のように使う。この意味がわかるな? さあ、必死に回避しろ。魔族の細切れになるぞ!」


 零は霊力レーザーをまるで剣を振るうように戦った。ミガルギアは回避するだけで精一杯の様子だ。


「待て! お前の勝ちだ。いや、ちょ待てって!」


 ミガルギアの話も聞かずに零は猛攻を続ける。ミガルギアはギリギリの所で回避を続け、雲は無数に切り刻まれた。彼は奴を倒す事で頭がいっぱいだ。


「復讐しに来ないからもうやめてくれ。いい物もやろう。魔力を蓄えた防御アイテムだ。っておい攻撃をやめろー!」


「はい。やーめた。魔力のアイテム頂戴」


「おらよ! 魔力を100年蓄えた特別製だ。自動防御だけでなく、攻撃や治療魔法の動力としても使えるぞ。大事に使え。って攻撃を再開するな。参った。負けたって。ごめんなさい。負けました。許して下さい。これから娘とデートなんです」


「娘さんがいるのか。なら殺すのやめておこう。じゃあな、ミガルギアさん。あなたは最強の敵だったよ。たまたま俺の能力と相性が良くて勝てたけど、力では圧倒的そちらが勝っていた」


「そうだろう。俺は最強の魔力使いだ。幸運の勇者零よ。お前は今後狙わないでやろう。手塩にかけて育てたゴブリンキングを倒した事も許そう。では、さらばだ!」


「ああ、娘さんとのデート楽しんでな」


「娘は俺の自慢だ。嫁にほしいなら魔王軍に入るんだな」


「あなたの娘なら素晴らしい女性だろうけれど、遠慮しておくよ。俺には心に決めた人がいる」


「それは残念だ。本当にな」


 こうして、ゴブリン討伐戦は終わった。魔族四天王ミガルギアを撃退した事はミレイヌしか知らない。もちろん、零はミレイヌに口止めをして、ミレイヌが撃退した事にしてもらった。

 1番の収穫は戦闘に使えないと思っていた霊力が魔法防御をいっさいの関係無しに貫けるという事だった。力の質が違うので当然と言えば当然だが、これは凄まじい武器となる。こうして彼は幸運なだけの男ではなくなった。







 



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