第9話
異世界から地球に帰ってきた鈴原零は、異世界で出会った冒険者と食事を済ませたので、即座にゲームを開始した。風呂に入った方がいいと思うのじゃが。このお話の主人公でもあるし。それほどゲームが大切なのじゃろうか。
「こんばんは。今日は少し頑張りました」
「あらそう? 何のレベルも上がってないようだけれど、何を頑張ったのかしら? 仕事? それとも誰かとデート? 何なのかしら」
「麗さんこんばんは。まあ、あれです。そう仕事を頑張りました」
嘘は言ってないぞ。仕事の内容は言えないけど。異世界で弱々勇者を始めました。なんて絶対言えない。
勇者って何かこう小説の主人公のようにカッコいいものでなくてはならない気がする。俺なんか全然だ。スキルだって運気が見えるだけ。攻撃力120%アップとか、攻撃力の500%防御シールドを付与するとか、強そうなスキルを持っている訳じゃない。
仕方ないか。俺は一般人。そんな特別な能力を持てる訳じゃない。何だよ。戦闘に関係ない能力って。
零君の心の声を聞くとわしは悲しくなった。暗黒の魔王と戦える唯一のスキルなのに。そう悲観してくれるなよ。
「あらそう。私も仕事を頑張りましたよ。コロナで仕事が激務になったのに定時で上がれました。驚異のスピードアップ。もしかしたら、零君に会いたかったからかもね? うふふ。光栄でしょ」
「はい。光栄の極みです! 今日もいい事あったな」
「でも、遅かったじゃない。遅刻だから少し減点ね」
「ごめんなさい! 飲みに誘われてて」
「私より飲み会を優先したと。これはメモしておくわね」
「そんな。今後はこのような事はないようにしますので!」
「わかればよろしい。さあ、ゲームを始めましょう。雪子の失敗を取り戻しましょう。他に多く出たキャラは?」
零は麗奈に言われてキャラリストをチェックする。新たに獲得したキャラにはビックリマークが付く。一番多く手に入れたのは、ウィッシュリスト(優先的に出る)の中の鋼鉄の拳フィガロというキャラだった。15枚と中々だ。レベル1250までは上げられる。
「前のガチャで沢山出たのは1つ前の新キャラのフィガロです」
「フィガロね。ボス攻略特化型の単体攻撃のスペシャリストじゃない。ギルド戦には不向きだけど、ボスダメージ世界ランキング目指すならアリね」
「フィガロかよ。雪子に続いてまたマニアックなキャラを。ギルド戦に使えないキャラ何てゴミだよ。ゴミ。ほんと使えねえ。サブマスター辞めれば?」
無課金の難波が零君に酷い言葉を投げかけた。人が弱っていると、そこにつけこむやからがいるが本当に嫌なものだ。
「はい。難波さんアウト。ギルドを追放します。皆さんもわかりましたね? 人を傷つける発言はゲームの規約違反です。厳しく対処しますからね」
「そんなの横暴だ! 俺が密かに狙ってたのに見向きもしないし、お前ら出来てるんだろ? 私情を挟むギルマスなんていらねえよ」
「はい。通話アプリもブロックしてメンバーからも除外と。これでこのルームには戻れない。ああ、不快な声だった。零君の爽やかでそれでいて低音で落ち着く声を見習ってほしい。礼儀を重んじればもう少しましな声が出せると思うのだけれど」
「麗奈さんは声フェチだったんですか?」
難波を追放し、他のメンバーの香里奈が話しかけてきた。追放の非難が先だろうにそこから突っ込むのか。と驚いた。少しずれているのかのう。
回線をさかのぼって香里奈の部屋に姿を見に行ったらギャルじゃった。おしゃれ命じゃな。うむ。可愛い。最近は可愛い子しか見てないのう。零君の回りはどうなっているのだろう。これも幸運が成せる技なのだろうか。
「そう声フェチなのよ。顔より声が優先。まあ、その次はもちろん顔だけどね。性格はその次かな。つまり、声が良ければ性格悪い男にも引っ掛かる事があるのよ。私は。と言っても、声も顔もいい男に出会った事がないけれど」
「つまり麗奈さんはまだ処女!?」
「ご想像にお任せします」
「やっぱり!」
この会話を聞いて鈴原零の顔は真っ赤になっていた。何この恥ずかしい会話。難波さんの追放ってこんな軽いものなの?
零は困惑した。まあ、俺も発言に気をつけよう。追放されたら麗奈さんとお話出来なくなる。
顔を真っ赤にして、黙々とフィガロのレベルを上げる鈴原零。ギルド戦に使えないと言われているが、1番強い敵に向かって行き、通常攻撃を一撃打ち込むごとに20%ずつ攻撃力が増えて行くというスキルが気に入っている。必殺技は攻撃の350%ダメージ。通常攻撃で攻撃力が上がってから叩き込む必殺の一撃は強烈だ。レベルが上がるとスタックの限界が増えて行き、更に攻撃力が高まる。最大スタックが20を超えるとレベル8900のキャラも体力半分の所まで追い詰めたという。
フィガロの欠点は防御系のスキルが無く回避率に全て依存している所だ。回避上昇スキルがあれば化けると言われているが、まだ発見されていないので、レベル不足か、そもそも無いかのどちらかである。攻撃力の%シールドスキルがあればチートだが、魔法が使えない設定なので難しいだろう。相変わらずマニアックな性能のキャラに愛されている鈴原零だった。
それから数時間黙々とレベルを上げている間、麗奈と香里奈の女子トークはずっと続いていた。よく話が尽きないな。と思いながら、時々挟まれる下ネタトークに零は顔を赤くしていた。処女疑惑の麗奈を香里奈が心配して色々吹き込んでいるようだ。彼氏が喜ぶテクニックがどうこう。もちろん、通話のメンバーが3人だけの時を狙ってだったが。香里奈は中々気が利くようだ。そして、深夜になり、通話もそろそろ終わるようだ。
「零君。私はもう寝るね。レベル上げお疲れ様。レベル852頑張ったじゃない」
「零さんお疲れ様でした。色々麗奈さんに教えておいたので楽しみにしていて下さいね。処女なのにテクニックバッチリでお届け致します」
「確かにご想像にお任せしますと言ったけれど、その設定で進むのね」
「はい。おやすみなさい。ふたりの会話を聞きながらだと楽しくレベル上げが出来ました。ありがとうございました。それではまた明日。明日にはフィガロのレベル上限まで上げられると思います」
「はい。また明日」
「ねむねむーそれではまたです」
香里奈が通話を切ると二人きりの時間となった。他のギルドメンバーは寝ている。
「少し早いけどこれが私の顔よ。これで出会う時に目印いらないね。今日の会話はあなたに聞かせたくて話したのもあったの。どう? 興奮した?」
「顔が真っ赤になりましたよ。しかし雪子に似てますね。雪子を美人系にした感じがします」
「あらそう。好みのタイプなのね。ご馳走様。私も零君の顔好みのタイプよ。切れ長の鋭い目元が好き。それでいて優しそうで、よく見ると可愛くも見えてくる。不思議な顔ね。ただのイケメンから昇格しておいてあげる」
「え、あ、そっちにも見えてる!? しまった!」
「うふふ。顔が真っ赤で可愛い。いいもの見れたしお風呂に入って寝るね」
「俺もいいもの見れました。俺もこれから風呂です。おやすみなさい」
「おやすみ」
通話が切れて零の心臓はドキドキしていた。心拍数がはねあがって今にも爆発しそうだ。それから風呂で落ち着きを取り戻して歯を磨いて眠りについた。零君お疲れ様。毎日地球に戻りたい気持ちが少しわかった気がしたよ。
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