第7話

 ギルドに登録を済ませた鈴原零。酒場には寄らずに一直線に平原に向けて歩き出す。とりあえず、町の外に出てひたすら真っ直ぐ行けば着くんじゃね。と思ってるらしく、正解ではあるけれど、わしすっごく不安なの。仲間も無しで行くなんて勇気があると言うよりも無謀。


「お、こんにちは。平原はこのまま真っ直ぐですか?」


「そうだよ。兄ちゃん。でもひとりでどうした? 平原は強力な魔物でいっぱいだぞ」


「大丈夫。すぐ帰りますので。ご心配ありがとうございます」


 馬車を引いた行商人とすれ違って鈴原零は歩幅を広げて歩く速度を上げた。早く魔物と戦ってみたい。格闘技の映画好きなんだよな。等と気楽な事を考えているが、この世界の魔物は他のファンタジーのように甘くない。彼ならば逃げ切れると思うが、危険な時はわしが助けよう。10秒間は肉体を復活させられるのだ。無理をすれば60秒まで行けるが、その反動で1週間も休まねばならなくなる。


「あ、果物だ。食べてみよう」


 平原に続く長い道の途中に長くて大きい木があった。その上には赤い果実が実っている。トマトを甘くした感じでとても美味しい。魔力の吸収を高める効果もあるので、冒険前に食べる為に誰かが植えたのだろう。

 木に登って赤い果実を美味しそうに食べていると、4人パーティーが10匹の狼と戦っていた。いい勝負をしていると、狼が吠えて遠くから20を超える狼の群れが向かってきている。これは大変だと鈴原零は木から降りて猛烈な勢いで走り出した。彼は短距離走が速かったという調査情報があったが、異世界でその能力が倍に増えている。魔力が力を与えるのだ。


「大丈夫ですか!? 俺も加わります!」


「誰だか知らんが助かる。どうやらこの辺りのボスを叩いてしまったらしい」


 鈴原零も狼との戦いに参加した。攻撃しても避けらてばかりなので、飛びついて来るのを待ってカウンターで大きくあけた口を狙って突き刺した。彼の体に魔力が流れ込む。地球でいう所のレベルアップだ。


「剣が軽くなった!? これならもっと速く振れる!」


 鈴原零の攻撃が速くなったので、狼にも当たるようになった。これで形勢はだいぶ有利になった。


「危ない! 右横に飛べ! 次は左だ!」


 黒いオーラが強い冒険者に回避の指示をしながら戦い続ける鈴原零。本当に初心者なんだろうか。彼はゲーマーなのでゲームで戦いの能力が高いのかも知れない。

 黒いオーラの冒険者には無数の狼が群がる。零には一切向かって来ない。


「囲まれるぞ! 木の所まで逃げろ! 俺達が後から追い付く!」


 囲まれそうになった冒険者が木の所まで逃げようとするが、狼の方が早いので追いつかれる。飛び道具があれば。いや、狼の足を遅く出来れば。何で俺には魔法が使えないんだ。苦悩しながら走りながら狼に追いついて背後から斬る彼の姿は冒険者に見えた。

 逃げ遅れた冒険者に飛びかかる前に4匹の狼を倒す事に成功した。3連攻撃を覚えたようだ。それから追撃してくる3匹の狼を覚えたての3連攻撃で叩き落とした。中々の戦闘センス。異世界に連れてきたわしの見る目凄いじゃろ。


「いかん。こりゃ、死んだな。俺達囲まれたぞ」


 鈴原零が黒いオーラの冒険者を救っていると、周囲は狼に包囲された後だったようだ。50を超える狼が円になってジリジリと距離を詰めて来ている。冒険者全員が黒いオーラになってしまった。もう助ける事は不可能だ。4人同時に守る事は不可能。


「く! せめて動きを遅く出来れば勝てる見込みもあるのに! 雪子の必殺技が俺に使えれば!」


 鈴原零が強く思うと、その体が輝いて、雪のように白い肌の頬が少し赤い女性が現れた。着物を来ている。


「私は雪子。雪女。あなたに召喚されたので何でも言うこと聞くね」


「そんな!? 雪子が! お願いだ。吹雪で狼達の動きを遅くしてくれ」


「それは聞けない願いだわ。それだけだとあなた達も動けなくなる上に、狼達は毛皮のぶんだけ動けるもの。保護シールドを発動しないとただのマイナスだよん」


「そんなスキルもあるのか!?」


「うん。あるよ。私をもっと強くしてくれたら覚えるよ。その前にダメージ減も覚えるけどね」


「俺の知らない情報まで。想像ではなく、ゲームのキャラが具現化したのか!?」


「そう。あなたの愛と心からの叫びが私に魂を与えたの。それじゃ、吹雪の結界を発動させるね。魔力を使うから力抜けるので気合い入れといて。そうしないと倒れるよん」


「わかった。やってくれ!」


 召喚された雪子の体が白く輝いて、辺りは猛烈な吹雪となった。春なのにまた大雪だ。零と他の4人に保護シールドが発動して寒さは防げているようだ。


「皆行くぞ! 狼達の動きが鈍った! ひとりで10匹ずつだ!」


「おー!」


 零と冒険者4名は一心不乱に戦って、死ぬしかなかった状況を生き残った。


「お疲れ様だよん。私のスキルを覚えさせるから目を閉じて」


「わかった。目を閉じるんだな? ありがとう。助かったよ。雪子」


「わ、何を!? ん! むぅ……まさかそんな」


 零が目を閉じると雪子がキスをしてきた。しかも舌を入れた大人のキスの方だ。まさがゲームのキャラとキスをするとは思ってなくて零は驚いて固まっていた。冒険者達は羨ましそうに見ている。


「んふふ。キスじゃなくても握手でスキルを渡せるんだけど、まあ、良いではないか。じゃ、またね。マスター強敵が現れたらふたりで吹雪を発動してスタック貯めようね」


「何だそれ握手でいいじゃん! うん。またね。雪子。また今度力を貸してもらうよ。今日は本当にありがとう」


「うふふ。またねー愛してるんるん」


「な、う、え?」


 こうして零と雪子が初めて出会ったのだった。零のスキルは具現化魔法。そして更に物質に魂を与えてしまうというとんでもない代物だった。スキルを持たない彼にスキルを与えてくれるというオマケまでついていた。

 うーん。歴代勇者達よりチートというか、現代的というか変わった能力じゃのう。弱点は召喚に大量の魔力を使うのでこちらの世界でしか使えない事くらいかのう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る