第6話
鈴原零はどうにか異世界にとどまる事を承諾してくれた。夕方までに帰る約束だが。まあ、仕方がないか。強制は出来ないし。それからやる気になってくれたのか、セレナに鎧を身につけてもらって冒険の準備をしてくれた。
剣は超軽量で切れ味は抜群。盾は軽いが丈夫で大剣か大斧でもない限りは受けられる。わしが零君の事を思って300を超える装備の中から選んだ逸品だ。鎧は重いので普通の皮鎧だけど。
「さあ、神様行きますか。今日は初日だから雑魚モンスターを倒して戦闘の感覚を掴んで終わりですね」
「いや、その前に冒険者ギルドに登録したり、仲間を酒場で集めてからじゃろ。戦闘は次回からじっくりとじゃなー。それに昼飯もまだじゃろう」
「いや、時間が惜しいからいいです。食事も地球に帰ってから取ります。ギルドの登録も面倒なのでいいです。どうせ帰るんで。この世界のお金に興味がないんですよね」
鈴原零の言葉にセレナが肩を震わせて怒っている。彼の胸ぐらを掴んで凄い剣幕で詰め寄った。ビーナスのような整った顔立ちが台無しだ。
「あ? さっきから黙って聞いてればこの新人勇者! 異世界舐めるなよ!? お前が死んだら誰が世界を救うって言うのよ。そんなに早く帰ってゲームがしたいの? お子様だねー」
セレナの言葉に今度は零が怒ったようだ。これは困った。せっかく冒険に出てくれる気になったのに。
「は? 今は課金誘導が激しくてプレイ人口の多くは大人ですが? ゲームも大人が作ってるし、完成まで何年も掛かる。その苦労をどこまで知ってるんですか?」
「と、とにかくギルドには入りなさいよね。あ、ひとりでは登録もできないか。私が一緒について行ってあげましょうか? だってお子様だから仕方がないわよね」
セレナは零の力説に負けて黙るしかなかった。だが、挑発だけは忘れない。さすがわしの信頼するセレナちゃん。
「ひとりでギルドに登録くらい出来るから! 何故か言葉も文字もわかるし」
「あ、それわしの力。霊体にした時にこの世界の言語と文字を魂に刻みこんどいた。どうじゃ神様らしいじゃろう。わし凄い? 褒めて」
「はい! 神様は凄いです!」
零とセレナふたりの声が綺麗にハモって最後は喧嘩が見事に収まった。たまたまだけどラッキー。
「じゃあ、行きましょうか。ギルドに登録するなら時間がない」
「行ってらっしゃい。上手に出来たらご褒美にエッチなサービスしてあげるからね。功績に応じてそのサービスもグレードアップしていくからお楽しみに」
「は? いらねえし! 俺には麗奈さんがいるから! 超絶美女だからって男が皆興味あると思うなよ?」
「超絶美人なんて照れるじゃない。本当にそうだから仕方がないけど」
何だかんだでセレナと仲良くなったようで安心している。彼女は勢いよく手を振って見送ってくれた。零とわしは下界に降りた。下界ではわしの姿は見せられないので魔力の矢印を使って道案内をした。古く大きな建物のギルドに到着すると、零は足早にギルドのカウンターに向かった。すると今いる女性と奥から来た女性が入れ替わった。
「ギルドに登録したいんですが」
「それでしたらお名前等の情報の登録と魔力測定と能力測定をお願いします」
「あの、登録するだけって無理ですか? どうせ魔力なんか無いですし」
「規則でして測定は省けません。お客様の今後の利用方針にも影響しますし」
「仕方がないですね。さっさと済ませましょうか」
こうしてギルドの登録が始まった。零は素早くペンを走らせて異世界の文字を難なく書き上げて書類が完成した。次は魔力の測定だ。これには大した意味はない。魔力は魔物を倒して奪う形で増えていく。産まれた時に持っている魔力など僅かなものだ。
「魔力は170で気になるのが霊力5万8000!? 見たことない数値ですね。普通は20程度ですよ。続いて能力測定に入ります」
霊力とはつまりオーラが見える力に関係してくる。零の霊力は凄まじいのだ。霊力は誰でも持っているが、扱うのが非常に難しい。鍛えるのは使用する必要があるので更に難しい。このところゲームのガチャを回す時に幸運を上げていたのでこの数値に進化したのだった。3倍は軽く増えている。
霊力は魔力と違い、他者から奪う事なく増やす事が可能だ。それが途方もなく大きい。鍛えるより奪う方が遥かに簡単だが、鍛えられたものは美しい輝きを放つ。
「これは珍しいですね。何もありません。火とか水とか雷が水晶に出るのですが、全くの透明です。ん。ちょっと待って下さいね。布を被せて暗くしますね。これは……細かなダイヤのように輝く無数の何かが映ってますね」
「それってどうゆう魔法の系統なんですか?」
「うふふ。わかりません。どの本にも載っていません。能力が覚醒したら見せて下さいね。とりあえず特質系と。これでギルドの登録は以上です。魔力の上昇から魔物の討伐数を記録する魔法のバッチをお渡ししますね」
登録が終わったのでギルドを出ようとしていると、後ろから声をかけられた。
「申し遅れました。私はこれから鈴原零さんを担当するミレイヌと申します。レイさんとお呼びしても?」
「あ、はい。お好きにどうぞ。それでは、また。ミレイヌさん」
「すげえ! あの新人始めからミレイヌさんが担当だってよ。上級者しか担当しない事で有名なのに!」
ギルドは滅多に奥から出て来ないミレイヌの事で話題になってザワついている。彼女の持ってくるクエストは超高難易度。零は幸か不幸かベリーハードモードになってしまった。3日におき週に2日しか異世界に来ない契約なので丁度いいのかも知れないが。異世界が気に入ったらもっと多く来てくれるようにならんかのう。こっちに彼女でも出来ると違うのじゃろうけど。ミレイヌさんと零君が付き合わんかのう。そうなるといいな。
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