第3話

 自宅に到着した鈴原零は通販で購入したお気に入りの椅子に座った。ゲーム用だけあって何時間でも座っていられそうだ。スマホを手に持ち、ゲームを起動する。顔が変わった。真剣そのものだ。この表情なら強い魔物と戦っても臆する事はないだろう。早く異世界に連れて行きたいな。


「こんばんはー」


 鈴原零は話を始めた。ゲームを起動している間に通話アプリを開いたようだ。他のメンバーも挨拶を返す。5人と通話状態となった。


「課金してきたので、俺の急成長を見守っていて下さい。とりあえずガチッを引いて新戦力の獲得と武具の確保ですね。専用をレベル10までは上げたい」


 専用とは専用装備の略でキャラ専用の装備だ。武器、兜、鎧、靴がある。他に専用の指輪や腕輪もあるが、出なさすぎて無いこと扱いとなっている。キャラの見かけも変化するので専用の装飾品を手にしたら凄い事になる。羨望の眼差しを数多く集める事となるだろう。5000万課金でも1つしか出なかったという。その人の運が悪かっただけの可能性もあるが。


「おー! 一気に専用10ですか。行きますねー! 行けるかな? やっぱあれ? 雪女の雪子狙うの? あれ強いか?」


「グレンさん。そう。それです。雪子狙いです。カタカナネームが大半の中で珍しい日本ネームですよ。全体の動きを遅くするので早い敵にいいじゃないですか。敵が100人超える時にも」


「あーでも、味方も遅くするからダメじゃん」


「加速持ちなら何とか行けますよ。冷気耐性持ちとか」


 グレンの制止も聞かずに零はガチャを回し始めた。彼の幸運がここ1週間でマックスに貯まった為だ。幸運のオーラが私にも大きいのがわかる。上の方は微かにしか見えないが、天井近くにまで達している。


「雪子10連で3枚抜き! ほら! 雪子に愛されてる」


「あちゃーマジ!? これは仕方ないな。勿体無いけど。雪女より闇の魔神だろ」


「雪子には雪子の良さがあるんですよ。まだ到達されていないスキルも数個ありますし」


「そりゃ人気がないからだろ。雪子は胸と尻だけの女さ」


「いいんです。俺は雪子の見かけだけじゃなく、能力も性格も好きなんです」


「ゲームキャラに性格とか関係ねえし。能力が全てよ。無能に金かける奴はバカだね」


 グレンの言葉に怒ったのか零は話すのをやめた。そして再び幸運が来るのを待っている。その間に雪子のレベル上げを開始した。3枚手に入れたので、レベル上限が150だ。経験値3倍期間の上に、経験値2倍のアイテムを使ったので合計5倍だ。ちなみに経験値2倍アイテムは1つで1200円である。今飛ぶように売れている。課金者たちが一斉に爆買いしているのだ。わしってサーバーのデータも見れるから凄くない?


「よし! 雪子のレベルを150に上げたぞ!」


「おめー! だが、雪子なのが残念だがな」


「グレンさん。あの、人の好きなキャラをそこまで言うのはどうなのでしょうか」


 零とグレンしか話さない中で、突然誰かが口を開いた。それは麗奈だった。とても透き通っている声で、まるで山の中にある清らかな水のような声だ。あまりにも綺麗な声だったので、魔力を使って麗奈の声をたどってみた。行き着いたのは綺麗な部屋で姿勢よく座る美女だった。雪のように白い肌に艶があり、目鼻立ちはくっきり。目が大きく黒目がち。顔は小さく整っており、ゲームキャラを実写化したような顔である。そうあれだ。雪子の実写化。


「レイちゃんこんばんは! 今日もお仕事お疲れ様。ごめん。今日はレイちゃんの嫌いな課金しちゃった」


「レイくんこんばんは。仕事疲れたよ。コロナだと逆に激務になるのよね。課金してきた? 嫌いになっちゃうよーいいのかなー」


「お、それなら次は俺の番だな!」


「グレンさんは永遠に順番来ませんから」


 グレンはレイに即座にフラれた。レイは課金が嫌いだが、仲間を助ける時だけ課金しに行く。一気に強くなって80%を占領されて負けていた戦況をひっくり返したのだ。聖女ジャンヌと彼女は呼ばれるようになった。または解放の女神。彼女の課金力は未知数だが、相当凄そうだ。


「さて、ガチャを引きますよー!」


 鈴原零がガチャを引くようだ。幸運が少しは上がったが、先程ので運を使い果たしている感じだ。だが、彼が気合いを入れると幸運のオーラが増大した。幸運って気合いで増えたかな。神だけどそんな話知らない。


「よっしゃ! 雪子2枚抜き! 闇の魔神ギブスと聖女ルーナも合わせてゲット!」


「嘘だろ。マジで出てるよ」


「相変わらず強運。死ねばいいのに。あ、ごめん。レイ君だった。今のなし」


 ガチャのスクリーンショットの画像を見てグレンとレイは驚いている。このゲームの当たりの確率は2%と高くない。それが1日で2回も10回中4枚という事はほぼない。運が良くて1ヶ月に1回あればいい所だ。


「よし。餌がほしいので500連行きます。雪子の階級50にしたいんで」


 階級とは、その下に部下を持てる事となり、50なら50人を連れて行ける。最大100人だが、それを超える場合は別部隊として分かれるのだ。100対100のバトルではレベルの高いキャラに全てを託すか、平均的に上げるかというどちらかという感じになっている。戦場全体を把握する為に大型テレビやスクリーンを使っている人もいるようだ。零の場合は5人のキャラしか見ていないが。


「やった! 500連で全員スタメン100人出た!」


「はぁ!? あり得ねえ」


「はーい! 嘘でーす」


「でも凄いわね。6枚抜きが出ている。レイ君10枚抜したら会った時にハグでぎゅーだけでなく、キスも追加してあげる」


「レイさんマジですか!? これはやるしか! 1500連だ!」


「うおー! 金持ちー! この俺様が抜かれるかもな!」


「グレンさんは1週間前に既に総戦力で抜かれてます」


 零のオーラが増大していく。爆発しそうだ。このわしでもオーラがくっきりはっきり見える。凄まじい気合いだ。そして震える手で彼はスマホをタップした。


「10枚抜ききたー!」


「嘘でしょ!? ほ、本当に来てる。フェイク画像じゃないよね? しかも雪子10枚。これ伝説になるわよ。たぶん」


「嘘だろ。証拠を見せろや。その10枚使って雪子を今すぐ限界突破してみせてみろや」


「あ、はい。今、雪子合計17枚なので証明になるかわかりませんが」


 これで星20という表示となり、雪子のレベルの限界が1000になった。世界ランキング1の雪子の誕生だ。まだ出たばかりだし、人気もないからだが。ちなみに世界ランキング1位のキャラのレベルは8950である。まだまだ底が知れない課金地獄。それがミリオンナイツ。全世界累計5000万ダウンロードだが、日本では100万人程度である。富豪達は終わりのない課金に熱狂しているようだ。


「レイ君の強運には負けたわ。私のキスは高いんだからね。しっかり味わってよね。ゴールデンウィークに会いましょう」


「麗奈。金払うから俺にもキスしてくれ」


「グレンさんの場合は18億円でも足りないかな」


「じゃ、レイはいくらでさせるのよ?」


「初回はサービスで次回からは愛情レベルが上がってからかな」


「金取ってねーじゃんかよー!」


「お金? 取るわよ。私がキスしたくない時だね。1回500円かな。あ、でもレイ君だから100円でいいか」


「安い! ムカつく! 俺落ちるわ!」


「あ、はい。さようなら。永遠にでもいいですけど、次も来たいならどうぞ」


「グレンさんまたです! お疲れ様でしたー」


 こうして、グレンが落ちてレイは何か落ち着いたようだった。ふたりで数時間話し込んで、そろそろ彼女が落ちる時間になった。


「レイさんゴールデンウィーク楽しみにしてます」


「あ、聞いてた? 返事が無かったから私と会いたくないのかと思った」


「そ、そんな訳! ただ、照れて言葉が出なかっただけです」


「あらそう? よかった。これで安心して寝れる。私ね、ネットで素顔と職業を他人に見せたり教えたりしたことないの。だからレイ君だけ特別。他の人には私の素顔とかの情報出しちゃダメよ。ペラペラ話したらさすがに殺すから」


「あ、はい! 絶対に他の人には情報空かしません!」


「約束よ? じゃまたね。レイ君。おやすみなさい。いい夢を。いえ、幸運を使いすぎたから悪夢かもね」


「おやすみなさい。いい夢を。それとレイちゃんにも幸運を」


 こうして専用武器ガチャを引くことなく終わってしまったが、鈴原零は別に良かった。幸運を意図的に上げる方法がわかったので満足したのだ。彼はそのままスヤスヤと眠りについた。その時にゲームの世界は大騒ぎとなっていた。雪子のまだ判明していなかったスキルが零によって発見されたからだ。それが強いと雪子の人気は数倍に膨れ上がり、まだ伸びている。

 そのスキルとは冷気で減速中の敵に与えるダメージが30%アップ。次に新たに判明したスキルが減速中の敵全体に追加ダメージ50%スタック可能で最大500%スタックが最大になれば毎秒に変化。誰も逃れられず凍りつく。そんな恐ろしいスキルとなった。いくらで最大スタックになると書かない所がポイントだ。10スタックかも知れないし、100かも知れない。こうして一夜にして雪子は最大級の火力を持つキャラとなった。






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