第2話
鈴原零はワクワクしながらコンビニに向かっていた。何故なら彼のハマっているスマホゲームでお得なイベントが開催中だからだ。獲得経験値は何と普段の3倍。これを機会に一気にレベルを上げて上位に食い込む予定だ。その為に装備に大金を使ってレベリングの効率を上げて周回速度を上げる為だ。
彼を見守っていたらゲームに詳しくなってしまった。実は自分の事のように楽しみだったりしている。地球の娯楽も悪くないものだと思う。
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」
鈴原零がコンビニに入ると店員の女性が歓迎してくれた。どうやら顔を覚えられているようだ。彼は女性店員にお辞儀をするとそのまま大量の現金を引き出し、財布に限界まで詰め込み、ゲームのカードを大量に手に取ってレジに向かった。
「きゃー今日はいつもより沢山買うんですね。ひゃ、百、100万円になります」
驚く女性店員に札束を取り出して渡す鈴原零。さすがに緊張しているのか手が震えている。ブラック企業で稼いだ血と汗が染み込んだ金だ。札は新しく綺麗であるし、幸運が見える超能力で宝くじを当てた200万のうちからだとも言えるが、ロマンがないのでやめておく。
「あの、これだけ大量に課金するなら食べ物や飲み物もあったほうがいいと思うのですけどいかがです?」
「あ、忘れてました。そうですね、今日は徹夜なので沢山必要です。ありがとう」
「レジそのままで待ってますね。ゆっくり選んで下さい」
客がたまたまいない店内にふたりきり。ピンクのオーラが店員から物凄い勢いで出ているかの如く、店内にいい雰囲気が流れている。彼は彼女の好意に気がついているのだろうか。
私もオーラが少しは見えるが、彼の100分の1程度だ。つまり、彼はオーラの流れを100%察知する事が出来る。魔法も発動する前にその軌道が読めるという事だ。回避困難なの銃弾のような速度の魔法も楽に避けられるだろう。
買い物カゴにお気に入りの2リットルのフルーツジュースを入れ、冷凍のフルーツ、ついでに近くにあるアイスも入れた。糖分の取りすぎが心配だ。その後、大量のカップ麺をカゴに入れた。有名店の辛いやつと、出汁が美味しいうどんと蕎麦。それから少し引き返して酎ハイを手に取ろうとしてやめて、ビール数本とつまみをカゴに入れた。糖分は気になるらしい。つまみは、あたりめ、さきいか、くんさき。イカばかりだ。それから弁当を入れた。チーズドリアにグラタン、ブリトー、チーズやクリーミーなものが好きらしい。彼の好みは一貫しているのかも知れない。おそらくクリームシチューも大好きだろう。
カゴがいっぱいになり、再びレジに向かい会計をしていると、他の客が一気にやってきた。
「合計で100万3281円になります」
女性店員は自分の事のように何故かどや顔で大きな声で言った。
「凄い! 100万! 富豪がいるぞ」
「あのお兄さんただのイケメンじゃないんだね。顔が怖いのもお金持ちの風格なのかも」
「友達になりてー」
「そんなに課金してみたい。1枚でいいから分けてほしい」
一気に入ってきた客達が口々に呟いた。それを聞いて鈴原零の顔は耳まで真っ赤になった。
「お客様。連絡先を聞くなら今ですよ。ついでに私もお願いします」
女性店員はここぞとばかりに畳み込む。始めからこの状況を狙っていたように。それから他の客全員と連絡先を交換して、最後に女性店員と交換した。彼女のおかげで一気に交遊関係の幅が広がりそうだ。しかも全員ご近所かも知れない。なんて素晴らしい。
「またのご来店。心からお待ちしています。本気で」
「あ、はい。また来ます」
彼がコンビニを出ようとした時の事である。他の客達が集まってきた。
「ゲームがんばって!」
「目指すは世界1位だ!」
「幸運を!」
「ゲーム終わったら皆で祝杯しよう」
「いいですねー!」
他の客が一斉に彼に応援の声援を投げ掛けたのだった。彼は再び耳まで顔を赤くしてこう答えた。
「やる気出ました。頑張ります! 近いうちにまた! 祝杯は密にならないように広い会館借りてやりましょう」
「うん。こんな時代だから気を付けないとね。知り合いのライブハウスが休業中なのでそこを使ってくれると助かります」
女性店員が鈴原零の袖を掴みながらそう言うと、他の客達もそれに同意した。50代半ばの男性も嬉しそうだ。
「3丁目のあの有名なライブハウスですね。わかりました。それでは皆様またです!」
鈴原零はウキウキしながら歩いて帰った。普段の2倍早く家に到着した。かなり嬉しかったらしい。よかったね。友達沢山増えて。
これで異世界に呼ぶのまた躊躇しちゃうな。最低でも彼のゲームのイベントが終わって、祝杯を今日の皆でしてからか。わし、見えないけど一緒に参加してる気になっていいのかな。お酒飲みたいな。肉体はもう闇の魔王に滅ぼされて飲めないけど。味を思い出して何とかいけないかな。
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