第九話

9:

「はぁ……」


 観覧車の中だけど、小さいから遠くが見えない。

 目の前には『おにい』が。


「疲れた……」


 合流ができた後は、


 ジェットコースターは、不安すぎるがったんがったん音で、別の意味で怖かったし。


 ティーカップコースターでは、思いっきり速度を速めて回すし。


 まともだったのはバイキングくらいかな? やっぱり小さかったけど。


 だけど、後半は激しい乗り物ばかり選ぶものだから、さっきまで乗り物酔いで気分が悪かった。


 そして今乗っている観覧車の中は、日に焼けていて蒸し暑い。

 ああ、夕焼けが目に痛いなぁ……。


「燕、楽しかったか?」


 いまさらな事を聞いてくる兄。

 感想なんて――


「ここ、本当は来た事なかったんや」

「え?」


 両手を頭の後ろで組んで、背もたれに寄りかかりながら遠くを見る兄。

 実際はそう遠くまで見えない景色だったが。


「入りたくても入れなかったんや」


 頂上まで上りきったゴンドラが、ゆっくりと下がり始めた。


「入場料もそうだが、中で遊ぶためのチケットとかが買えなくてな」


 肩残りをほぐしながら、どこか気恥ずかしげな兄の面持ち。


「ここの入り口を眺めるしか、できへんかった……それに、一人で入るのも、なんや嫌だったしの」


「…………」

「すまんかったの、入ってみたら子供ばっかやし。別のところが良かったかの」

「……ううん」



 なんだ、そっか……。

 だから私と来たかったのか。


 ……ムキにまでなってたし。


 初めからそう言ってくれれば……そう分かってたなら、


 ちゃんと立ててあげたのに。


 『おにい』を――


「楽しかったよ。お兄ちゃん」


 私の返事で、兄が安心したような笑みをこぼす。


「……そっか、そりゃ良かった」


 まったく、


 しょうがない『おにい』だ――



                        ――終わり――

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悪兄!! 石黒陣也 @SakaneTaiga

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