カロン伯爵

第4話

 余は妻にこれまでの経緯を説明した。シャルフェンベルク伯爵カロンであるところの余の妻、はふりJAPANじぱんぐの出身で、目も耳も用いることのできない盲聾もうろうの身の上であるが、清く優しい心の持ち主で、曰く語り難い経緯の末にこのフォルモサへと流れ着き、主のお引き合わせ在ってこの私の妻となった。


「そうですか。弟が……陣内が、この島までやってきたのですか」

「そういうことだ。今は私の部下、プットマンに監視させている」

「ハンス殿ですね」

しかり」

「以前にもお伝えしたことですが……」

「ああ。分かっている。そなたの弟御を——」

「殺してくれ、と。そうお願いいたしました」


 余は苦渋の表情を浮かべて妻に伝える。


「仮にも血を分けた者同士のことだ。何かよほどの訳があるのだろう、と思ってはいたが。……事情は、聞いた」


 手のひらにそう書くと、祝は蒼白の表情となった。


「……そうですか。知られたくは、なかったのですが」

「心変わりさせる余地は、ないのだろうな」

「ありませぬ。弟も、おそらくただわたくしに会いたい一心でやってくるわけではないでしょう。恐らくは、わたくしを斬り、そして自らも腹切って果てるつもりであろうかと」

「痛ましきことよ。痛ましき妄念よ。しかし、やむを得ぬだろうな。されば安心せよ。このカロンが、この手でそなたの弟御、討ち果たすこととしよう」

「ありがとう存じまする」


 そのとき、城外に馬蹄の音が響いた。


「ハンスが戻ったようだ。細工は流々。後は仕上げを覧ずるのみよ」


 余は愛用のクロスボウを壁掛けから降ろし、傍らに携えた。そしてあらかじめ招集していた手勢の者たちに合図をし、そして自らも厩に待たせていた愛馬に再び跨る。


「ご武運を。あなた」

「まるでいくさだな。いや……そう、これは戦なのか。そう心してかからねば」

「はい」

「余も生きては帰れぬであろう。なれば、くとしよう」

「ご無事をお祈り申し上げております」

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