第3話

 例の二人組はゼーランディアでは多少顔の知れた小悪党だったらしく、陣内にかけられた殺人の嫌疑はすぐに晴れた。つまり正当防衛が認められたというわけである。


「それにしても、目も見えず音も聞こえない剣客が、これほどの剣技を用いるとは。見てくださいよ、これ」


 と言って城に運び込まれていた二人組の亡骸を示すのは、ゼーランディア城所属の警邏の人である。


「剣技がどうとか言われても、僕には分かりませんよ」

「なら説明してさしあげましょう。この太刀筋、のですよ。相手の居場所や姿を正確に捉えることができない以上、急所を狙うなんてことはそりゃあできないでしょう。そりゃそうです。だけどそれなのに、二人とも一太刀浴びた時点で完全に絶命しています。ふつう、剣ってのは一撃で人間を殺すようにはできていません。じぱんぐのカタナなるものにしても、多分それに変わりはないでしょう。なのに、一太刀。目も耳も使えないから、逆に一太刀で相手をほふるしかないんでしょうね。これはそういう剣術です。そういう亡骸です」


 ふぅん。


「じゃあ、あなたが対峙するとしたら陣内とどう戦いますか?」

「逃げて仲間を呼ぶか、遠くからボウガンもしくは火縄銃マッチロックで狙うか。そのどっちかですな。斬り合うのは無理です。自分も戦いは専門ですけど、こんな化物と一対一、至近距離でやり合うのは絶対に御免ですね」


 ふーん。


「で、ジンナイという人は、シャルフェンベルクを目指しているんでしょう。馬車をご用意しましょうか」

「あ、それには及ばないです」

「ん?」

「馬は、もう用意してありますので」

「はて。船が着いたばかりで騒ぎが起こって、それですぐここに来たんじゃなかったでしたか。いつの間に? まあ、いいか。いいならいいです」

「はい。お気持ちだけ頂いておきます」


 それから。


 僕は約束通り陣内のために馬を準備した。と言ってもちろん、一人にさせるわけにはいかない。僕はもうついていかないが、あらかじめ雇ってあった城までの案内人を同行させる。既に夜なので、出発は明朝とのことだが。


「ハンス、何から何まで世話になった。深く感謝する。かたじけない」

「なに、いいってことよ。僕はしばらくヨハネス商会というところのゼーランディア支部に滞在している予定だから、お姉さんに振られたら……ゲフンゲフン……また縁があったら訪ねてきてくれ」

「相分かった」


 こうして、陣内は今夜宿泊する宿(僕が借りた)に消えていった。


 で、僕はというと。


 ヨハネス商会に行くのかって?


 実は行かない。というか、ヨハネス商会なんて商会はゼーランディアに支部を置いていないし、そもそもどこにも存在しない。


 僕は陣内のために借りたのとは別の馬に乗って、夜の闇の中を走り出した。


 一路、シャルフェンベルクへ。

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