『落穂拾い』という
「報酬の話をしよう。あなたたちの求める探し物が『
促されてテーブルについた『ふたりの木漏れ日』が、最初に聞かされたのは金の話であった。
もちろん冒険者は慈善事業などではなく、依頼をするのであれば報酬の話はなにはともあれ曖昧にしてはならないものである。とはいえ、こうまであからさまに開口一番切り出されれば、さすがに守銭奴という単語が頭に浮かぶ。
思わず眉をひそめたフィックスとアマリアであるが、『落穂拾い』のふたり——レリックとフローは意に介さない。フローに至ってはすべてレリックに任せたといったふうに隣でコーデクスを読み始める始末。時折、蓬髪から伸びた長い耳がぴくぴくと揺れているのは、興味があるからなのだろうか——拷問史に。
「ひと月経っても成果がなければ依頼未達成として報酬は全額返還となる。この場合、ギルドへの手数料もこちらが負担する」
冒険者への依頼は、たとえ相手が同業者であれ、必ずギルドを通して発注するのが決まりとなっている。そしてギルドは仲介手数料として報酬の二割を徴収する。
この二割はもし依頼が失敗しても依頼主に戻ってくることはない——通常であれば。
「つまり依頼が失敗しても、俺たちが失う金はなく、お前たちが一方的に損をする……と?」
「そういうことになる。ただ逆に、僕らが三日以内に失せ物を探してきたら、全額を払ってもらう」
上層で二十万、中層で五十万、下層で百万、深層に至っては五百万レデッツ。
ヘヴンデリートに住む労働者階級の平均月給が十万から二十万。上層で採れる素材を持ち帰る依頼の達成料は一万から十万ほどが相場だ。
ただしそれはあくまで最短の日数で依頼を達成した場合。
迷宮内で探し物をする——その困難さを考えた場合、たとえ上層であっても、たかだか三日程度でやれるとはとても思えない。というより、最長期限のひと月すら短いのではないか。
フィックスは口許に手を遣り、しばし考え込んだ後に問うた。
「お前たちの『
レリックが肩を
「そこは信じてもらう他ないね。まあ、信じるに
「それで、『
「そこまで
レリックは呆れたように溜息を吐くが、問いに対して黙秘はしなかった。
「僕の
「はぁ? 『収納』に『霊的感知』?
フィックスが眉根を寄せた。無論、呆れて、だ。
『
初めて発現させた者が現れたのは先代文明末期と言われているが、以来、人はひとりの例外なく、なんらかの『
だが固有の特殊技能といっても、千人いたら千通り、とはならない。
レリックの自称する『収納』——物質をここではない別のどこかへと自在に出し入れする能力——などは、
なるほど『収納』は荷物を削減できるから、一見して迷宮探索に有用そうではある。『霊的感知』を持った
だが実際のところ『収納』の容積など
「ふざけているのか? 荷物持ちに振り子使い……おまけに
舌打ちとともに吐き捨てて、フィックスは椅子から立ち上がる。
これ以上付き合っていられないとそのまま踵を返そうとしたところで、腕を掴まれた。
「待ってください」
アマリアである。
「なんだ、何故止める? お前も聞いただろう、こいつらは……」
「ええ、聞きました。その上で、です。……ねえフィックス。浅慮はやめてください」
彼女は腰掛けたままに、フィックスを真っ直ぐに見上げる。
諭すような、或いは咎めるような目で、静かに言った。
「私たちにこの情報を売った彼女は、確かな筋からの紹介だったでしょう? だったら嘘は吐かない、吐く理由がありません」
情報屋とて商人であり、客を欺くのは信用問題となる。ましてや情報は真偽を確かめるのが容易い。薬の品質や肉の種類を偽装するようにはいかないのだ。
そして第三者からの紹介を受けたのであれば、もぐりや詐欺である可能性も低い——そうならば、紹介者とぐるということになる。
「
「……っ」
フィックスはしかめ面でアマリアを睨み付ける。
だがさりとて掴まれた腕を振り解いたりはせず、ややあって沈黙ののち、深い溜息ひとつとともに再び椅子へと腰掛けた。
「いいだろう『落穂拾い』。お前らに依頼をする」
「
一連のやりとりを見ても、レリックは表情ひとつ変えず、口も挟まなかった。
フィックスが向けるのはあからさまな嘲りと不満の視線であるにも
「では探し物の内容と、落ちているであろう場所——おおまかな階層を。とはいえ料金は実際に落ちていた階層がどこかによって決まるのでそこは気を付けて。上層にあると思っていたものが下層にあった、という場合、いただくのは下層の料金となる」
自分たちの
フィックスはもはや諦めたように肩を
「場所はおそらく中層中辺から中層下辺。探し物はさっきアマリアが口を滑らせた通り。……俺の武器『ブルトガング』。
言うとともに、無意識にだろうか、自分の横腹に手を遣る。
そこに
『輝ける聖剣』などではない、使い捨てに等しい数打ちであった。
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