最後に思い出してしまうのはきっと
オオムラ ハルキ
第1話
私にとっての君はクスリなの。寂しさを埋めるためだけのクスリ。だから、いつかは摂取できなくなる時が来るし、私を逆に苦しめるものになる時もある。私自身の心を完全によりかからせてしまう前に、早くこのクスリを目の届かないところに置かないと。依存してしまったら、堕ちるのはきっと私だけ。
私が君に出会ったのは偶然だった。私は付き合っていた彼にフラれたばっかりで、君は付き合っていた彼女をフッたばっかりで。ファミレスの隣あったソファ席にそれぞれの相手に残されてしまった二人が、君と私。ドラマでしか見ない、謎の緊張感。徐に私は君の向かいの席に移っていた。
「ねぇ、彼女をフるときってどんな気分なの?」
と私は聞く。
「気分、気分、ね。最悪かな。」
と君は答えた。
「ふーん、好きだったの?その子のこと。」
「まぁ、まぁかな。」
「あっそ。そんなもんなのね。」
「そんなものでしょ。面倒になったら別れる。」
「合理的。」
「フラれた側がよくいうよ。」
「女はカッコつけたい生き物なのよ。」
「男も大概かな。」
ふっと君の顔が憂いを帯びた。
そして少しだけ癖のある声色で君は私にこうささやくの。
「ねぇ、朝まで一緒に居ようよ。」
いつもなら臭いセリフだと一蹴する言葉も、今日のわたしには必要だったみたいで、なんとなく夜を持て余してしまった私の身体は素直に君を受け止めてしまった。
「家、来る?」
勢い任せに私の口から出た言葉はするりと君の中に入る。
返事なんていらなかった。
汗ばんだ君の手が私のそれに重なる。
会計を済ませると私は繋いでいない方の手でタクシーを呼んだ。
赤と青が溶け合って、紫になるようなそんな夜。
タクシーの中では妙に静かだった。
玄関口で軽くキスした後のことは気持ち良さすぎてあまり覚えていない。
でも、君がたっぷりと愛しそうに身体中にキスをしてくれたことはなんとなくだけど覚えてる。
目を閉じる前に君のキス
目を開けたときには君にキス
こうして始まった君と私の関係に名前なんかつけられなかった。友達でもないし恋人でもない。セフレと呼ぶほど淡白でもないし身体だけでもない。
私にとっての君、君にとっての私、多分そのどちらもがちょうど良い存在なんだと思った。
ほんとに君はずるい人だ。私はもう心地良さすぎて君がいればなんでもよくなってしまった。新しく彼を作らなくても心と身体を満たしてくれる人がいるという状況に甘えて、すがって、まんまと溶かされていく。君は相変わらず不定期に私の家に来ては私を愛して行く。
好きだよ、愛してるとは言っても、一緒に住もう、結婚しようとは言ってくれないんだね。
まぁ、お互い様なんだけど。
君が私との関係をお終いにしようとするその最後の時に私が思い出してしまうのはきっと、君の言う、チープな「愛してる」の言葉だと思う。
君のスマホの画面がパッとついた。
画面には「新着メッセージが届いています」の文字。送り主はたぶん、私の知らない女の子。
最後に思い出してしまうのはきっと オオムラ ハルキ @omura
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