第49話 約束
◇
「学園、辞めちゃうんだね」
少し寂しそうなロイに、何か憑きものが取れたかのように晴れやかな表情をしたアウロラが笑いかける。
「分かっていた事でしょ? 私、魔法には興味が無いもの」
「うん……それでも、少し寂しいな。コネクション作りは別にしても、僕は君の事を気に入っていたからね」
「何よソレ、プロポーズ?」
「いいや、そうじゃない……そうじゃないさ」
そしてロイは真剣な表情でアウロラを見つめた。
「僕はこれから、師の元で魔法を学び、極める。そして、魔法という概念を根本から作り直すつもりだ……どれだけ時間がかかるかはわからない。もしかしたら、僕の代で完遂することは出来ないかもしれない……それでもきっとやり遂げると約束するよ」
「……私に約束してどうするのよ?」
「君は森の民の血を引いているからね。きっと僕より長生きするだろう。だからこそ、僕の約束を覚えておいて欲しい。どれだけの時が過ぎようと、僕はきっと魔法を作り替える。もう、偽りの技術体系だとは言わせない」
「…………わかった。じゃあ、私も約束する。私はいつか、魔法を超える鉄を打つ。どれだけ時間がかかるかはわからない。でも、きっと神秘を超越する鉄を鍛え上げるわ」
互いに視線を交わす。
もう、言葉は不要だった。
◇
カーン
カーン
カーン
一定のリズムを刻んで鉄を打つ。
誰も居ない古びた工房に、硬質な音が響き渡った。
あの約束から何十年たっただろうか? 鍛冶職人として一流の技術を身に付けたアウロラは、魔を穿つ鉄、即ち ”魔鉄” と名を改めた。
森の民の血を引く彼女の容姿は、あの頃から少しも変わってはいなかった。
首にかけた布で額の汗を拭い、たたき上げた鉄を冷水に浸した。
ふと、何かを感じ取り、顔を上げる。
鉄と触れあうようになってから、精霊の姿を見ることができなくなってしまった。しかし、この感覚は、かつて毎日のように触れあっていた精霊達の…………。
何かがあったのだろう。
そして、精霊達はそれを彼女に伝えようとしているのだ。神秘の世界に背を向けた。こんな異端者に。
「…………そうか、ロイが逝ったか」
予想していた事だった。
アウロラは、ロイ・グラベルを殺そうとしている人間に自ら鍛えた鉄の武具を持たせたのだから。
彼女はキツく口を結ぶと、無言で作業を再開した。
鉄を打つ硬質な音が、再び工房に響き渡る。
魔を穿つは鉄。
約束したその究極を証明するために。
FIN
魔を穿つは鉄 ~魔法の使えない重戦士は筋力ですべてを覆す~ 武田コウ @ruku13
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