Happy birthday from battle field

影迷彩

──

 地平、そこは戦場に位置していた。

その後方に建設された補給基地にて。


「なぁタンジ、そのアクセサリどうしたんだ?」


 同僚が俺の首飾りに気づき、アサルトライフルの手入れをしながら尋ねてきた。


 「なんでもねぇよ、今日たまたまな。まぁ魔除けみてぇなモンだ」


 俺は同僚に一瞥し、ナイフを研ぐ作業に戻ろうとした。


「いや、お前はそんな性格じゃねぇはずだ。なんだ、女から貰ったのか?」


「ちげぇよ。その、誕プレってやつだ」


「誕プレ? マジか、いつだよ?」


同僚は興味津々に身を乗り出した。


「はぁ……今日だよ」


俺は観念し、今日が誕生日であることを明かした。


「マジで!? なんで言わねぇんだよ~」


同僚が距離を詰め、俺に肩を当てて陽気に絡んでくる。


「これから仕事だろ。わざわざ言う必要も、余裕もないと思うが」


「俺らを舐めるなっての。ちゃちゃっと終わらせて、お前をお祝いするからよ。オーイ、皆ぁ!!」


 同僚が手を大きく振り、周囲の隊員を呼び寄せた。


 「なんだぁ? 変なモンでもあったか?」


 「いや、今日はコイツの誕生日なんだ、祝ってやってくれよ」


 同僚が立ち上がり、俺の肩を叩く。

 他の部隊の隊員もワラワラ俺に寄ってくる。肌も国も違う俺たち混成部隊は、これから敵基地強襲に向かうところだ。


 「おめでとう」


 「いいね! 何歳だ?」


 皆陽気に俺を囲いながら、「ハッピーバースデイ」を歌い始める。適当に一言言われるだけでも、その場のノリで歌われるだけどもいい気分がしてくる。「おめでとう」、そう言ってもらえるだけで、歯痒くとも嬉しくなった俺は首をかいて首飾りに触れた。


 「お前ら、騒がしいぞ。何してんだ全く……」


 隊長もこの集団に入り、隊員達を見渡して溜め息をついた。


 「隊長、今日はタンジが生まれた日なんです」


 外国出身の隊員が、カタコトで説明した。


 「そうか。とりあえずお前ら、出撃まであとそろそろだ、準備が整い次第各自移動を開始しろ」


 隊員達は俺の背中を叩きながら去っていく。


 「ふぅ……あぁ、こんなときに何だが、おめでとう」


 いつもはしかめっ面の隊員が、軍帽を目深に被り直すと、俺を一瞥して去っていった。

 俺も照れくさくなり、持ち場へ同僚と共に戻っていった。


────


俺達は敵基地に突入し、前線を破壊し終えた。

憔悴し傷ついた身体を残りの体力で動かしながら、俺はドアを蹴破り室内でアサルトライフルの銃口を振り回す。

床へと銃口を向ける。瓦礫で頭が潰れている死体が、何かを握り床で痙攣し終えていた。

 俺は死体に近づき、握ってる手を銃口で開かせた。手からゴロッと転がったのは、リボンに巻かれたオルゴールだった。

 俺はその場で屈みこみ、アサルトライフルを腰に移動させるとオルゴールを持ってリボンをほどいた。

 オルゴールが開き、ハッピーバースデイの曲が流れ始める。


 「そっか……誕生日おめでとう。クソッタレ」


 俺はオルゴールを閉じ、爆風で吹き飛んだ壁から空を見上げた。今日は珍しく晴天で、日差しが明るく暖かい。重装備の俺にそれは熱く、軽装の死体は日陰にあって日差しを浴びれなかった。


 俺は外に出た。周りは崩れ落ちた建物しかない。


 「おうタンジ、生きてたか!」


 同僚が俺の隣に並んだ。彼も砂利と血に顔をまみれさせている。


 「生きてるさ。死ねるかよ、こんな日に」


 「ハッ、そうだな!」


 同僚はこんな場所でも陽気に笑った。


「作戦経過は?」


俺はアサルトライフルを構えて、同僚に尋ねた。


 「俺らは制圧完了、敵は全滅、こちらの被害は──」


 近くで爆発がし、同僚の言葉が聞き取れなかった。


 「……そうか」


 俺はボソッと答えた。同僚は爆発地点を睨み、俺の前方に視線を戻す。


 「それにしても、お前も残念じゃねぇか。こんな日に誕生日を迎えるだなんて」


 「あぁ、そうだな」

俺は倒壊していく建物の音を耳に拾った。


「嵐の日、前の職場で残業した日、寝込んで過ごした日……今までも何度かそんな誕生日を迎えたが……こんな誕生日は、二度とゴメンだな」


「だったら残念なこった。来年も続くぜ、こんなペースだとな」

 

同僚は地面に血痰を吐いた。

俺は大きく溜め息をつき、雲ひとつない、何も変わり続けない自然なままの青空を見上げた。

俺は誕生日は迎え続ける。それは必ず毎年訪れる。

戦争はどうだ。終われるなら終わってくれ。それが出来るハズだ。

そんな愚痴を溜め込み、俺はアサルトライフルの銃口を前方に向けた。

今年は蝋燭がなかった。硝煙と爆風が、誕生日祝いの代わりに俺を囲い包み込む。

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