おそろい

「綾ちゃん帰った?」

隣の部屋から出てきた姉はニヤニヤと笑っていた。

あ、これからかわれるやつだ。

「うん」

「話丸聞こえだったよー? 特に最後の。まさかうちの苗字をあげるなんてねぇ」

「うっせ」

自室に入るなり扉を勢いよく閉めた。バタンッ! と大きな音が鳴る。

「…………」

こたつの上にはチョコレートの箱。

市販の食べ慣れたやつだけど、今日はバレンタインだから少し特別だ。

「はぁ……」

別に、いつか自分の苗字を綾が名乗るような日が来ればいいのになぁ、なんて叶うかどうかも分からない夢物語が早まっただけだ。

「……しかもペンネームだし」

こたつに足を入れ、チョコをひとつ口に入れた。

頬杖をついて触れた頬は少し熱い気がした。





数年後、無事に小説家としてデビューした彼女が、結婚によって本名とペンネームが同じになってしまった部分があるから、という理由でペンネームを変えたのは、また別の話。

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NAME 陰陽由実 @tukisizukusakura

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