決定

学校用鞄の中に入っていた適当なプリントの裏紙と、筆箱の中に入れていた特に使っていないボールペンを手渡すと、綾は端っこに光と書いた。

「名前的な方には『光』って字を入れたくて、苗字的な方が全然決まってないの」

綾の書いた丸っこい字を見つめながら、俺は思考を巡らせた。

「んー……無理に光の字に何か付け足さなくてもいいんじゃね? この字は『コウ』とか『ヒカル』とか、読み方のレパートリー多そうだし」

「あ、そっか。ペンネームだからキラキラネームもガンガン使えるし、なんか嫌だったらすぐ変えれるもんね。……でも妥協はしたくないけど」

他にも気になってる字や意味合いをあーだこーだと話しながらとりあえず書いていくと、だんだん綾は1人でブツブツ言いながら書いてはバツをつけるを繰り返すようになった。

気づけば1時間が経過しており、俺はたまに思ったことを言うだけで少しつまらなくなってしまった。

「……もう『菊地原』でもいいんじゃね?」

面倒になって適当に言った言葉に、綾は目をパチパチと瞬きした。

「それだ!!」

「……え?」

もう余白が少ない紙に『菊地原きくちはらひかり』と書いた。

「うん! なんかすごくしっくりくる! ありがとりょーくん!」

「ちょ、ちょっと待って、ほんとにそれでいいの!?」

さすがに慌てる。まさかヤケになって言った言葉が採用されるとは思わなかった。笑って終わりだと思っていた。

「うん、いいよ。私はこれが気に入った」

「いや、いいならいいけどさ……」

にこにこ笑う綾にこれ以上反対する気にもならず、結局折れることにした。

「じゃあ、私帰ってプロット組んでみる! ありがとね!」

立ち上がって帰ろうとするので、見送りをしようと俺も立ち上がった。

「なんか役に立てたならよかったよ。特に何かしたような記憶はないけど」

「そんなことないよー? あ、そのチョコ、バレンタインのチョコだからあげる」

こたつの上に乗った箱は、半分くらい中身がなくなっていた。

そういえば、綾はこのチョコレートをほとんど食べていないことに今更ながら気がついた。

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