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陰陽由実

ノープラン

「りょーくん! 助けて!」

ある日の昼下がり、自室のベッドに寝転がってゲームをしていたら突然、バンッ! と盛大な音を立てて扉が開いた。

またか、と思いながら、俺はため息をついた。

「……せめてノックをしろ、というか家上がるなら来たときに声かけてくれ」

そう言いながら起き上がり、部屋の前に立っているあやを見やった。

俺と彼女の両親は結構仲のいい友達らしく、よく互いの家を行き来している。その延長で、俺らも幼い頃からよくアポなしで遊びに行ったり来たりしている。

第二の家だと互いに思えるくらいには。

「それで? 今日はどしたの? いつものゲームが攻略できないとかじゃなさそうだけど」

「今日はそんなどうでもいいことじゃないの」

綾は俺の部屋に合わせた小さめのこたつに足を入れ、持っていたチョコレートの箱をペリペリと開けながら言った。

「次の4月から私たち高校生になるでしょ?」

「おう」

「だから作家デビューをしようかなと」

「どこをどうしたらそんなに話が飛躍するんだ?」

チョコをひとつ摘んで食べ、もぐもぐしながら俺もこたつに足を入れた。

元々1人用だから、無理に2人も入ると中が狭い。

「行きたい学校に文芸部あるの。他に興味ある部もないし、入りたいなって」

「へー、あの学校って文芸部あるんだ」

ちなみに2人とも既に受験は終わっている。だから世の中の受験生が血反吐でも吐きながら必死に勉強しているこんな時期であるにも関わらず、のんびりと部活の話に花を咲かせることができるのだ。

「それで? なんか問題でもあるの?」

「……決まらないんです」

「は?」

「ペンネームがっ! 決まらないんですよっ!」

拳をドンッと机に打ちつけ叫ぶ。振動でチョコの箱がガタッと少し動き、ちょうどもう一つつまもうと手を伸ばしていた俺は驚いて「うおっ!?」と声を上げてしまった。

「え? 必要なの?」

「絶対に必要というわけでもないけど」

「決まらないなら別になくてもいいじゃねーか……」

「でもあった方がかっこいいでしょ? ……というわけで何か案ください」

このとーり、と言いながらゴチンと音を立てて額を机に当て……いや、打ち付けた。

あはは、なんかいい音出たー、とかなんとか1人で騒いでいるのをよそに、俺は宙を見ながらうぅん……と唸った。

「ちなみに綾は何か考えたのある?」

「とりあえず上と下の名前がある感じのがいい」

「具体案は無いのか……」

「全く無いわけじゃないよ! とりあえず何かメモ用の紙とペン貸して」

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