第18話「不正疑惑と祝福の鐘」
目の前に映るその顔は、どことなく見知った顔で、その表情はどこか怒りをあらわにしているような——そんな硬い表情に見えた。
俺は、その表情を見るや否や、固唾を飲んで固まった。
拳には、いつの間にか力が入っていた——。
★ ☆
目の前に現れたその人は、俺が初日にお世話になったヴァイオレット試験官だ。しかし、今は訳の分からないことを俺に押し付けてきている。
不正とはなんだ。俺は普通に他の奴らから石を回収してここにいるというのに——。
「——な、何のことですかッ! 俺は普通に……」
「問答無用」
ヴァイオレットは、俺の話に耳を傾けようとはしない。
そして、反論の余地を与えないまま、彼女は俺の肩に触れた。
「少し期待をしていたのに——残念だ——」
そう言うと、彼女は魔導書を開いた——。
……ピピ
…………ピピピ……
その時だ。彼女が装着していたインカムが、何かを拾った。
ヴァイオレットは、小さく舌打ちをし、「ったく誰だよ」とこぼして片耳に手を当てた。
「……はい、こちらヴァイオレット——」
「——彼を通しなさい」
「————ッ!」
一瞬、ヴァイオレットの表情がこわばった。
そして、ふと我に返る。
「——で、ですが……彼の魔晶石には私の——」
「通しなさい」
「————かしこまりました……」
ヴァイオレットは、片耳に当てた手を下ろし、こちらを見つめてきた。どうやら、会話は終わったらしい。——それと、なんだか表情が怖い。
ヴァイオレットは俺を睨みながら、何かを考えるようなそぶりを見せ、その後ため息をつき再び俺の肩に触れた。
「——貴様は……一次試験通過だ……」
「——……え? でもさっきはダメだって……」
「……えーい、もっと喜ばんか! そんなもん私にもわからないさっ! ——けどな、『上』の指示だから仕方がない」
「『上』?」
「——もういい、さっさと飛ぶぞ」
そう言うと、彼女は『転送:頂上』と唱えた。終始、俺の頭の上には「?」が浮かび続けていたが、結局「どういうこと——」と言う言葉を置き去りにして、俺はそのまま消えた——。
ヴァイオレットは、一人考えていた。
あの少年を転送してから、あの少年が持ち込んだ石についての違和感がぬぐえなかったからだ。
彼女は、自らが設置した台座に触れ、何かを唱えた。すると台座は輝きはじめ、そこには試験で使われたであろう魔晶石が二つ現れた。彼女はその一つを手に取ると、指もとで回しながらよく観察した。
「——やはり、見た目は間違いないが、この石からは私の
ヴァイオレットは、再びそれを台座に置くと、深く考え込むのであった——。
★ ★
瞬きをしていた瞬間だった。目を開くと、その景色は、先ほどまでの薄暗い空間からは一転した、日の光が直接見える場所だった。ここ数日間、森の木々に阻まれて日を直接浴びることがなかったからか、この一瞬が異常にまぶしく感じ、まるで部屋に引きこもって数年の者が久しぶりに太陽の下に出たかのような、そんな不快感を味わった。
ただ、これは一瞬に過ぎず、背後から彼の声が聞こえた途端、俺の心は晴れ晴れとした。
先に来ていたファルコだ。
ファルコは、俺の顔を見るなり、何やらニコニコしていた。
「二人とも通過できてよかったね」
ファルコはそう言うと、満面の笑みを浮かべながら拳を突き出してきた。なので俺も、その拳に合わせて拳を突き出した。
——本当に、本当に通過できてよかった。
辺りを見渡した感じ、どうやらここは神殿の頂上みたいだ。空が直接見えるような開放的な場所、そこからは先ほどまで走り回っていたであろう森が緑みどりしていた。それに対し先ほどまでと同じような、白っぽいような灰色っぽいような石造りのオブジェやら壁やらがいい味出している。——ただ、視界に入るあの近代的な高く白い壁が、この景色の味を台無しにしていた——。
そして、中央に向かってもう少し高い位置から水が流れ、滝のようになっている。それが神殿内部に流れ込んで——その先は見えなかった。
それと、俺の足元。
この空間のちょうど真ん中に位置するここ。円形の魔法陣っぽいような見た目だが——多分これは「転移門」だ。ただ、インクのようなもので描かれたのか、艶があり、恐らく描かれてから日が浅い。それに、さっきの「頂上」ってのも安直なネーミングすぎるし、おそらくこれは即席の「転移門」か。
また、見た感じ通過した受験生の数は俺らを含め7人——。
まて、あの男ってやっぱり——
特段意識していなかったので気づかなかったが、そこには見知った顔が一つあった。間違いない、やつは行きの馬車で乗り合わせたあのバトルアックスの男だ。やはりあいつも同じ試験会場だったんだ。
試験開始前にあの特徴的な斧が見えたからもしやとは思ったが——でもやはりそれなりの実力者なだけはある。あいつも一次試験通過か。
ん? そう言えばファルコがやつを少し意識しているように見えるが、気のせいだろうか。
やつも少し変わり者だったからな。俺がここに来る前に何か小競り合いでもあったのだろうか——まあいいだろう。
俺はあえて、ファルコにそのことについて聞くのをやめた。
この中に、俺たちが見たあの黒いフードの人物はいなかった。
50人のうち、この試験の内容なら最大25人は通過できるはずなのに7人しかいないって言うのもおかしな話だ。あと、ファルコもここに来てすぐにあの黒いフードを探したみたいだが、一切見当たらなかったらしい——。
この試験は不殺がルールではなかったのか?
トラブルが発生した場合、本部連中は現場にすぐにでも飛ぶことだってできたはずだ。なのになぜ、対応されているような気配が一切ないんだ?
あと、死者が出た場合、試験は続行されるのか?
俺たちは、互いが通過できたという喜びと、俺の中だけの話だがポールたちは通過できたのかと言う心配、それからあの黒フードの人物の謎やギルド本部への不信感など、それら全てが心の中でぐるぐると渦巻いていた。
そんな最中、ついにその時が訪れた。
ゴーーーン————!!!!
「終ーーーーーーー了!!!!」
それは、始まりと同じ大きな鐘の音——祝福の鐘の音だった。
神殿のど真ん中にくっついていた金色の……この場所から鳴り響いていたのか、と、俺はその時納得した。
そして、それと同時に、さっき「転移門」のあった場所の上空に巨大なホログラムのようなスクリーンが現れ、そこにはヴァイオレットの顔が映し出されていた。
——こいつはすごい、ぐるぐる歩き回ってそれを見ていたが、そこに映るヴァイオレットとは常に目が合った。移動した人に合わせ、スクリーンの映像が回って見えるようになっているんだ。おそらく、これは誰の目からもそう見えるんだと思う。最近の技術は進歩しているな——。
そんなことを思っていると、
「——それでは、えー……」
ヴァイオレットが口を開いた。
「……まーとりあえず、第一試験、お疲れさん。——それと、通過おめでとう——」
ヴァイオレットは頭をポリポリとかきながら、半目を開けた状態で言った。しかし、その一言は、俺たちの心に「本当に通過したんだ」と言う実感と安らぎを与えた。
だが、ヴァイオレットは表情を曇らせた。
「あと、遭遇した奴もいるかもしれないが、この試験に厄介なのが紛れ込んだらしい。現に被害者も多数出ている。——ったく、我々も舐められたものだ。そいつに関しては今、本部が総出で捜索中だ」
やはり本部も認識はしていたか。被害も甚大じゃなさそうだ。
「本来、災害以外で死人が出た場合、試験を一時中断し状況判断ののち、後日改めて再会、もしくは完全に中止することが通例だ。しかし、今回に関しては『上』が続行を命じている。——よって、二次試験は予定通り執り行うものとする」
何かしら動きがあるとは思っていたが、まさか通常運転で行くとはな。
黒フードの連中や黒い魔導書の男の目的と今後の動きについては気になるところだが、とりあえず試験が中止にならなくて安心した。
こんなところで、マナを待たせてはいられないからな。
「あ、それと、貴様らの中にはもうすでに気付いている奴もいるかもしれないが、
俺は言われた通り
——確かに消えている。ファルコの名前しかない。
あの試験官、やっぱりちゃっかりしているな——
まあともあれ、今、本当の意味でこの長いようで短かった五日間は、幕を閉じたんだ——。
安堵し、一息ついていると、
「——さて、早速だが次の試験の概要を——」
やれやれ、すぐに現実に引き戻そうとしてくる。
少しくらい休む時間をくれよ——。
「——というのは冗談だ。正式的に二次試験を開始するのはこれより6時間後の18時からとする! 貴様らの魔導書にこの場所——星空神殿を既に登録しておいたから、王都に戻るなりして時間を有効に活用してくれ!」
ああ、でないと死んでしまう。
流石に疲れちまったよ俺も——。
ヴァイオレットの言葉で、俺はその場に崩れ落ちた。疲れがピークに達していたのと、この5日間に及ぶ張り詰めた緊張感により、心身共に疲労していたのだろう。
「ああそれと、くれぐれも、遅刻はしないように。その時点で失格だからな」
ヴァイオレットは、俺に対して言っているように聞こえた。
こうして、俺たちの波瀾万丈な一次試験は幕を閉じた。
祝福の鐘の余韻が、今もまだ頭の中に、ゴーンゴーンと鳴り響いていた。
——————————————————————
これにて第一次試験編完結です!
ここまでお読みいただきありがとうございます!
次回より、第二次試験編が開幕いたします!
選りすぐりの強者たちや黒マントなど、魅力的なキャラクターたちによる物語を乞うご期待!
よろしければ応援やコメント、評価等していただければ作者の励みにつながりますので、よろしくお願いいたします!
二つ星のユウ者 ToM@ @dorakue-0723
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