第16話「時間がない」
遺跡を探索し、食材を集めた俺たちの昨晩の食事は豪勢で、ゆっくり休めた。そのため、体は万全だ。俺たちはそのままゆっくり休み、そして本日を迎えた。
四日目——
やはりおかしい。もはや見張りすらつける必要もないとして、二人とも完全に眠ってしまったが、誰かが来た気配がない。他の受験生は一体どうしてしまったのだろうか——。
そんなことを考えながら、俺たちは今日も森を探索する。
数時間歩き回ったが、誰とも会わなかった。
そして、その足取りで、俺たちはようやく、目的地へと到着した。
「ここだよな?」
「そうそう、ここここ」
そこは、昨日見た遺跡の造りと似た、巨大な神殿のようだった。
全体的には白っぽいような、灰色っぽいような石造りになっており、正面には巨大な大扉が構えている。そして、その扉は、ほんの少しだけ開いていた。
外側から神殿をぐるりと拝見すると、そこは木々に囲まれ、途中巨大な石の壁に阻まれた。それは、試験会場に向かう途中に見たあの石壁と同じものだ。
——おかしいな、地図には載っていなかったのだけれど。
俺たちは、その神殿の扉から、中の様子をチラ見した。
どうやら台座のようなものが二つあり、そこに魔晶石を置くらしい。真ん中にはモニターのようなものが見えたが、あれは一体……。
まあ、まだ俺たちには早い場所なので、と言う理由から、俺たちはその場所を後にした。
だめだ、今日は何の収穫もなかった。
気が付いたら、もう日が落ち始めているし、一体みんなはどこにいるんだ。やっぱり、もう通過してしまったのだろうか。そんな不安が、俺とファルコの脳裏によぎる。
そのまま完全に日が落ちてしまったが、ファルコの「まだ探そう」と言う発言と、現状のヤバさから、俺たちは眠ることなくそのまま森を探索することに決めた——。
五日目——
やばい、結局何も見つけられないまま朝になってしまった。
それに今日は最終日——と思ったら、この数え方だと一日分足りなくなることをファルコに指摘された。確かに、今日はまだ「8月20日」だ。
このミスに対しファルコから、「あんな作戦考えれるのに、面白いところでミスるんだな」と笑われた。しかたないだろう、寝不足なんだから……と言うのは、ただの言い訳だな。
——いや、時間がないことに変わりはない。さすがに焦らなくては。
俺たちは、一睡もしないままそのまま探索を続けた。
ぐるぐる回って昼になった。8月と言う暑い世界で、しかも寝不足と言う、身体に最悪な状況を引きずりながら、判断能力を鈍らせて行動していた。と言うより、今日は小休憩を多くとっているため、実質寝てから活動した方が効率が良かったのかもしれない。
そして、結局俺たちは、昨日来た目的地の神殿入口に到着してしまった。
「——どうする? クロム」
「さすがに人居なさすぎるでしょ——」
人がいなさすぎる。そう、人が居なさすぎるのだ。
丸二日近くかけて探索しているのに、こんなに出会わないのはさすがにおかしい。おかしすぎる。
しかも、青い服の件と言い、ヒドラの件と言い、この試験なんだか変だ。——最悪、青い服の人みたく、他の受験生はみんな誰かにやられたのか——
バサバサバサバサ————————
と、考え始めた時、背筋をなぞるようなゾクゾクっとした寒気に襲われた。
俺とファルコは咄嗟に、神殿入口へとつながる一本道の両脇、その木の枝に身を隠した。
この感覚。覚えがある。
あれは、青い服を見つける少し前の、あの感覚だ。
俺たちは、動けなくなったあの感覚を瞬時に肌で感じ、それと同時に咄嗟に身を隠したんだ。これは俺たちの意識と言うよりも、本能が直感で危険信号をとらえたような、そんな感じに近い。
とにかく、これはまずい。
俺たちは息を殺し、そちらを見た。
——すると、ゆっくりと歩く、黒いフード付きのマントに身を包んだ人間の姿が見えた。手には——黒く光るナイフのようなものが……。まるで、その姿は馬車を襲ったドラゴンライダーを彷彿とさせるかのような——。
それはそのまま、神殿入口まで歩いて行き、そしてその威圧感はその数秒後に消えた。
俺たちはその間、一切声を出すことができず、また、その人物の姿をはっきりと見ることすら敵わなかった。
あれは、怖すぎる。そう、恐怖そのもののような、そんな感じだ。間違いない、あれが、あれが青い服の人物を殺した犯人だ。ヒドラの言う黒いフードとも一致するし、あのナイフも、服に空いた穴と形状的には一致する。
俺たちは、その後少し沈黙し、一切の身動きが取れなかった。
そして、ふと意識が復活し、我に返る。額にはびっしょりと汗をかいているのが分かった。——暑さからくるものではないことは、わかっていただけるかと思う。
俺はそこで冷静になり、状況を整理した。
※ ※ ※
・先ほどの人物が受験生殺しをおこなった可能性がある
・その人物が現在、神殿内に入っていった
・つまり、その人物もまた受験生の可能性がある
※ ※ ※
俺は深く考えた。どうすることが正解なんだ、これは。
これは一種の緊急事態だ。しかし、試験官がこの森に干渉してきている感じはしない。ヒドラと言う部外者と、殺人者。この二つの情報を、運営側に報告しなければならないのでは、と言う考えが浮かぶ。
ああ、こんなことなら、魔導書を通じた「通話」の方法も聞いておけばよかったな——。というより、緊急連絡手段を設けていないあたり、これはおそらく運営側も「報告」されることを否定しているような気がする。——とにかく、この試験、いろいろと問題がありすぎやしないか。
俺は木の陰から、ファルコを見つめた。
ファルコはまだ、戻って来ていないようだ。俺はファルコに「おいっ!」と叫んだ。そしてファルコは意識を取り戻した。
さて、これからどうしたものか。
俺は木の上に座りながら、じっと考える。
その時にはすでに、日が暮れ始めていた——。
そう言えば、ここは目的地の目の前だ、と思い出したかのようにふと思った。そう、さっきも確認したが、先ほどの黒フードのように、受験生はこの道を必ず通るってわけだ。
つまり、ここで張っていれば、石を集めた受験生が残っていればここを通り、そいつから石をいただくことができる。逆に、今の俺みたいに、この場所で張ろうとする他の奴が現れるかもしれない。
まあどの道、ぐるぐる走り回って探すよりも、ここで張っていた方が可能性は高い。——と言うことで、俺はこの考えをファルコに伝え、このままここで張ることにした——。
最終日——
ちょっと寝たかもしれないけれど、夜な夜なずっと張っていた感じ、誰一人としてここを通らなかったな。もう日も上りかけているし、本当の意味で時間がない。どうしよう——ん?
そんなことを考え、木の上で焦っていた俺とファルコは、こちらへこそこそ移動する一人の影を発見した。
★ ☆
やばい、もう時間がない。
初日からあんな強い人に出くわすなんて、マジで運がない。
そこから逃げて逃げて逃げて、気が付いたら目的地から相当離れていて、それで結局誰にも会わずに——。
それにこの森、なんだかひどい臭いが至る所からするし、悲鳴やら絶叫やら、色々と聞こえまくってマジで気分が悪い。
もう一時間もないのに、どうしよう——。
そう思って、取り敢えず目的地に到着することを考えていたら、ふと頭をよぎったことがあった。目的地の前で張れば、誰か来るのではないかって。それで僕は今、誰にも見つからないようにこっそりと、神殿の入り口前の木の陰に隠れようとして——
——な、なんだっ!?
突然目の前が真っ暗になった。
そして、僕の体は押し倒され背中にはなんだか重みを感じた。
あー、他にも同じ考えの人が居たのか——
マジでついてないな——……
★ ★
「——よし、これでオッケーかな」
目の前に通りかかった男を気絶させ、俺とファルコは手持ちのロープでぐるぐる巻きに縛って木に巻き付けた。
申し訳ない、と言う気持ちを胸に秘めながら、俺たちはその男の荷物を漁った。
——あった、あったぞっ!
そこには、俺たちが何日もかけて探し求めていた最後の魔晶石があった。俺たちがこれを取る、と言うことは、この人は失格になってしまう、ということだ。
俺がウジウジしていると、ファルコが「試験だから仕方がない」と言った。確かにな、ここは割り切って——というか、俺がもらい受ける石でもないのに、俺は何を考えているんだ。
——まあいい、早く神殿に向かうとしよう。
俺たちはそのまま神殿へと向かった——。
中は少し埃っぽく、壁には文字が書かれていた。これはあの遺跡と同じ、古代文字?か。
空間は、奥行き10メートルくらい、高さ4メートルくらいの一室で、中央には大きな柱が立っていた。その柱の手前に、後から付けたかのような台座が二つあり、その上にはモニターのようなものが掛けられていた。そのモニターには『台座に魔晶石を置け』と書かれている。
「どっちが先に台座に置く?」と言う流れになり、俺たちはここで、先ほどまで以上の熱戦を繰り広げる。
——じゃんけんポンっ! あいこでしょっ! しょっ! しょっ!
熱戦が繰り広げられ、そして勝利したのは——ファルコだ!
と、何暢気なことやってんの、と、あの人から突っ込まれそうな現状だが、ファルコはそのまま台座に魔晶石を置いた。
台座に置かれた石が、転移の時みたいに光となって消え、そして上にかけられたモニターには「〇」と表示された。
その時、ファルコの体は、先ほどの石のように光始めた。
ファルコがこちらを向く。
「『仲間』って呼んでくれてありがとう。
これからもよろしく——」
そして、ファルコは光となって消えた。
さて、今度は俺の番だ。
ファルコがやったように、台座に石を置いた。
そして、石はそのまま光となり——上に吊るされたモニターには————
——————『×』——————
————は?
俺は一瞬困惑し、目をこすってからもう一度見直した。——やはり、『×』だ。嘘だろ、何かの間違いじゃ——。
そう言う風に、俺が動揺していた時だ。
目の前が光始め、そこに見たことのある女性が突如として現れた。
「——まさか、貴様が『不正』を行うとはな……」
俺はただ、呆然とすることしかできなかった——
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