第弐拾弐話 せめて、年末らしく

 令和3年12月31日 1948現在、第弐拾弐話、執筆開始。


 第弐拾弐・・・話である。第拾九話ではない。第弐拾話でもなく第弐拾壱話でもない。

 この年の瀬、三話分すっとばして第弐拾弐・・・話を書いているのである。なぜかといえば、ネタを溜め込んでしまい、消化していたらとてもではないがタイムリーな話を公開できないゆえ。なぜネタを溜め込んだかと言えば、十二月半ばには書き終えている予定だった短編が書き終わっていないから。風が吹けば桶屋が儲かり、小説が停滞すればエッセイが飛ぶ。

 要は第七話『人の書きしもの』で前述した通り、卒論を特急列車内で製本していた時となんら進歩がないのだ。でも大丈夫、カクヨムの高機能ならば第拾九話、第弐拾話、弐拾壱話を挿入できるはず(多分)。かよう私が足踏み、あるいは逆走していても、周囲が進歩してくれる優しいセカイ(迷惑)。


 大晦日の献立について数日前から考えていた。第壱話、第四話、はたまた他の回でもさんざん書いていたが、私はアレルギー39項目ほとんどに引っかかっている。もちろん数値にばらつきはあるのだが、胡麻は今後一切口にしないことを誓った。そしてもう一つ、決別した食品がある。蕎麦だ。つらい別れだが、健康には代えられない。

 さて、蕎麦が駄目なら、大晦日何を食すか。決まっている、うどんである。奇しくもその日は家人全員が揃うので、食事当番の曜日ではなかったが買って出た。まあ、私の事情に合わせるのだから当然である。


 うどんには買ってきたかき揚げを添え、あとは年末年始、小出しにして一品作る手間が省ける料理・・・・・・

 


 ──アーレ・キュイジ~ヌ! 筑前煮(by鹿賀丈史 若人にはわからんネタかもと思わんでもない)


 

 筑前煮、すなわち根菜をメインとした野菜と鶏肉などを甘辛醤油で味付けした煮物である。

 実はこれ、以前にもホットクックにて錬成したことがある。なれど、今、ざっと見返したところ、エッセイに取り上げていない。さては──失敗してふてくされたか。

 そう、前に錬成した時はちょっとだけ・・・・・・やらかした。

 でもやらかしたのは私ではない。ホットクックである。

 かなり忠実にレシピ通りに鍋に材料を放り込み、自動調理メニューコマンドを押した。あとは、『ほっとくクック』で出来上がり~のはずだったのだが。


 ・・・・・・やわい。


 レンコンが煮過ぎでシャキシャキとした歯触りを失い、ざらりとした芋っぽい食感になってしまったのだ。これはレンコンの種類もあるので、一概にホットクックばかりが悪いとは言えないのだが、他の件(第八話、第九話、第拾六話参照)もあり、私は彼を疑いの目で見ていた。

 もう別れちゃえばーというイマジナリージョシトモの声が聞こえなくもないが、失敗が予測できるのならば、手は打てる。

 さて、今回の材料は、鶏もも肉、レンコン、ゴボウ、ニンジン、大根、干し椎茸(スライス・なぜなら安い)。レンコンはスーパーで買うとかなり高くつくが、我が地元はレンコンの産地であり、産地直売所では安く手に入る。手のひらサイズ五本で100円也。

 コンテスト用の短編あと五百字で収まるわけないじゃん!と執筆に嫌気が差し、本日は早々に台所に降り立った。冷蔵庫を開けて材料を取り出し──ない。

 昨日の内に購入して冷蔵庫に入れておいたかき揚げが、半分ない。やられた。

 大晦日当日、スーパーに買い出しに行くのは避けたく、早々に買っておいたのだが、父に食べられてしまった。これは私の落ち度だった、薄々予感しながら今晩はうどんと伝えてあるし、うどんにかき揚げは鉄板、さすがに食べないでしょ~と楽観視してしまったのだ。

 無いものはない、なら代打を出すまでと、私は卵三つと水をホットクックに入れ、最も使用頻度が高い〈温泉玉子〉コマンドを押した。


 と、チャラリラ~といつもと違う軽快な音が鳴る。


「自動メニュー百回目です、たくさん使ってくれてありがとう~」


 ・・・・・・やかましいわ!

 と思わず叫んでしまったのも、むべなるかな。段取りは崩れ、一度執筆に戻った。 

 四十分後、残り五百字は五百字のまま、温泉玉子はできあがる。

 

 気を取り直し、レッツ筑前煮。

 とはいっても、目新しいことをするわけではない。レンコンとゴボウはたわしで泥を落として切って水にさらし、他の材料も全て一口大に切り、内鍋に入れ、調味料(レシピの胡麻油は米油に差し替え)を入れる、ただそれだけ。今日は鶏肉を事前に切って下味をつけておいたのでさらに楽だった(バターチキンカレーと折半した鶏肉である)。

 しかし、ここで私の悪い癖が出た。アレンジである。前回はレシピに忠実に錬成してちょっとだけ・・・・・・失敗した。じゃあ、私だって、ちょっとぐらい遊んだっていいじゃない、と。イマジナリージョシトモもやっちゃえやっちゃえと背中を押してくれる。

 基本的にホットクックは「水を使わない調理」ができ、野菜などの食材に含まれる水分を活用する。『食材の風味を活かし、栄養の流出をおさえながら、煮物や野菜のゆで調理ができます』と取扱説明書に明記してある。

 でも、私的には、煮物はツユダクのが美味しいと感じるのである。ということで、ワンカップ水投入。

 あとは自動調理メニュー〈筑前煮〉をピ。三十五分後には出来上がり──で、前回は煮え過ぎだったのである。私はスマホのタイマーを二十分でセットした。

 

 さて二十分後、一時停止して蓋を開ければ、なかなかいい感じ。けれど鶏肉にほんのり赤味が残っていてまだ味見するにも早い。あと十分待って、規定より五分早く止めようと考える。

 そして執筆に戻り・・・・・・いきなり「できあがりました、仕上がりを確認して下さい」の声が響いた。体感的には三分ほどしか経っていない。執筆に熱が入り、時間を忘れた? いや、だらだらスマホ眺めていただけだし。いやいやいやいや。

 慌てて蓋を開ければ、鶏肉の赤味は消え、見掛け上、出来上がっている。

 して、レンコンの仕上がりは。一切れ、口に放り込み・・・・・・・・・・・・び、びみょう。


 ううん、やっぱりもさっと感があるけど、まあ、許容範囲かなあ、ぐらいの。


 実は、ホットクックの自動調理メニューでは時間の誤差がちょいちょいある。メニュー集では調理時間約○○分と書いてありながら、その倍かかるとか(あくまで目安なのでいちゃもんをつける気はない)。しかし、長くなるパターンはあれど、短くなるのは初めてで戸惑った。いや、やっぱり執筆に熱中するあまりに時間を忘れてしまったのかもしれない。うん、そうに違いない。そうであれば、みんな幸せ。埋まらない五百字は残るけれど。


 筑前煮はタッパーに移し、冷まし、味を染み込ませた。数時間後、レンコンは出来たてよりもしゃっきりしたように感じた。ツユダクなのも良い。


 かけうどん(つゆはお鍋に入れて卓に出して各自かける)、かき揚げ(少量)、温泉玉子、筑前煮。青物として小松菜を茹でるつもりが面倒になってやめた。浅漬けを大量錬成したがまだ漬かってないので、明日以降。


 お取り寄せや高級食材、一子相伝のレシピなどの特別はない。

 それでも、せめて、年末らしく。

 猫をはべらせ、綿入れ羽織り、コタツに入って、令和3年12月31日2343『猫と私とホットクック』第弐拾弐話執筆完了。

 皆様におかれましては、あたたかなお年を、健やかな新年を。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る