第拾七話 十一月の回想者


 やらかしな人間は、ありえないものが実はきらきら光るのを知っている。


 土曜日、青い空、清々しい風、早起きしてお洗濯。今日明日は勤務から解放される、あれもしたい、これもしたい。

 洗濯カゴから引き出したズボンは濡れてずっしり重い。パンッと広げた瞬間、秋の陽光にキラキラ水晶のごとく輝き弾けたのは・・・・・・吸水ポリマー!

 またも、生理用紙ナプキン(未使用)をポケットにいれっぱなしで洗濯機を回してしまった。あーあーあ。

 私のやらかしはしょっちゅうであり、慌てることなくぐずぐずのポリマーをポケットから掻き出し拭き取り(水道に流すと詰まる恐れがある)、そのまま干した。

 先日、ツイッター上でもかなりなやらかしをしたことは記憶に生々しく(親切なフォロワーさんのおしらせにより事なき得た)、思い出しては身悶えしている。昨日は通勤鞄の中からありえない代物(自主規制)を一週間の時経て発掘し、反省した。

 他にもあれやこれや、やらかし回想録メモワールは色褪せるどころか、日々分厚くなっていた。

 


 さて、久しぶりのエッセイである。

 六月から更新が止まっていたのは、皮膚炎が経過良好であり、代償行為としての料理やらエッセイ書きをしなくて良くなったからである(第壱話参照)。加えてまあ、夏場は暑いし、面倒だし、かったるいし、ワクチン接種だし、新型感染症対応で連勤だし、体調良くなったのに小説は書き進まないし、などなどで料理から遠ざかっていた。

 では夏から初秋にかけて、ホットクックを使っていなかったのかとといえば、そうでもない。毎週末、稼働していた。毎週末、同じメニューを錬成するために。

 そう、私はこの一夏ひとなつ、ひたすら同じ料理を作り続けていたー──バターチキンカレーである。

 以前にもカレーは錬成していたが、此度は市販のルーを使用しない、カレー粉を投入する本格派っぽい代物だ。

 まず手羽元一パック(安ければ二パック)、プレーンヨーグルト、チューブにんにく、カレー粉大さじ一をビニル袋に入れて揉み込み一時間ほど冷蔵庫で寝かす。そして内鍋に、トマト缶詰、タマネギみじん切り、カレー粉大さじ一を入れ、ビニル袋の中身も投入。あとは『無水カレー』コマンド選び出してボタンをピ。一時間後にバターと牛乳を入れ、塩胡椒で味を調えて完成である。

 もちろん、鶏もも肉でもできるが、鶏皮があまり得意でなく剥がす作業が加わってしまうので、手羽元の方が楽なのだ。

 手羽元は、煮れば煮るほど柔らかく、正体を喪くし、自然と身と骨が別れゆく。

 骨付き肉は、猫にかっ攫われた経験上なるたけ避けていたのだが、よくよく煮込めば、よそう時には骨を避ければ良い。

 蓋を開けると、茶色というよりも赤茶のスープからスパイシーな香りが立ち昇る。鶏の旨味にバターのコクが加わり、カレー粉と塩胡椒だけのシンプルな味付けなのに驚くほど深みがあり、白米にもナンにもよく合う。ちょっと薄いなと思った時はホットクックの煮詰め機能で水分を飛ばせば大丈夫。

 手軽なので毎週土曜日に仕込んで、日曜の昼食も二日目のカレーということを繰り返していた。


 さて、カレーに合わせて作り続けていたメニューがもう一品。夏野菜の焼き浸しである。カレー作りと並行しているので、こちらはホットクックではなくフライパンを使用。

 近くにある野菜直売所、仮称〝D楽〟でやたら安い夏野菜をぽいぽい買い込み、油多めで焼き、タッパに入れて、めんつゆかけて味を馴染ませ、冷やしていただく。

 野菜はなんでも良い。ナス、ニンジン、インゲン、ジュウロクササゲ、ピーマン、トマト、カボチャなどなど。安いからついつい買い過ぎてしまう。我が家の一番大きなフライパンでもいっぺんに焼けないので、ナス、ニンジンから始まり、焦げ目が付いたらタッパに放り込み、インゲン、ジュウロクササゲと順々に足していく。その際、油もたらたら追加。夏野菜は油と相性が良い。生命力を放つようなつやつや夏野菜たちは一層輝きを増す(この際、生命力とカロリーは打ち消し合ってゼロカロリーになる、はず)。

 熱々の野菜を耐熱タッパに入れていくのだけど、私は同時に氷も投入していた。めんつゆがそも濃縮4倍であり、早く冷蔵庫に入れるために。

 最後にカットしたトマトと青じそを乗せて、めんつゆを回し掛け、粗熱がとれたら冷蔵庫へ。たまに急いでいる時、30分だけのつもりで冷凍庫に入れ、数時間後に慌てて救出することもしばしば。

 赤、緑、黄、紫、目にも鮮やか、ぽりぽりぱりぱり歯ごたえ高らか、ひんやり口当たりも良い。

 そうして私はバターチキンカレー&夏野菜焼き浸しを延々三か月ほぼ毎週錬成していた。


 野菜の焼き浸しは我ながらカラフルで見目良く、食欲をそそる。つまりは、ばえる。土日分の野菜を補うべく、大量錬成するので日曜の朝食に(兄がホームベーカリーで焼いた)手作りパンに挟むというステキキュウジツを演出することもしばしば。


 とある日曜朝、空腹を抱えてタッパーを開けて・・・・・・私は野菜以上に光り輝くものを見つけた。

 昨夜は野菜に埋もれて気付かなかった。本来、そこに在るべきでない、それ。ゴムで束ねてあった青ジソの下部分。昨夜の記憶では捨てたはずの、つまりは、生、ご、mい・・・・・・

 

 私は即座にスマホを構えて写真を撮った。

 己の雑さ加減に嫌気がさしながら、その一方で、ネタになると歓喜しながら。

 

 

 十一月も半ば、季節はそろそろ冬の足音を聞く。ぼちぼちホットクックネタも増えてきており、二拾六話までは続ける所存。最近、新規で読んでくださる方もちらほら、嬉しいやら申し訳ないやら。

 今年を振り返れば──私はこの振り返りの作業が苦手である。毎年、ちっとも目標をクリアできない、というか、そもそもきちんと目標を立てていないゆえ。

 だけれど、今年は、一生治らないかもと悲観していた皮膚炎がまあまあ治ったので、まあまあまあ良かった一年だと思う。

 

 そういえば、野菜の焼き浸しはエッセイに先んじて、ちょっと前にTwitterに写真を掲載したのだが、シソの下部分に気付かれまして、フォロワーさん、すごいなと感じ入った。

 ええと、そんなこんなで今年一年お付き合いくださりありがとうございます(まだ進行形)、来年もどうぞよろしくお願い致します、良かったらお付き合いくださいませ〜

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