第拾六話 すの入る卵、そして


 絶対にうまくいくと思っていたことが失敗する、というのは往々にしてある。 

 公募とか、コンテストとか、賞レースとか。

 なんでわかんないかなあ、もしかしたら届いてないんじゃないの、まさか私ブラックリストに載った出禁とか、いやいや傑作過ぎて嫉妬のあまり潰された、あるいは#$&`+*?><@:,[3#$★+*@!なのでは?


 と、陰謀論を捏造するのは毎度のこと。落選の数だけ陰謀はあり、陰謀は嫉妬と屈辱を糧に増殖を続ける。

 うん、いや、違う、己の暗部やら恥部やらをさらすのではなく、料理の話だ、ホットクックだ。

 

 さて、タイトルからお察しかと思われるが、今回は茶碗蒸しである。第拾四話で【蒸す】機能スキルを手に入れたのだから、ここで使わない手は無い。蒸し料理の、スタンダード、クラシック、プレジデントに挑戦である。具材にこだわらなければ、家にあるものですぐに錬成できる手軽さも嬉しい。

 レシピはメニュー集に掲載されており、そもそもホットクックに【茶碗蒸し】自動調理メニューがあるのだ。分量さえ間違えなければ、まず、失敗はない──そう思っていた時期が私にもありました(枕詞の対になる修辞法ってないだろうか。「そう思っていた時期がありました」みたく、特定の語句(?)の下についてこれを修飾し、また語調を整える語句。枕の逆だから・・・・・・靴下詞。ちょっとかわいい)。        

 

 何気に茶碗蒸し初挑戦である。白米のおかずになりにくいし、副菜としては手間がかかるイメージ。買うか、外食するかで今まで作ろうとは思わなかった。かよう、ホットクックは新たな扉を開けてくれる。

 本日の具材は、冷蔵庫を漁り、干し椎茸(スライス)、枝豆(冷凍)、かまぼこに決定。椎茸はレシピには「水につけてもどし、しょうゆ、砂糖で味付けしたもの」と書いてあったが割愛。

 卵液とだし汁を1:4にして味付け、器に具材を入れて卵液を漉しながら注ぎ、内鍋に水と蒸し板をセット、【茶碗蒸し】メニューをピ。以上である。わりと簡単。ちゃんと器が内鍋に入るかも調査済み。これでは失敗するはずがない。今回はネタになんないじゃ~ん、とほくそ笑みつつ、25分。



 結論だけ、書く。 

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した(by Steins;Gate)



 え、ええー、これ失敗するの、失敗するんだ。どっきりなの、驚いたよ、ある意味大成功ですよ、シャープさん!?

 〝す〟入りまくりである。豆腐や卵などを煮すぎたためできる多くの泡のような穴、す。漢字で書くと〝鬆〟。今回、四つの茶碗蒸しを錬成したが、内鍋の容積の問題でひとつだけ小ぶりなガラス器で錬成した。茶碗蒸し、上から見るか、横から見るか──どこから見ても、す、す、す、す、す、す、鬆!


 慌ててスプーンを突き立てる。固まっているが、やたら水分量が多く、おがくず状の卵がだし汁に浮く。舌触りは思ったほど悪くない。でも〝食べる〟というよりも、〝飲む〟という感覚の方が近い気がする。

 味は・・・・・・美味しい。出来たて作用もあろうが、多分、今まで食べてきた茶碗蒸しの中でも一番好みに合っている。だし汁は、ほんだし目分量と干し椎茸の戻し汁を合わせたもので、滋味深い。美味しい、美味しいけど・・・・・・いかんせん、ビジュアルがひどい。

 別段、誰かにふるまうわけでもなし、家族内消費なのだから良いのだけれど、茶碗蒸しの成否はやはり〝す〟に左右されよう。

 がっくりして、私は美味しいけれど失敗した茶碗蒸しを完食した。



 ・・・・・・解せぬ。(大体)公式レシピ通りに錬成したのに、なぜ失敗したのか。

 翌日、私はまだ考えていた。

 〝す〟が入るということは温度が高すぎるということ、つまり【蒸す】では温度調整ができないのだ。なれどホットクックには【発酵・低温調理】カテゴリーがあり、温度と時間を設定できる。第弐話で書いた通り、黄身と白身の凝固温度は各70℃、80℃であり、80℃以上かつ沸点以下の温度を保てば〝す〟はできないはず。

 そういえば、兄はプリンを湯煎錬成している。〝す〟は入っていない。私は思い立ち、「プリン作る時、湯煎何度で何分?」とLINEにて兄に尋ねるが、返信はない(仕事中)。

 くそ、歯噛みしつつ台所に立つ。そして月曜夜九時過ぎ、再度の茶碗蒸し錬成を開始した。

 【蒸す】機能もあれだが、メニュー集に載っていた卵とだし汁の割合1:4もどうだろう、ちょっとゆるすぎるのではないか。ネットでレシピを検索・検討して此度は1:3を採用。具材は干し椎茸と枝豆のみ、かまぼこは品切れだった。器にはプリンやゼリーを錬成する際に使用するジャムの空き瓶をチョイス。情緒もへったくれもないが、湯煎をする際に水が入ることがなくうっかりさんも安心。さらに、上、下、横からも確認できる優れもの。

 空き瓶に卵液を漉し注ぎ、内鍋に三つ並べて、水を張る。温度と時間はこれもいくつかのレシピを比較検討して85℃の12分に設定──いざ、尋常に勝負!


 そして12分後、待ち構えてホットクックを開け、あつ、あつ、あつっ、と小瓶を取り出す。側面から眺める限り〝す〟は見当たらない。傾けると、表面は斜めになるが、流れ出しはしない。ちゃんと固まっている。蓋を開けて上から見れば、なめらかな黄色の海に枝豆と干し椎茸が顔を覗かせていた。

 早速、木匙でひとすくい。卵色の大理石のような輝きを放ち、同時にふるふるやわくもろく溢れ落ちてしまいそう。慎重に口に運び──舌の上で溶けた。

 ・・・・・・おお、茶碗蒸しだ。まごうことなき茶碗蒸し。正真正銘茶碗蒸し。真実一路茶碗蒸し。

 85℃12分湯煎は大正解。だしと具材を変えれば、中華風、洋風にもアレンジできるだろう。

 

 絶対にうまくいくと思っていたことが失敗する、というのは往々にしてある。 

 メーカー様の至高レシピがよもやよもや間違っているなんて思いもせず。いや、〝間違っている〟ではなく、〝合わなかった〟だけ、言い方大事★

 ともかく一度の失敗にめげず、PDCAだがOODAだかよくわからねど、サイクルを回し続けたのは偉かった。


 話は変わるが、この半年以上私を悩ませ続けてきた皮膚炎が快方に向かいつつある。今までも寛解・憎悪を繰り返してきたのだけれど、最近ここを我慢すれば治り目になる、という感覚が掴めてきた。希望が見えるのはありがたい。

 そうなると頭も回り始めるのか、短編コンテスト用のネタが降ってきた。これ賞獲っちゃうんじゃね、絶対うまくいくんじゃね、とまだ書き始めてもおらねど(いないからこそか)、謎の自信が湧き出でる。

 さて冒頭に戻るかどうか──多分、これこそめげずに回し続けるべき案件なのだろう。成功するには失敗から学ばねばならず、久しく挑戦すらしていなかったから、まずは失敗しとかなきゃならない・・・・・・? あれ? 失敗するために書くの? いや、書きたいから書くのだけれど、できれば楽して受賞したいなーんて・・・・・・とりあえずは図書館へ赴き、調べ物をする所存。

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